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第四章 偏食の騎士と魔女への道
95.怪しい二人組
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「メロンパン上がりましたー!」
翌日からは大忙しだった。
店の前に“メロンパンあります。兵士団御用達”のチラシを貼り付けただけなのに、店を開ける前から外に長い行列ができた。
俺はとにかくさっさとメロンパンを焼けとフロッカーさんから言われ、朝食を取る時間もなかった。(気の毒がったリックがパンを捏ねる俺の口に食べやすく千切ったパンを運んでくれたが。)
メロンパンは四種類あるが、いきなり全種類を作ることはあまりに負担が大きいので、まずはプレーンだけをひと月ほど販売することにした。その後、レモンや紅茶、岩塩のものを順次、余裕のある時に出そうということになったのだが、これには一つ問題もあった。
「おいおいおい! じゃあ紅茶の味もレモンの味もないっていうのか?」
「シーッ! デカい声出さないでください! ハルさんっ!」
フード付きのマントを羽織って変装をしたその二人組は、誰がどう見ても怪しげな様子で店の中へ入ってきた。
「……あの、ハロルド兵士団長?」
「おお、レイ!」
「っ、返事しちゃダメですよハルさん! お忍びで来てるんですから!」
二人組はもちろん、ハロルド兵士団長とショーン曹長である。
「お忍びで……そんな怪しい格好します?」
「仕方ないだろ! この人が買いに行くって聞かないんだよ! なあ頼む、とりあえず早急にメロンパンを包んでくれ、早く連れ帰らんと騒ぎになる」
ショーン曹長はハロルド兵士団長の口を押さえながら(後で怒られるんだろう。)早口で言い、カウンターのフロッカーさんに詰め寄った。
「……もうバレとると思うが」
「まったくその通りだ。 おまえが騒ぐからだぞ、ショーン。俺はメロンパンが買えればよかっただけなのに……しょうがない奴だな」
「だから使いを出すと言ったのにあんたがついてくるからでしょうが!」
「俺は焼きたてが食べたいんだよ、おまえの下手くそなリベイクはもうたくさんだ。せっかく普通に売ってもらえるようになったんだから今日くらい良いだろ」
ハロルド兵士団長は言いながらカウンターにメロンパン五つ分の銀貨を置いた。
「……悪いが今日は一人一つだ。お忍びで来てるなら特別扱いはできんよ」
フロッカーさんは眉を顰め、眼鏡の上から上目遣いに二人を見る。
「っ、なんだと? レイ、本当か?」
食ってかかろうとしたのはショーン曹長だが、ハロルド兵士団長がその腕を掴む。
「お、俺に聞かないでくださいよ……オーナーが言ってるんですからその通りです。お二人で一つずつ、合わせて二つでよろしいですか?」
「ああもちろんそれで結構だ。おいショーン、今おまえがいてよかったと生まれて初めて思ったぞ。一人一つしか買えないうちは毎日一緒に来い」
「……お役に立てて光栄です」
うんざりした様子で言うショーン曹長に思わず俺が吹き出すと、笑っていないで早く包めと凄まれた。
こうして店の中で初めて会った時を思い出すと、俺もずいぶん二人に慣れたものだ。
「ところで、ミーティは何してる?」
メロンパンを包み終わって手渡すと、ハロルド兵士団長が小さな声で俺に尋ねた。
「あ……呼んできますか?」
「いや、いい。リックを城の訓練兵に推薦しようと思ったんだが、彼女の許可を得てからにしようと思ってな。また来るよ」
それはミーティでなく父親のフロッカーさんに聞くべきでは、と言おうとした俺を制したのは、当のフロッカーさんだった。
「……ミーティが許せばわしは何も言わんよ。ただ……考えることは山ほどある」
「それって……」
店の後継者の問題だろうか。
俺が口出しできる問題ではないが、せっかく新しいパンもいくつも作れて(柔らかい生地も作れるようになったし)店がどんどん繁盛している時に、リックの手がないことは色々と厳しそうなことはわかっていた。
「……そうだ、フロッカー殿。近々、城から正式に文書を出します。報奨金の件です」
去り際、ショーン曹長がフロッカーさんへ小声でそう告げた。
金と人手。
俺は二人を見送りながら、避けては通れない問題について考えていた。
翌日からは大忙しだった。
店の前に“メロンパンあります。兵士団御用達”のチラシを貼り付けただけなのに、店を開ける前から外に長い行列ができた。
俺はとにかくさっさとメロンパンを焼けとフロッカーさんから言われ、朝食を取る時間もなかった。(気の毒がったリックがパンを捏ねる俺の口に食べやすく千切ったパンを運んでくれたが。)
メロンパンは四種類あるが、いきなり全種類を作ることはあまりに負担が大きいので、まずはプレーンだけをひと月ほど販売することにした。その後、レモンや紅茶、岩塩のものを順次、余裕のある時に出そうということになったのだが、これには一つ問題もあった。
「おいおいおい! じゃあ紅茶の味もレモンの味もないっていうのか?」
「シーッ! デカい声出さないでください! ハルさんっ!」
フード付きのマントを羽織って変装をしたその二人組は、誰がどう見ても怪しげな様子で店の中へ入ってきた。
「……あの、ハロルド兵士団長?」
「おお、レイ!」
「っ、返事しちゃダメですよハルさん! お忍びで来てるんですから!」
二人組はもちろん、ハロルド兵士団長とショーン曹長である。
「お忍びで……そんな怪しい格好します?」
「仕方ないだろ! この人が買いに行くって聞かないんだよ! なあ頼む、とりあえず早急にメロンパンを包んでくれ、早く連れ帰らんと騒ぎになる」
ショーン曹長はハロルド兵士団長の口を押さえながら(後で怒られるんだろう。)早口で言い、カウンターのフロッカーさんに詰め寄った。
「……もうバレとると思うが」
「まったくその通りだ。 おまえが騒ぐからだぞ、ショーン。俺はメロンパンが買えればよかっただけなのに……しょうがない奴だな」
「だから使いを出すと言ったのにあんたがついてくるからでしょうが!」
「俺は焼きたてが食べたいんだよ、おまえの下手くそなリベイクはもうたくさんだ。せっかく普通に売ってもらえるようになったんだから今日くらい良いだろ」
ハロルド兵士団長は言いながらカウンターにメロンパン五つ分の銀貨を置いた。
「……悪いが今日は一人一つだ。お忍びで来てるなら特別扱いはできんよ」
フロッカーさんは眉を顰め、眼鏡の上から上目遣いに二人を見る。
「っ、なんだと? レイ、本当か?」
食ってかかろうとしたのはショーン曹長だが、ハロルド兵士団長がその腕を掴む。
「お、俺に聞かないでくださいよ……オーナーが言ってるんですからその通りです。お二人で一つずつ、合わせて二つでよろしいですか?」
「ああもちろんそれで結構だ。おいショーン、今おまえがいてよかったと生まれて初めて思ったぞ。一人一つしか買えないうちは毎日一緒に来い」
「……お役に立てて光栄です」
うんざりした様子で言うショーン曹長に思わず俺が吹き出すと、笑っていないで早く包めと凄まれた。
こうして店の中で初めて会った時を思い出すと、俺もずいぶん二人に慣れたものだ。
「ところで、ミーティは何してる?」
メロンパンを包み終わって手渡すと、ハロルド兵士団長が小さな声で俺に尋ねた。
「あ……呼んできますか?」
「いや、いい。リックを城の訓練兵に推薦しようと思ったんだが、彼女の許可を得てからにしようと思ってな。また来るよ」
それはミーティでなく父親のフロッカーさんに聞くべきでは、と言おうとした俺を制したのは、当のフロッカーさんだった。
「……ミーティが許せばわしは何も言わんよ。ただ……考えることは山ほどある」
「それって……」
店の後継者の問題だろうか。
俺が口出しできる問題ではないが、せっかく新しいパンもいくつも作れて(柔らかい生地も作れるようになったし)店がどんどん繁盛している時に、リックの手がないことは色々と厳しそうなことはわかっていた。
「……そうだ、フロッカー殿。近々、城から正式に文書を出します。報奨金の件です」
去り際、ショーン曹長がフロッカーさんへ小声でそう告げた。
金と人手。
俺は二人を見送りながら、避けては通れない問題について考えていた。
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