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第四章 偏食の騎士と魔女への道
98.魔女へ
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変化といえばもう一つ。
「旅に出るって……一人で?」
「もう決めたの。そういうわけで今日はリックにお別れを言いに来たのよ、あなたとの婚約は解消させてちょうだい」
突然現れてそう言ったローザさんは腰まであった赤く美しいあの髪をばっさり切ってしまっていた。頬にかかった毛先は綺麗に揃えられている。
よく見ればその装いは商人ではなく旅人らしいそれで、魔法使いの持つような杖まで持っている。
「そんな……店はどうするの?」
「別に私がいなくたってあの店はどうにでもなるわ。心配するならこれからもお取引きしてちょうだいね、兵士団御用達のパン屋、フロッキースの若旦那さん」
「っ、それでも女の子一人で旅だなんて……」
「平気よ。魔法の勉強もずっと続けてたの、前よりずっと強い魔法も使えるようになったし、旅に出たらもっとすごい魔法も覚えられる。私はまだまだ強くなれるのよ。粉屋の私も悪くないけど、もっともっと強い魔法使いになる私も良いと思わない?」
リックは何か言おうとして、けれどそのまま何も言わずに俯いた。
「……ローザ。本当に一人で行くの?」
代わりに口を開いたのはミーティだった。
険しい顔をして、両手をぎゅっと握り締めている。
「一人よ。今度ミーティに会う時は私は本物の魔女になってるでしょうね」
「いくら魔法が使えたって……一人は、危ないわ。洞窟の魔物はいなくなったけど、もっと怖い魔物もいるかもしれないのよ」
「そうね。でも危険なところに飛び込まなくちゃ手に入れられないものもあるわ」
ローザさんはミーティの頬を指でつつくと、にっこりと笑って言った。
「……」
「ミーティ、学校に行ったらうんと勉強するのよ。それから、かけっこも木登りも全部一番になりなさい。欲しいものは全部自分で手に入れられる女にならなきゃダメよ、あなたは賢いんだから、どんな夢だって叶えられるわ」
ミーティの目からぼろぼろと大粒の涙が溢れて、俺とリックは思わず目を見合わせた。
「わかってる。あたしは……自分のことは自分で決められるようになる。きっとローザみたいになるわ」
ローザさんは皮のドレスを翻して颯爽と旅立った。
フロッカーさんは寂しそうだったけれど、ローザさんが置いていったピンク色の艶やかな花を大切に花瓶に入れて眺めていた。
ダイヤモンドリリーというゴージャスなその花は、すらりとした美人のローザさんによく似合っていた。
「リッキー、今日は一緒に寝てあげる」
夜になってウサギのぬいぐるみと一緒にリックのベッドに上がったミーティは、ぼんやりとしていたリックの手を両手で包み込むように握った。
「……そう? じゃあそうしてもらおうかな。最近フラれてばっかりで、ちょっと落ち込んでたから」
リックがミーティの体を抱えてそのままシーツに横たわると、ミーティの楽しそうな笑い声が聞こえる。
「リッキーももっと素敵にならなきゃダメってことだと思うわ。ローザはちょっと、高嶺の花だったのよ」
「素敵って、例えばどんなふうに?」
「んー……兵士団長さんみたいに」
「それはなかなか難しそうだな……」
「きっとなれるわよ。だってリッキーは学校で一番だったんでしょう? 大丈夫よ、あたしがついてるから」
ミーティはリックの頭を撫でながら、可愛らしい声で子守唄を歌った。
何も変わらないようで、すべてがゆっくりと移り変わっていく。
俺は恐ろしい魔物を相手に戦うことはできない。
一人きりで町の外に出ることもできないし、学校で一番の成績を取ることもできないだろう。
俺にできることはパンを作ることだけだ。
新しい石窯で作るパンはきっとこの世界の人たちが食べたことのないパンになるだろう。
それが誰かのためになるかもしれないと信じて、俺は明日もパンを焼くのだ。
「旅に出るって……一人で?」
「もう決めたの。そういうわけで今日はリックにお別れを言いに来たのよ、あなたとの婚約は解消させてちょうだい」
突然現れてそう言ったローザさんは腰まであった赤く美しいあの髪をばっさり切ってしまっていた。頬にかかった毛先は綺麗に揃えられている。
よく見ればその装いは商人ではなく旅人らしいそれで、魔法使いの持つような杖まで持っている。
「そんな……店はどうするの?」
「別に私がいなくたってあの店はどうにでもなるわ。心配するならこれからもお取引きしてちょうだいね、兵士団御用達のパン屋、フロッキースの若旦那さん」
「っ、それでも女の子一人で旅だなんて……」
「平気よ。魔法の勉強もずっと続けてたの、前よりずっと強い魔法も使えるようになったし、旅に出たらもっとすごい魔法も覚えられる。私はまだまだ強くなれるのよ。粉屋の私も悪くないけど、もっともっと強い魔法使いになる私も良いと思わない?」
リックは何か言おうとして、けれどそのまま何も言わずに俯いた。
「……ローザ。本当に一人で行くの?」
代わりに口を開いたのはミーティだった。
険しい顔をして、両手をぎゅっと握り締めている。
「一人よ。今度ミーティに会う時は私は本物の魔女になってるでしょうね」
「いくら魔法が使えたって……一人は、危ないわ。洞窟の魔物はいなくなったけど、もっと怖い魔物もいるかもしれないのよ」
「そうね。でも危険なところに飛び込まなくちゃ手に入れられないものもあるわ」
ローザさんはミーティの頬を指でつつくと、にっこりと笑って言った。
「……」
「ミーティ、学校に行ったらうんと勉強するのよ。それから、かけっこも木登りも全部一番になりなさい。欲しいものは全部自分で手に入れられる女にならなきゃダメよ、あなたは賢いんだから、どんな夢だって叶えられるわ」
ミーティの目からぼろぼろと大粒の涙が溢れて、俺とリックは思わず目を見合わせた。
「わかってる。あたしは……自分のことは自分で決められるようになる。きっとローザみたいになるわ」
ローザさんは皮のドレスを翻して颯爽と旅立った。
フロッカーさんは寂しそうだったけれど、ローザさんが置いていったピンク色の艶やかな花を大切に花瓶に入れて眺めていた。
ダイヤモンドリリーというゴージャスなその花は、すらりとした美人のローザさんによく似合っていた。
「リッキー、今日は一緒に寝てあげる」
夜になってウサギのぬいぐるみと一緒にリックのベッドに上がったミーティは、ぼんやりとしていたリックの手を両手で包み込むように握った。
「……そう? じゃあそうしてもらおうかな。最近フラれてばっかりで、ちょっと落ち込んでたから」
リックがミーティの体を抱えてそのままシーツに横たわると、ミーティの楽しそうな笑い声が聞こえる。
「リッキーももっと素敵にならなきゃダメってことだと思うわ。ローザはちょっと、高嶺の花だったのよ」
「素敵って、例えばどんなふうに?」
「んー……兵士団長さんみたいに」
「それはなかなか難しそうだな……」
「きっとなれるわよ。だってリッキーは学校で一番だったんでしょう? 大丈夫よ、あたしがついてるから」
ミーティはリックの頭を撫でながら、可愛らしい声で子守唄を歌った。
何も変わらないようで、すべてがゆっくりと移り変わっていく。
俺は恐ろしい魔物を相手に戦うことはできない。
一人きりで町の外に出ることもできないし、学校で一番の成績を取ることもできないだろう。
俺にできることはパンを作ることだけだ。
新しい石窯で作るパンはきっとこの世界の人たちが食べたことのないパンになるだろう。
それが誰かのためになるかもしれないと信じて、俺は明日もパンを焼くのだ。
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