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第四章 偏食の騎士と魔女への道
88.ヘアメイク
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「えー! またやり直すの?」
ミーティの部屋から聞こえたのはリックの叫び声である。
ドアが開いているので覗いて見ると、ドレッサーの前に座ったミーティが髪飾りを外しているところだった。
「どうしたの?」
「レイさん……ミーティがやっぱり編み込みにするって言うんです……」
どうやらミーティの髪型が決まらないらしく、専属ヘアメイクのリックは悪戦苦闘を強いられているようだった。
「だってハーフアップは子どもっぽいなんてリッキーが言うから!」
「違うよ! 子どもらしくて可愛いって言ったんだよ!」
「あたしは子どもらしくしたくないの!」
キーッと目を吊り上げたミーティが言い、俺は苦笑して廊下へと退散した。
今日はカンパルアラ城の祝宴に、フロッキース全員が招待されている。
招待状の一番上にはもちろん店主のフロッカーさんの名前があり、そのすぐ下にはミーティの名前が書いてあって、俺とリックとエルダさんは顔を見合わせた。
差出人はもちろんハロルド兵士団長である。
「おい、そろそろ出かけるぞ。早くしなさい」
階下でフロッカーさんの声がする。
「はぁい! 今行きます!」
慌てて返事をして、俺は仕立てたばかりの一張羅のジャケットに袖を通した。
似合うとは言い難いが、いつもよりは少しきちんとして見えるだろう。
そして俺の胸ポケットには、ミーティに渡さなければならないものがある。
ポケットを探りながら、俺が下へ向かおうとした時だった。
「……まったく、相変わらず騒がしいおうちだこと」
「え……?」
軋む階段を上がってきたのは——粉問屋の娘のローザさんだった。
「お久しぶり。西の洞窟が通れるようになったから顔を出しに来たのよ、でもまさかお城へのお呼ばれの日だったとはね」
兵士団が戻ってきてから数日で、西の洞窟は土砂崩れや道の整備を終えてすでに一般の人々へも開通されていた。
洞窟の向こうの町に住むというローザさんは、だからカンパラに来られたのだろう。
「あ……そ、その節はありがとうございました、おかげさまでハロルド兵士団長にも気に入ってもらえるパンになって」
俺が辿々しく挨拶すると、ローザさんはそんなことをお構いなしにミーティの部屋へ入っていく。
「リッキー、遊びに来てあげたわよ。今日もお姫様はご機嫌ナナメかしら?」
「ローザ! ローザからも何とか言ってくれよ! ミーティはハーフアップでも可愛いよね? 編み込みじゃなくていいよね?」
恐る恐る部屋を覗くと、そこにはブラシとリボンを持ったリックがお手上げだとばかりに天を仰いでいた。
「……ミーティ、今日はシックなドレスなのね。似合ってるわよ」
「あら、ローザじゃない。あなたからもリッキーに言ってちょうだい、このドレスには絶対に編み込みの方が似合うって」
俺はまたミーティとローザさんとが激しい罵り合いを始めるのではと思ったが、意外にもミーティは淡々と鏡の中のローザさんに言った。
「……そうね、リッキーそこをどいて。あたしがやるわ、せっかくだから編み込みをツイストアップにしましょう。大人っぽくてドレスにも合うと思うわ」
ローザさんはリックの手からブラシとリボンを奪い、ミーティの栗色の髪に触れた。
「ええ? ミーティ、僕がやらなくていいの?」
「……ごめんなさいね、リッキー。今日は大切な日なの、ローザにお願いするわ」
そう言って大人しくローザさんに髪を預けたミーティに驚いた俺とリックは何度も顔を見合わせた。
「……そんな」
「……どういうことだよ、ミーティがローザさんに……」
「二人とも、いつまでレディの身支度を見てるのよ。ドアを閉めてちょうだい」
ついに俺とリックは締め出されてしまい、ミーティの用意が終わるのを廊下で待たされることになった。
「……参ったな。まだネックレス渡してないのに……って、何してんの、リック」
「シーッ! あの二人が何話すか気になるじゃないですか……」
リックはミーティの部屋のドアに耳を当てている。
悪趣味だが、気にならないと言えば嘘になるので俺も同じくそうしてみた。
ミーティの部屋から聞こえたのはリックの叫び声である。
ドアが開いているので覗いて見ると、ドレッサーの前に座ったミーティが髪飾りを外しているところだった。
「どうしたの?」
「レイさん……ミーティがやっぱり編み込みにするって言うんです……」
どうやらミーティの髪型が決まらないらしく、専属ヘアメイクのリックは悪戦苦闘を強いられているようだった。
「だってハーフアップは子どもっぽいなんてリッキーが言うから!」
「違うよ! 子どもらしくて可愛いって言ったんだよ!」
「あたしは子どもらしくしたくないの!」
キーッと目を吊り上げたミーティが言い、俺は苦笑して廊下へと退散した。
今日はカンパルアラ城の祝宴に、フロッキース全員が招待されている。
招待状の一番上にはもちろん店主のフロッカーさんの名前があり、そのすぐ下にはミーティの名前が書いてあって、俺とリックとエルダさんは顔を見合わせた。
差出人はもちろんハロルド兵士団長である。
「おい、そろそろ出かけるぞ。早くしなさい」
階下でフロッカーさんの声がする。
「はぁい! 今行きます!」
慌てて返事をして、俺は仕立てたばかりの一張羅のジャケットに袖を通した。
似合うとは言い難いが、いつもよりは少しきちんとして見えるだろう。
そして俺の胸ポケットには、ミーティに渡さなければならないものがある。
ポケットを探りながら、俺が下へ向かおうとした時だった。
「……まったく、相変わらず騒がしいおうちだこと」
「え……?」
軋む階段を上がってきたのは——粉問屋の娘のローザさんだった。
「お久しぶり。西の洞窟が通れるようになったから顔を出しに来たのよ、でもまさかお城へのお呼ばれの日だったとはね」
兵士団が戻ってきてから数日で、西の洞窟は土砂崩れや道の整備を終えてすでに一般の人々へも開通されていた。
洞窟の向こうの町に住むというローザさんは、だからカンパラに来られたのだろう。
「あ……そ、その節はありがとうございました、おかげさまでハロルド兵士団長にも気に入ってもらえるパンになって」
俺が辿々しく挨拶すると、ローザさんはそんなことをお構いなしにミーティの部屋へ入っていく。
「リッキー、遊びに来てあげたわよ。今日もお姫様はご機嫌ナナメかしら?」
「ローザ! ローザからも何とか言ってくれよ! ミーティはハーフアップでも可愛いよね? 編み込みじゃなくていいよね?」
恐る恐る部屋を覗くと、そこにはブラシとリボンを持ったリックがお手上げだとばかりに天を仰いでいた。
「……ミーティ、今日はシックなドレスなのね。似合ってるわよ」
「あら、ローザじゃない。あなたからもリッキーに言ってちょうだい、このドレスには絶対に編み込みの方が似合うって」
俺はまたミーティとローザさんとが激しい罵り合いを始めるのではと思ったが、意外にもミーティは淡々と鏡の中のローザさんに言った。
「……そうね、リッキーそこをどいて。あたしがやるわ、せっかくだから編み込みをツイストアップにしましょう。大人っぽくてドレスにも合うと思うわ」
ローザさんはリックの手からブラシとリボンを奪い、ミーティの栗色の髪に触れた。
「ええ? ミーティ、僕がやらなくていいの?」
「……ごめんなさいね、リッキー。今日は大切な日なの、ローザにお願いするわ」
そう言って大人しくローザさんに髪を預けたミーティに驚いた俺とリックは何度も顔を見合わせた。
「……そんな」
「……どういうことだよ、ミーティがローザさんに……」
「二人とも、いつまでレディの身支度を見てるのよ。ドアを閉めてちょうだい」
ついに俺とリックは締め出されてしまい、ミーティの用意が終わるのを廊下で待たされることになった。
「……参ったな。まだネックレス渡してないのに……って、何してんの、リック」
「シーッ! あの二人が何話すか気になるじゃないですか……」
リックはミーティの部屋のドアに耳を当てている。
悪趣味だが、気にならないと言えば嘘になるので俺も同じくそうしてみた。
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