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第4話
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しばらくするとまたおっさんが靴とともにやってきて、
「ほらよ!小さいかもしれないが、どうだ?」
と言い、靴を手渡してくれた。それどころか、靴下まで渡してくれた。正直言って、これが一番ありがたかった。
俺はそれを履いた後、礼を言うことにした。
「いやあ、ほんっとうに助かった。見ず知らずの俺達なんかのために、ありがとう。」
「礼には及ばんよ。むしろ、退屈だったときにお前さん達に楽しませてもらったから、こっちがお礼を言いたいよ。」
「そうか?だったらうれしいな。・・・ところで、あんたは誰なんだ?」
と俺が聞くと、
「そうかぁ、ここに長く住むもんだから、自己紹介をすっぽかしちまう。俺はシジーヌで、ここで農家をやってるんだ。よかったなぁ、最初に会ったのが俺で。お前さん達に渡した服とかは、全部俺のせがれのお古になるんだ。もしも俺以外が最初に来たら、お前さん達はお縄についてたぜ。・・・そんで、あんたらの名前は?」
と言われた。名前か、どうするか・・・まあ深く考えるほどでもないか。
「俺はシイマ。そんで・・・」
と言い、イーギの方に顔を向けると、
「俺はイーギ、よろしくナ!」
と言った。するとシジーヌは
「そうか。・・・そんでお前さん達は、これからどうするんだ?」
と聞いてきた。するとイーギはこう言った。
「そうだナ・・・。とりあえず、昨日いた場所に戻るとするヨ。このあたりのことはだいたい分かるから、道案内はいらないゼ。」
「分かった。それじゃあ、お前さん達とはここでお別れだな。それじゃあ、良い旅を!」
と言い、シジーヌと別れることにした。
教会を出ることで、やっと目の前に異世界が広がった。
その光景を一言で言うと、まさしく中世だといえるだろう。石造りの家、整備されていない道路、そして、この気持ちいい空気・・・。
「これが異世界かぁ・・・。」
と思わず口にしてしまったのは、ここに居心地の良さを感じたからなのだろう。それから俺は予定についてイーギに聞くことにした。
「これからどうすんだ?」
「そうだナ。まずは、ここのギルドに行こウ。そんで、登録をするんダ。」
「何の登録だ?」
と聞いたが、後で分かるよ、とはぐらかされた。それでも、あらかた予想はついていた。
しばらくイーギについていくと、
「よし、着いたゼ。」
とイーギが言った。その場所は、今までの町の中でもかなり大きい建物だった。すると、イーギが説明を始めた。
「まー、ここがギルドだ。ここはお前が思っているよりもいろんなことをする場所だガ、これから俺達はここで冒険者免許を作るゼ。」
「分かってたよ。要するに、冒険のための下準備ってことだろ。さっさと行こうぜ。」
「まあ待テ。そのためには金が要るんだガ・・・。シイマ、ちょっとこっちに来てくレ。」
と言うと、イーギは路地裏に入っていった。
「どうしたんだ?」
と聞くと、イーギはそれに応じず、
「ヨシ!そうやって、俺を隠すように立ってくレ。」
と言ってから、俺に背を向けた。何があったんだと思った次の瞬間、イーギは服と靴を脱いで裸になり、背中から羽を生やしだし、その体はみるみるうちにまさしく悪魔と呼ぶにふさわしくなっていった。
「お、おい、何をするつもりだ?」
と聞いた瞬間、
「ヴォエ、ゴッ、ヴヴヴヴヴ・・・」
と大きい音がした。これは間違いなく、何かを吐いている。
すると音が止み、イーギは人間の姿に戻り、服と靴を着替えなおしてから、
「じゃ、こいつを受け取レ!」
と言い、何かドロドロした液体にかかった金貨を達成感のある顔で渡してきた。
「・・・はっ」
気づいたら俺は、こいつの顔面をぶん殴っていた。すると、
「痛っ!お前、何すんだヨ!これがねえと、冒険者に登録できねぇんだゼ!」
「そんな物理的にきったねえ金、誰もいらねえよ!てか、そんな金、受付の人も拒否るぞ!しかも、金、持ってたのかよ!」
「大丈夫だって!ほら、フルーティな匂いもするしサ!」
「誰が嗅ぐかぁ!お前、きしょいぞ!」
と言い合っていたが、しばらくしてから、イーギはその金貨を床にこすりつけて、その粘液を取り除いた。そして、
「ほら、これでいいんだロ?」
と言い、もう一度渡してきたので、
「いや、お前が払え。」
と言い、改めて受け取りを断った。
だがなんとなく気になったので、イーギがしょげている間、こっそり金貨をこすりつけた地面に靴をグリグリとし、その靴を鼻に近づけてみた。すると、それは確かにフルーティで甘美な匂いがした。
いや、これ、悪魔の体液だぞ、と思っていると、
「・・・行こうカ。」
と、すこしかすれた声がしたので、ギルドに行くことにした。イーギの目は、また潤っていた。
イーギに続いてギルドに入ると、そこには木造りのイスとテーブルが広がっていて、ご飯を食べていたり、顔を赤くしている人がポツンポツンと見受けられた。奥にはカウンターらしきものがあり、ウェイトレスらしき人がそこにいた。そこそこの胸をしていてよかった。
「おう、こっちだゼ。」
と言うイーギについていき、ギルドの端にある階段を上がっていくと、そこには受付が一つだけひっそりと佇んでいたのが見えた。そしてそこには受付嬢と呼ぶべき存在がいた。俺は思わず、
「うおぉ、デケェ・・・」
と本音を漏らしてしまった。それもそのはず、その受付嬢は豊満な胸とさらさらとしたブロンドの長髪を持つ美女であった。そして何より、エロい。とにかくエロい。最高だ。
この女性の裸体はどんなものか、などと思って受付に着くと、
「こちらは冒険者受付です。ご用件をどうぞ。」
と言われた。裸になってください、とは言えないし、このあたりの動きはイーギに任せたいので口を噤んでいると、
「免許の作成をしてくレ。」
とイーギが言った。すると、
「分かりました。それではこちらに記入をお願いします。」
と言い、紙とペンを渡された。ペンといっても、それは何かの鳥の羽を細工したものであった。イーギはそれを受け取り、階段を下って行ったので、俺もそれについていった。正直、俺の頭の中は受付嬢のことでいっぱいだった。
人のいないところに座ると、イーギは、
「よし、やるカ。」
と言い、紙とペンを手渡してきた。よしやるか、と思ったが、いくつかつっこみ所があったので質問をした。
「今から何をするんだ?」
「ん?そりゃぁ、この紙に書かねえといけねえもんを書くんだヨ。」
「いやでも、これ、何にも書いてないぞ?」
そう、実はこの紙には、どこにどう記入するのかはもちろんのこと、何を記入するのかも書いてなかったのだ。すると、イーギはこう言った。
「ああ、そうか。お前、魔力を行使したことがないんだナ。・・・そうだナ、これをチュートリアルとして、魔力の使い方を教えてやるカ。」
「魔力?マジか、テンション上がってくるな。教えてくれよ。」
するとこいつは上に立ったかのように、こう切り出してきた。
「そうだナァ・・・。まずは、俺の体液が汚いって発言を撤回してもらおうカァ。」
「それは無理だ。」
なんだこいつ、根に持ってたのかよ。すると、
「いいのかなぁ、シイマくぅん、ン?撤回しないと、教えないぞぉ?」
と脅してきた。認めてもいいが、こいつの態度が気に食わなかったので、こう言ってやった。
「いや、自力でやるわ。そんで、お前の体液が悪質だってみなしつづけてやるよ。」
「なんかそれ、もっとひどくなってねえカ・・・?」
よし、自分でやってみるか。とりあえずまずは、魔力という存在を認識することから始めよう。うーん・・・。
とやってみたが、案の定自分でできるはずがなかったので、
「・・・はぁ、クソ。分かったよ、撤回するよ。」
こいつの条件をのむことにした。すると、
「よく分かってるじゃねえカ!じゃあ、この金貨もいけるよナ?」
と言い、例の金貨を差し出してきた。マジか。
俺は渋い顔をして顔を背けながらも、その金貨に触ることに成功した。さっさと手を洗おう、と思っていると、
「おい、だぁれが触るだけって言ったヨ?持って、ギュって握りしめるんだヨ。」
と軽快な口調で言ってきやがった。こいつ、調子に乗りやがって・・・。
しかしこれをしなければ、あこがれのファンタジー要素を堪能できないので、
「このこと、覚えてろよ・・・」
と言いながら、実質的にイーギのゲロを握りしめた。するとイーギは、
「よし!条件成立ダ。じゃあ、魔力の使い方を教えるゼ。」
と言い、レクチャーを始めた。
「教えるといっても、お前のような一回も魔力そのものを認識したことのねえ奴がそれを扱うことは一切できねェ。だが、魔力ってのはおもしれーモンで、一回認識すれば、誰でもすぐに使いこなせるようになっちまウ。そこで、俺がお前に直接魔力を流してやる、いいカ?」
と言うと、イーギは俺の後ろに立ち、背中に手を当てた。すると、背中から全身に何かがやってくるのを感じた。
この状況を言葉で表現すると、及んでくる、というのが一番的確かもしれない。そして感覚としては、熱く、そしてひんやりとしたもので、目で見ると、濃淡があり、いわゆる蒸気のようなものであった。すると、その魔力と言われるものがなくなっていったのを感じた。するとイーギは席に戻り、
「よし、じゃあ、さっき感じたやつを出してみロ。」
と言いだした。目を瞑り、さっきの感覚を再現しようとすると、
「・・・おお。」
再現することができた。そしてその状態のまま目を開けると、その紙に文字が書いてあったのがはっきりと分かった。
「これ、読めるぞ。」
読めるとは言ったが、むしろ直感で感じていると表現した方が正しいだろう。間違いなくその世界の文字で書かれてはいるが、どんな文字が書かれているかを見ようとするとさっぱりわからないが、何と書いているかについて意識を向けると、なぜか理解できる。ここで初めて上級言語のチートがありがたいと思った。
すげえ。これが魔力か。ワクワクしてくる。驚きのあまり、口がぽっかり空いていることにも気がつかなかった。すると、
「その様子だと、紙に文字が写って見えているようだナ。それじゃあ、その魔力を目と利き手に移動させてみロ。」
というので、言われたとおりにやってみると、意外とすんなりできたのがはっきりと分かった。紙に書いてあるものがもっと濃く見えた。それからイーギは、
「よし、じゃあ、そのまま紙に記入をしてみロ。」
と言ったので、ペンを持つと、そのペンからも蒸気が出ていることが分かった。そしてそのままその紙に記入をしようとした。
「・・・待てよ。俺、日本語と英語しか書けねえぞ。」
「おお!いい着眼点だナ!それについてだが、フツーにお前達の言語で書けば、勝手にお前の腕がこの下界の言語にして書き換えてくれるゼ。つまり、お前は日本語で書いてるつもりでいればオッケーだ。」
「マジかよ。俺の腕、怖えよ・・・。」
そう思いつつも、記入を終えると、俺の心は達成感と充実感と感動、そして様々な感情でいっぱいになっていた。そうだ、これだ。これが俺が得たかった感覚だ。これが、俺が不足していたものの一つだ。そう思っていると、
「よし、じゃあ力を抜いてみろ。」
と言ってきたので、そうしてみると、蒸気も、紙に書いてあったものも見えなくなった。するとイーギは、
「さっき扱ってたのが魔力ってやつダ。こいつの大事なことは、意識しないと出ない、ってことト、自然回復するが、使いすぎるといつかはガス欠になって出せなくなる、ってことダ。そんじゃ、こいつを出しに行くカ。」
と言い、受付嬢のところに紙を出しに行った。
「ほらよ、これでいいんダロ?」
と言い、イーギが紙を出すと、
「・・・分かりました。それでは、料金をお支払いください。」
と言ってきたので、イーギは呪われた金貨、もといゲロ金貨を受付嬢に渡した。すると、
「それでは下でお待ちください。」
と言い、短い木の棒を渡してきた。俺達はそれを受け取り、下で待つことにした。これから、俺たちの冒険が始まるのかと思い、心が躍り始めた。
「ほらよ!小さいかもしれないが、どうだ?」
と言い、靴を手渡してくれた。それどころか、靴下まで渡してくれた。正直言って、これが一番ありがたかった。
俺はそれを履いた後、礼を言うことにした。
「いやあ、ほんっとうに助かった。見ず知らずの俺達なんかのために、ありがとう。」
「礼には及ばんよ。むしろ、退屈だったときにお前さん達に楽しませてもらったから、こっちがお礼を言いたいよ。」
「そうか?だったらうれしいな。・・・ところで、あんたは誰なんだ?」
と俺が聞くと、
「そうかぁ、ここに長く住むもんだから、自己紹介をすっぽかしちまう。俺はシジーヌで、ここで農家をやってるんだ。よかったなぁ、最初に会ったのが俺で。お前さん達に渡した服とかは、全部俺のせがれのお古になるんだ。もしも俺以外が最初に来たら、お前さん達はお縄についてたぜ。・・・そんで、あんたらの名前は?」
と言われた。名前か、どうするか・・・まあ深く考えるほどでもないか。
「俺はシイマ。そんで・・・」
と言い、イーギの方に顔を向けると、
「俺はイーギ、よろしくナ!」
と言った。するとシジーヌは
「そうか。・・・そんでお前さん達は、これからどうするんだ?」
と聞いてきた。するとイーギはこう言った。
「そうだナ・・・。とりあえず、昨日いた場所に戻るとするヨ。このあたりのことはだいたい分かるから、道案内はいらないゼ。」
「分かった。それじゃあ、お前さん達とはここでお別れだな。それじゃあ、良い旅を!」
と言い、シジーヌと別れることにした。
教会を出ることで、やっと目の前に異世界が広がった。
その光景を一言で言うと、まさしく中世だといえるだろう。石造りの家、整備されていない道路、そして、この気持ちいい空気・・・。
「これが異世界かぁ・・・。」
と思わず口にしてしまったのは、ここに居心地の良さを感じたからなのだろう。それから俺は予定についてイーギに聞くことにした。
「これからどうすんだ?」
「そうだナ。まずは、ここのギルドに行こウ。そんで、登録をするんダ。」
「何の登録だ?」
と聞いたが、後で分かるよ、とはぐらかされた。それでも、あらかた予想はついていた。
しばらくイーギについていくと、
「よし、着いたゼ。」
とイーギが言った。その場所は、今までの町の中でもかなり大きい建物だった。すると、イーギが説明を始めた。
「まー、ここがギルドだ。ここはお前が思っているよりもいろんなことをする場所だガ、これから俺達はここで冒険者免許を作るゼ。」
「分かってたよ。要するに、冒険のための下準備ってことだろ。さっさと行こうぜ。」
「まあ待テ。そのためには金が要るんだガ・・・。シイマ、ちょっとこっちに来てくレ。」
と言うと、イーギは路地裏に入っていった。
「どうしたんだ?」
と聞くと、イーギはそれに応じず、
「ヨシ!そうやって、俺を隠すように立ってくレ。」
と言ってから、俺に背を向けた。何があったんだと思った次の瞬間、イーギは服と靴を脱いで裸になり、背中から羽を生やしだし、その体はみるみるうちにまさしく悪魔と呼ぶにふさわしくなっていった。
「お、おい、何をするつもりだ?」
と聞いた瞬間、
「ヴォエ、ゴッ、ヴヴヴヴヴ・・・」
と大きい音がした。これは間違いなく、何かを吐いている。
すると音が止み、イーギは人間の姿に戻り、服と靴を着替えなおしてから、
「じゃ、こいつを受け取レ!」
と言い、何かドロドロした液体にかかった金貨を達成感のある顔で渡してきた。
「・・・はっ」
気づいたら俺は、こいつの顔面をぶん殴っていた。すると、
「痛っ!お前、何すんだヨ!これがねえと、冒険者に登録できねぇんだゼ!」
「そんな物理的にきったねえ金、誰もいらねえよ!てか、そんな金、受付の人も拒否るぞ!しかも、金、持ってたのかよ!」
「大丈夫だって!ほら、フルーティな匂いもするしサ!」
「誰が嗅ぐかぁ!お前、きしょいぞ!」
と言い合っていたが、しばらくしてから、イーギはその金貨を床にこすりつけて、その粘液を取り除いた。そして、
「ほら、これでいいんだロ?」
と言い、もう一度渡してきたので、
「いや、お前が払え。」
と言い、改めて受け取りを断った。
だがなんとなく気になったので、イーギがしょげている間、こっそり金貨をこすりつけた地面に靴をグリグリとし、その靴を鼻に近づけてみた。すると、それは確かにフルーティで甘美な匂いがした。
いや、これ、悪魔の体液だぞ、と思っていると、
「・・・行こうカ。」
と、すこしかすれた声がしたので、ギルドに行くことにした。イーギの目は、また潤っていた。
イーギに続いてギルドに入ると、そこには木造りのイスとテーブルが広がっていて、ご飯を食べていたり、顔を赤くしている人がポツンポツンと見受けられた。奥にはカウンターらしきものがあり、ウェイトレスらしき人がそこにいた。そこそこの胸をしていてよかった。
「おう、こっちだゼ。」
と言うイーギについていき、ギルドの端にある階段を上がっていくと、そこには受付が一つだけひっそりと佇んでいたのが見えた。そしてそこには受付嬢と呼ぶべき存在がいた。俺は思わず、
「うおぉ、デケェ・・・」
と本音を漏らしてしまった。それもそのはず、その受付嬢は豊満な胸とさらさらとしたブロンドの長髪を持つ美女であった。そして何より、エロい。とにかくエロい。最高だ。
この女性の裸体はどんなものか、などと思って受付に着くと、
「こちらは冒険者受付です。ご用件をどうぞ。」
と言われた。裸になってください、とは言えないし、このあたりの動きはイーギに任せたいので口を噤んでいると、
「免許の作成をしてくレ。」
とイーギが言った。すると、
「分かりました。それではこちらに記入をお願いします。」
と言い、紙とペンを渡された。ペンといっても、それは何かの鳥の羽を細工したものであった。イーギはそれを受け取り、階段を下って行ったので、俺もそれについていった。正直、俺の頭の中は受付嬢のことでいっぱいだった。
人のいないところに座ると、イーギは、
「よし、やるカ。」
と言い、紙とペンを手渡してきた。よしやるか、と思ったが、いくつかつっこみ所があったので質問をした。
「今から何をするんだ?」
「ん?そりゃぁ、この紙に書かねえといけねえもんを書くんだヨ。」
「いやでも、これ、何にも書いてないぞ?」
そう、実はこの紙には、どこにどう記入するのかはもちろんのこと、何を記入するのかも書いてなかったのだ。すると、イーギはこう言った。
「ああ、そうか。お前、魔力を行使したことがないんだナ。・・・そうだナ、これをチュートリアルとして、魔力の使い方を教えてやるカ。」
「魔力?マジか、テンション上がってくるな。教えてくれよ。」
するとこいつは上に立ったかのように、こう切り出してきた。
「そうだナァ・・・。まずは、俺の体液が汚いって発言を撤回してもらおうカァ。」
「それは無理だ。」
なんだこいつ、根に持ってたのかよ。すると、
「いいのかなぁ、シイマくぅん、ン?撤回しないと、教えないぞぉ?」
と脅してきた。認めてもいいが、こいつの態度が気に食わなかったので、こう言ってやった。
「いや、自力でやるわ。そんで、お前の体液が悪質だってみなしつづけてやるよ。」
「なんかそれ、もっとひどくなってねえカ・・・?」
よし、自分でやってみるか。とりあえずまずは、魔力という存在を認識することから始めよう。うーん・・・。
とやってみたが、案の定自分でできるはずがなかったので、
「・・・はぁ、クソ。分かったよ、撤回するよ。」
こいつの条件をのむことにした。すると、
「よく分かってるじゃねえカ!じゃあ、この金貨もいけるよナ?」
と言い、例の金貨を差し出してきた。マジか。
俺は渋い顔をして顔を背けながらも、その金貨に触ることに成功した。さっさと手を洗おう、と思っていると、
「おい、だぁれが触るだけって言ったヨ?持って、ギュって握りしめるんだヨ。」
と軽快な口調で言ってきやがった。こいつ、調子に乗りやがって・・・。
しかしこれをしなければ、あこがれのファンタジー要素を堪能できないので、
「このこと、覚えてろよ・・・」
と言いながら、実質的にイーギのゲロを握りしめた。するとイーギは、
「よし!条件成立ダ。じゃあ、魔力の使い方を教えるゼ。」
と言い、レクチャーを始めた。
「教えるといっても、お前のような一回も魔力そのものを認識したことのねえ奴がそれを扱うことは一切できねェ。だが、魔力ってのはおもしれーモンで、一回認識すれば、誰でもすぐに使いこなせるようになっちまウ。そこで、俺がお前に直接魔力を流してやる、いいカ?」
と言うと、イーギは俺の後ろに立ち、背中に手を当てた。すると、背中から全身に何かがやってくるのを感じた。
この状況を言葉で表現すると、及んでくる、というのが一番的確かもしれない。そして感覚としては、熱く、そしてひんやりとしたもので、目で見ると、濃淡があり、いわゆる蒸気のようなものであった。すると、その魔力と言われるものがなくなっていったのを感じた。するとイーギは席に戻り、
「よし、じゃあ、さっき感じたやつを出してみロ。」
と言いだした。目を瞑り、さっきの感覚を再現しようとすると、
「・・・おお。」
再現することができた。そしてその状態のまま目を開けると、その紙に文字が書いてあったのがはっきりと分かった。
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読めるとは言ったが、むしろ直感で感じていると表現した方が正しいだろう。間違いなくその世界の文字で書かれてはいるが、どんな文字が書かれているかを見ようとするとさっぱりわからないが、何と書いているかについて意識を向けると、なぜか理解できる。ここで初めて上級言語のチートがありがたいと思った。
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というので、言われたとおりにやってみると、意外とすんなりできたのがはっきりと分かった。紙に書いてあるものがもっと濃く見えた。それからイーギは、
「よし、じゃあ、そのまま紙に記入をしてみロ。」
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「・・・待てよ。俺、日本語と英語しか書けねえぞ。」
「おお!いい着眼点だナ!それについてだが、フツーにお前達の言語で書けば、勝手にお前の腕がこの下界の言語にして書き換えてくれるゼ。つまり、お前は日本語で書いてるつもりでいればオッケーだ。」
「マジかよ。俺の腕、怖えよ・・・。」
そう思いつつも、記入を終えると、俺の心は達成感と充実感と感動、そして様々な感情でいっぱいになっていた。そうだ、これだ。これが俺が得たかった感覚だ。これが、俺が不足していたものの一つだ。そう思っていると、
「よし、じゃあ力を抜いてみろ。」
と言ってきたので、そうしてみると、蒸気も、紙に書いてあったものも見えなくなった。するとイーギは、
「さっき扱ってたのが魔力ってやつダ。こいつの大事なことは、意識しないと出ない、ってことト、自然回復するが、使いすぎるといつかはガス欠になって出せなくなる、ってことダ。そんじゃ、こいつを出しに行くカ。」
と言い、受付嬢のところに紙を出しに行った。
「ほらよ、これでいいんダロ?」
と言い、イーギが紙を出すと、
「・・・分かりました。それでは、料金をお支払いください。」
と言ってきたので、イーギは呪われた金貨、もといゲロ金貨を受付嬢に渡した。すると、
「それでは下でお待ちください。」
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