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第四章 偏食の騎士と魔女への道
96.報奨の行方
しおりを挟む「あー……つっかれた……」
「ここ数日の勢いは凄いな、メロンパンが文字通り飛ぶように売れてる。疲れるわけだよ、俺たちもほとんど休憩無しだからな」
メロンパンを店で売るようになって数日。
俺とエルダさんは疲れ切って、仕事が終わるとしばらくはキッチンでぼんやりしてしまうほどだ。
「二人とも、お疲れ様。でも明日も頑張ってね、メロンパンを待ってる人はたくさんいるんだから」
機嫌の良いミーティは、疲れ切って動けない俺たちの前にスープとパンを用意してくれた。なぜか最近は料理に凝り出したらしく、スープはミーティの手作りだ。
「待ってる人って……ミーティが言ってるのはハロルド兵士団長だろ。今日もお城への配達ご苦労様」
「うふふ、今日も喜んでくださったわ。ねえレイ、クッキーの生地はあたしが作るから、明日はレモン味のを一つだけ作っちゃダメ? どうしても食べたいって……兵士団長さんが」
ミーティが上目遣いをしてみせるので、俺はエルダさんに視線を投げる。
エルダさんは手のひらを上に向けて首を竦め、ロッキングチェアの上で新聞を読んでいるフロッカーさんを見た。
「……レイ。一つくらい構わん、明日はレモン味を作ってやりなさい」
相変わらずミーティに甘いのは誰も彼も同じである。
城からの正式な注文が入り、ミーティはハロルド兵士団長のために毎日メロンパンを城へ届けることになった。ハロルド兵士団長に直接買いに行かせたくないショーン曹長の策だと思うが、リックの訓練兵への推薦のこともあり、城に持ち込むメロンパンは検分も不要となっているらしい。
「やったぁ! おじいちゃんありがとう!」
「……作るの俺なのに」
無邪気に喜んでみせるミーティの強かさには敵わない。
「ただいま戻りました……って、どうしたんですか? レイさんそんなにぐったりして」
ちょうど帰ってきたのはリックだった。
訓練兵への推薦の件で城へ呼ばれていたのだ。
「おお、帰ったか。で、どうだった」
真っ先に立ち上がったのはフロッカーさんである。
新聞をテーブルに置き、リックに手を差し出す。
「……すごいですよ、父さん。想像よりずっと」
リックが渡したのは紙にはカンパルアラの紋章が入っているた。おそらく何らかの正式な文書だろう。
「どれ……」
フロッカーさんは目を細め、それをじっくりと眺めた。
「……おじいちゃん、なんて書いてあるの? 兵士団長さんからのお手紙?」
「ああ……えー、この度の働きにおける報奨として以下のものをカンパルアラ王の名のもとに授けんとす。一つ、石窯一台。二つ、店舗並びに家屋の拡張工事費。三つ、二に伴う隣接した土地の購入費用……ふむ」
フロッカーさんが読み上げたその内容を、俺はすぐには理解できなかった。
音を立てて立ち上がったのはエルダさんである。
「っ……まっ、え、いしがっ……え、かくちょ……!」
言葉にならない言葉が息を飲む間にこぼれ落ち、俺たちは思わず笑った。
笑いながら、俺だけはだんだんとその意味を理解して手が震えるのを感じた。
「……え、待って、石窯が貰えて……工事、工事? 工事するんですか? え?」
フロッカーさんは紙をリックに渡し、俺の肩を叩いた。
「……喜べよ、レイ。二台目の石窯だ、そして……その工事費と土地代が貰える。おまえのパンのおかげじゃ、店はでかくなるぞ!」
「店が……えっ、でも、隣って隣の、土地? 土地はどうするんです? お隣さんが……!」
「そちらもお城の方から内々で交渉して貰ったんですよ。工房の拡張となると、どうしても右隣の土地が必要になりますからね。引っ越し先は町の北側を用意してくれるそうで、お隣さんも大喜びです」
フロッキースの店の右隣には老夫婦が住んでいた。
その土地を城が提供してくれるというなら、今までの倍のスペースを取って広々とした工房を作れるだろう。
俺は事の重大さを理解し、耳の中でうるさい心臓の音を聞いた。
「ここ数日の勢いは凄いな、メロンパンが文字通り飛ぶように売れてる。疲れるわけだよ、俺たちもほとんど休憩無しだからな」
メロンパンを店で売るようになって数日。
俺とエルダさんは疲れ切って、仕事が終わるとしばらくはキッチンでぼんやりしてしまうほどだ。
「二人とも、お疲れ様。でも明日も頑張ってね、メロンパンを待ってる人はたくさんいるんだから」
機嫌の良いミーティは、疲れ切って動けない俺たちの前にスープとパンを用意してくれた。なぜか最近は料理に凝り出したらしく、スープはミーティの手作りだ。
「待ってる人って……ミーティが言ってるのはハロルド兵士団長だろ。今日もお城への配達ご苦労様」
「うふふ、今日も喜んでくださったわ。ねえレイ、クッキーの生地はあたしが作るから、明日はレモン味のを一つだけ作っちゃダメ? どうしても食べたいって……兵士団長さんが」
ミーティが上目遣いをしてみせるので、俺はエルダさんに視線を投げる。
エルダさんは手のひらを上に向けて首を竦め、ロッキングチェアの上で新聞を読んでいるフロッカーさんを見た。
「……レイ。一つくらい構わん、明日はレモン味を作ってやりなさい」
相変わらずミーティに甘いのは誰も彼も同じである。
城からの正式な注文が入り、ミーティはハロルド兵士団長のために毎日メロンパンを城へ届けることになった。ハロルド兵士団長に直接買いに行かせたくないショーン曹長の策だと思うが、リックの訓練兵への推薦のこともあり、城に持ち込むメロンパンは検分も不要となっているらしい。
「やったぁ! おじいちゃんありがとう!」
「……作るの俺なのに」
無邪気に喜んでみせるミーティの強かさには敵わない。
「ただいま戻りました……って、どうしたんですか? レイさんそんなにぐったりして」
ちょうど帰ってきたのはリックだった。
訓練兵への推薦の件で城へ呼ばれていたのだ。
「おお、帰ったか。で、どうだった」
真っ先に立ち上がったのはフロッカーさんである。
新聞をテーブルに置き、リックに手を差し出す。
「……すごいですよ、父さん。想像よりずっと」
リックが渡したのは紙にはカンパルアラの紋章が入っているた。おそらく何らかの正式な文書だろう。
「どれ……」
フロッカーさんは目を細め、それをじっくりと眺めた。
「……おじいちゃん、なんて書いてあるの? 兵士団長さんからのお手紙?」
「ああ……えー、この度の働きにおける報奨として以下のものをカンパルアラ王の名のもとに授けんとす。一つ、石窯一台。二つ、店舗並びに家屋の拡張工事費。三つ、二に伴う隣接した土地の購入費用……ふむ」
フロッカーさんが読み上げたその内容を、俺はすぐには理解できなかった。
音を立てて立ち上がったのはエルダさんである。
「っ……まっ、え、いしがっ……え、かくちょ……!」
言葉にならない言葉が息を飲む間にこぼれ落ち、俺たちは思わず笑った。
笑いながら、俺だけはだんだんとその意味を理解して手が震えるのを感じた。
「……え、待って、石窯が貰えて……工事、工事? 工事するんですか? え?」
フロッカーさんは紙をリックに渡し、俺の肩を叩いた。
「……喜べよ、レイ。二台目の石窯だ、そして……その工事費と土地代が貰える。おまえのパンのおかげじゃ、店はでかくなるぞ!」
「店が……えっ、でも、隣って隣の、土地? 土地はどうするんです? お隣さんが……!」
「そちらもお城の方から内々で交渉して貰ったんですよ。工房の拡張となると、どうしても右隣の土地が必要になりますからね。引っ越し先は町の北側を用意してくれるそうで、お隣さんも大喜びです」
フロッキースの店の右隣には老夫婦が住んでいた。
その土地を城が提供してくれるというなら、今までの倍のスペースを取って広々とした工房を作れるだろう。
俺は事の重大さを理解し、耳の中でうるさい心臓の音を聞いた。
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