6 / 55
第6話
しおりを挟む
生まれて初めてモンスターと呼ばれる存在を倒して達成感に浸っていると、
「・・・おや? スライムの ようすが・・・おかしいぞ。」
とイーギが言い出した。
スライムの方を見てみると、スライムの肉体がプルプルと小刻みに震えだし、そのスピードがだんだん速くなっていった。すると、
「なあ、こいつ、核を失ったから肉体を保てなくなったんじゃ・・・」
なんて俺が言っているうちに、バン!と音を立てて、スライムの肉体がとんでもない速さで破裂して飛んできた。俺達は身構えることなくその肉片にモロに当たり、何度か木に当たるまでぶっ飛ばされた。
そして俺は声を出すこともできずに、スライムの粘液と共に気絶した。
「・・・。」
俺が目を覚まして分かったことは、それが天井であったことだ。そして次に、俺が怪我をしたということも理解した。
これが重体、ってやつかと思い、とりあえず右腕を真上に上げてみることにした。俺がこんなに冷静でいられたのは、肉体の蘇生というチートで健康が保証されているからだ。右腕を上げると、面白いことが起こった。
いつもの腕を動かす感覚はあるのに、実際の腕が動いていなかったのだ。ここまで脳と現実にずれがあるのを感じたのは初めてだった。
正直、すごく興奮した。せっかくの機会だったので、もっと体中を動かしてみて、現実とのギャップを味わった。ここで分かったことだが、股間はフツーに大きくなった。
そんなことをしていると、実際の体が少しづつ感覚と一致してきたことに気がついた。もしや怪我が治りかけてきているんじゃないかと思い、魔力を体に流そうとした瞬間、
ドウッ!
と大きな衝撃と音が聞こえ、スライムと戦った時とは比べ物にならないほどの魔力が体中に流れた。なんか出しすぎたなと思い、魔力を消していると、
「なんじゃ今の音は!?」
「大丈夫です!あの音は魔力を勢いよく出したときのものですから、心配ないです!」
という声が聞こえた。どちらも男で、一人はじいさん、もう一人は若い男だった。するとその声の主達がやってきて、
「どうした、若者!」
とじいさんが俺に声をかけてきた。背は低く、小太りであった。驚いたのは、やってきた人の中に、あのエロい受付嬢がいたことだ。俺は正直に、
「いやぁ、なんか魔力を放出してみたら、すごい音が鳴っちまったよ。」
と言うと、
「体を動かすだけで、そんな音が出るか!」
と言ってきた。人の話をしっかり聞いてくれよ、爺さん。
すると、
「とにかく、あなたが生きていてよかったよ。」
と例の若者が話し出した。そいつの体つきは強そうではないが、声によるせいだろうか、好青年な感じであった。ただし、イケメンでもあった。クソが。
だがとりあえず、今の状況を確認することにした。
「あんたら、何者だ?」
「おっと、自己紹介がまだだったね。僕はシイゼテ、君と同じ冒険者だ。そして、このおじいさんが、この村唯一の医者、トロコッドさんだ。」
「なるほど。で、なんで俺はここに運ばれたんだ?」
「僕はここのパトロールをしてるんだけど、いつものようにあの森を見回りしていたら、急に冒険者免許からメッセージが流れてね。その情報をもとに指定されていた場所に行ったら、飛び散ったスライムの残骸と、あなた達がいたんだ。」
「そうじゃ!シイゼテが二人を抱えてやってきて、急患です、なんて言うもんじゃから、びっくりしてギックリ腰になりかけたわい!」
二人・・・そうか、イーギのことか。だとすると、同じ建物で寝てるのか。しかも、あの免許って、自動で知らせてくれるのか。便利すぎだろ。
「しかし大変じゃったぞ、お主らの治療は。まずお主らの体を見たとき、怪我の箇所が多いわひどいわで、文字通り無理難題を押し付けられた気分になったもんじゃ。」
「そんなにひどかったのか?」
「もちろんじゃ!具体的に言おうか?肋骨5本の複雑骨折、頚椎損傷、頭蓋骨陥没・・・。」
え?俺、そんなにドえらいケガしてたのか?
「とにかく、体を治すことができてよかったわい。」
「いや、そんな大怪我、どうやって治したんだよ。」
「治癒魔法じゃ。ま、わしのやつはちと特殊でな、患者とかの他人の魔力を使って魔法をかけるんじゃ。しかしまぁ、この二人がいなかったら、お主、おっ死んでたぞ?」
「私も驚きました。まさか緊急メッセージを使うなんて・・・。」
「そ、そうだったのか・・・。そんで、今の俺はどうなってるんだ?」
「ふむ、じゃあ少し拝見するかの。」
そういうと、トロコッドとかいうじいさんの目が色を変えた。そして、俺の身体をジロジロと見渡した。すると、
「まあ、あのころに比べると全然マシじゃが、体を動かしてはならないことに変わりはない。しばらくの間、絶対安静じゃな。」
なるほど、おそらく今のは透視する魔法だな。そうすれば、あの受付嬢の裸体も拝めるってわけか。
「そうか。ありがとな。ところで、こーゆーのって、代金的な奴はあるのか?」
「はい。まず、緊急メッセージの発信で、我々冒険者組合に1000万チャリンをお納めいただきます。なお、救助してくださった方への返礼、そして治療費は別途そちらでお決めください。」
チャリン・・・?ああ、この世界の金の単位か。しかし、1000万て多すぎだろ。
「僕は何も受け取るつもりはないよ。これが本来の僕の活動だし、こういうのはお互い様だからね。」
「わしゃ疲れたからな。少し多めにいただくとして、15万チャリン、といったところじゃな。」
なんだこの二人。天使すぎるだろ。
「なんか、本当にありがとな。そんで、あなたの名前は?」
「レソと言います。」
「レソさん、もーちょいまけてくんね?」
「できるわけないです。」
「ですよねー。」
このとき、俺の頭にいいアイディアが浮かんだ。
「なあ、トロコッドのじいさん、あんた確か、人の魔力で魔法を使う、って言ったよな?」
「ああ、そうじゃが、それがどうかしたのか?」
「今から俺がありったけの魔力を出すから、それで俺を治してくれねーか?」
「ああ、構わんが、どれくらい治るかはお主次第じゃぞ?」
「それじゃ・・・よっ!」
そう言うと俺はさっきのように魔力を放出した。すると、
「おお、思っていたよりも多い魔力じゃな。これなら、結構いい段階までお主の体を治せるぞ!」
前から考えていたが、ここまで俺の魔力が多くなったのは恐らく経験強化のチートのおかげなのだろう。しかし、そうだとするとある疑問が生じる。
肉体と魔力の伸びが釣り合わないことだ。それはなぜか。トロコッドが魔法で治癒を行っている間、俺はレソに質問をした。
「なあ、レソさん。スライムって、どんなモンスターなんだ?」
「まさか、知らずに戦っていたのですか・・・。スライムは魔力の濃度が比較的濃い場所で自然発生するモンスターです。そのため、スライムの肉体は純度の高い魔力そのものでできています。」
「へー。」
「そして、スライムの中にある核によってその肉体の形を留めています。ですから、その核が壊された瞬間、スライムはその体の形を保てなくなり、その肉体を飛び散らしてしまうのです。」
なるほど。これで合点がいった。多分、魔力と同然のスライムの粘液から魔力を吸収して、俺の力にしたってことだな。だから、魔力だけこんなに上がったのか。なんか俺、人外だな。
「スライムは基本的に自我がなく、また発生した場所の周辺しか移動しないため、敵としての害はありません。しかし、こちらからの物理攻撃はほとんど効かないうえ、近くにいると飲み込んで吸収しようとします。そのため、倒すのならば遠くから魔法による攻撃がセオリー、のはずですが・・・。あなた達はもしかして、物理攻撃でスライムを倒そうとしたのですか?」
「あ、バレました?」
「当たり前です。こんなに愚かな冒険者、初めて見ましたよ・・・。」
そう言うと彼女は顔に手をやり、ため息をついた。そして、
「いいですか?これからは、自分が狙う獲物について確証たる情報を集め、細心の注意を払って行動してください。いいですね?」
と言ってきた。ここまで親切に言ってくれるってことは、もしかしてだけど、この女、俺に気があるんじゃないか?
「分かりましたよ。つまり、近いうちに一緒にご飯を食べたいってことですね?」
「私の話を全然聞いてないですね。」
あれ?ちゃんと聞いたはずなんだけどなぁ。
すると、
「プププ、プギャーハッハッハ!・・・ヤベ!」
と聞き覚えのある笑い声が部屋に響いた。イーギだ。
「なんだ、お前そこにいたのか。」
「ああ、お前と同じようにおねんねしてたゼ。いやー、あれは想定外だったナ!」
「あなた達、命が惜しくないんですか?」
「「いや全然。」」
タイミングまであったその答えを聞き、俺のものになる予定の女は呆れた顔をしていた。
俺の魔力を使った治癒が終わったらしいので、もう一度体を動かしてみることにした。
すると、なんということでしょう!あの時動かなかった肉体が、脳の指示にしっかりと対応しています!これぞ匠の技、もとい、まほう!
と感動を覚えながら健康を噛みしめていると、
「おお、想像以上じゃ。わしゃ、今の治癒でそこまで治るとは思わなかったわい。」
とトロコッドのじいさんが驚いていた。ここまで治るのが早かったのは、肉体の蘇生のチートが一役買っているためだと思われるが、内緒にしておこう。ここでイーギのことが気になったので、イーギについて話を聞いてみた。
「そういや、隣で寝てるやつはどうなんだ?」
「ああ、そいつはまだ動けない頃のお主とそんな変わらんぐらいじゃったぞ。」
「へぇ。じゃあそいつも今起きたことだし、俺と同じことやってみたら?」
「そうじゃな。じゃあお主は、少しそこで寝ておれ。」
そう言われたので、俺はベッドに倒れながら、体の状態を確認してみた。確かに、力を入れると痛い部分や違和感を覚える部分があったので、しばらく安静にしようと思った。
しばらく今後の1000万問題について考えていると、
「おお、体が動くゼ!健康って素晴らしいナ!」
「おお、想像以上じゃ。わしゃ、今の治癒でそこまで治るとは思わなかったわい。」
という驚きの声が同じテキストで聞こえた。じいさん、あんたNPCかよ・・・。
すると、
「おいシイマ!お前、動けるカ?」
と言い、イーギが俺のベッドにやってきた。
「動けるが、激しい運動はできないな。」
「そうカ。だったら一旦、この建物を出ようゼ。」
「何するつもりだよ?」
「いいからいいかラ。」
イーギの意図が全然わからなかったが、とりあえず悪いことをするつもりがなさそうだったので、
「分かったよ。」
と返事をした。
するとあの3人が戻ってきて、
「何やっとる!お主ら、絶対安静じゃ!」
と怒鳴られたので、
「いや、大丈夫だ、ジーサン。もうこいつもピンピンして、早く動きたいって言ってるゼ。」
「そーいうわけで、世話になったな。それじゃあな・・・。」
と言いかけた瞬間、
「病院代と救助代、もういただいてますよ。」
とレソさんが言ってきた。すると、
「げ、マジかヨ。踏み倒せると思ったんだけどナー。」
とイーギが嘆いた。こいつド級のクズじゃねえか。俺だったら、ちゃんとイーギに押し付けて払わせるんだがな。
「まあそんなのいいからさ、俺達、退院していいか?」
「まあ、お主らがそう言うなら、退院してもよいぞ。」
と言われたので、俺達はこの病院から退院することになった。別れ際に、
「なるべくわしの世話にならんようにな!」
「もうこんな無茶しないでくださいね。」
「体に気をつけてね!」
と励ましの言葉を言われた。いつか、あいつらに恩返ししてやろう。
「・・・おや? スライムの ようすが・・・おかしいぞ。」
とイーギが言い出した。
スライムの方を見てみると、スライムの肉体がプルプルと小刻みに震えだし、そのスピードがだんだん速くなっていった。すると、
「なあ、こいつ、核を失ったから肉体を保てなくなったんじゃ・・・」
なんて俺が言っているうちに、バン!と音を立てて、スライムの肉体がとんでもない速さで破裂して飛んできた。俺達は身構えることなくその肉片にモロに当たり、何度か木に当たるまでぶっ飛ばされた。
そして俺は声を出すこともできずに、スライムの粘液と共に気絶した。
「・・・。」
俺が目を覚まして分かったことは、それが天井であったことだ。そして次に、俺が怪我をしたということも理解した。
これが重体、ってやつかと思い、とりあえず右腕を真上に上げてみることにした。俺がこんなに冷静でいられたのは、肉体の蘇生というチートで健康が保証されているからだ。右腕を上げると、面白いことが起こった。
いつもの腕を動かす感覚はあるのに、実際の腕が動いていなかったのだ。ここまで脳と現実にずれがあるのを感じたのは初めてだった。
正直、すごく興奮した。せっかくの機会だったので、もっと体中を動かしてみて、現実とのギャップを味わった。ここで分かったことだが、股間はフツーに大きくなった。
そんなことをしていると、実際の体が少しづつ感覚と一致してきたことに気がついた。もしや怪我が治りかけてきているんじゃないかと思い、魔力を体に流そうとした瞬間、
ドウッ!
と大きな衝撃と音が聞こえ、スライムと戦った時とは比べ物にならないほどの魔力が体中に流れた。なんか出しすぎたなと思い、魔力を消していると、
「なんじゃ今の音は!?」
「大丈夫です!あの音は魔力を勢いよく出したときのものですから、心配ないです!」
という声が聞こえた。どちらも男で、一人はじいさん、もう一人は若い男だった。するとその声の主達がやってきて、
「どうした、若者!」
とじいさんが俺に声をかけてきた。背は低く、小太りであった。驚いたのは、やってきた人の中に、あのエロい受付嬢がいたことだ。俺は正直に、
「いやぁ、なんか魔力を放出してみたら、すごい音が鳴っちまったよ。」
と言うと、
「体を動かすだけで、そんな音が出るか!」
と言ってきた。人の話をしっかり聞いてくれよ、爺さん。
すると、
「とにかく、あなたが生きていてよかったよ。」
と例の若者が話し出した。そいつの体つきは強そうではないが、声によるせいだろうか、好青年な感じであった。ただし、イケメンでもあった。クソが。
だがとりあえず、今の状況を確認することにした。
「あんたら、何者だ?」
「おっと、自己紹介がまだだったね。僕はシイゼテ、君と同じ冒険者だ。そして、このおじいさんが、この村唯一の医者、トロコッドさんだ。」
「なるほど。で、なんで俺はここに運ばれたんだ?」
「僕はここのパトロールをしてるんだけど、いつものようにあの森を見回りしていたら、急に冒険者免許からメッセージが流れてね。その情報をもとに指定されていた場所に行ったら、飛び散ったスライムの残骸と、あなた達がいたんだ。」
「そうじゃ!シイゼテが二人を抱えてやってきて、急患です、なんて言うもんじゃから、びっくりしてギックリ腰になりかけたわい!」
二人・・・そうか、イーギのことか。だとすると、同じ建物で寝てるのか。しかも、あの免許って、自動で知らせてくれるのか。便利すぎだろ。
「しかし大変じゃったぞ、お主らの治療は。まずお主らの体を見たとき、怪我の箇所が多いわひどいわで、文字通り無理難題を押し付けられた気分になったもんじゃ。」
「そんなにひどかったのか?」
「もちろんじゃ!具体的に言おうか?肋骨5本の複雑骨折、頚椎損傷、頭蓋骨陥没・・・。」
え?俺、そんなにドえらいケガしてたのか?
「とにかく、体を治すことができてよかったわい。」
「いや、そんな大怪我、どうやって治したんだよ。」
「治癒魔法じゃ。ま、わしのやつはちと特殊でな、患者とかの他人の魔力を使って魔法をかけるんじゃ。しかしまぁ、この二人がいなかったら、お主、おっ死んでたぞ?」
「私も驚きました。まさか緊急メッセージを使うなんて・・・。」
「そ、そうだったのか・・・。そんで、今の俺はどうなってるんだ?」
「ふむ、じゃあ少し拝見するかの。」
そういうと、トロコッドとかいうじいさんの目が色を変えた。そして、俺の身体をジロジロと見渡した。すると、
「まあ、あのころに比べると全然マシじゃが、体を動かしてはならないことに変わりはない。しばらくの間、絶対安静じゃな。」
なるほど、おそらく今のは透視する魔法だな。そうすれば、あの受付嬢の裸体も拝めるってわけか。
「そうか。ありがとな。ところで、こーゆーのって、代金的な奴はあるのか?」
「はい。まず、緊急メッセージの発信で、我々冒険者組合に1000万チャリンをお納めいただきます。なお、救助してくださった方への返礼、そして治療費は別途そちらでお決めください。」
チャリン・・・?ああ、この世界の金の単位か。しかし、1000万て多すぎだろ。
「僕は何も受け取るつもりはないよ。これが本来の僕の活動だし、こういうのはお互い様だからね。」
「わしゃ疲れたからな。少し多めにいただくとして、15万チャリン、といったところじゃな。」
なんだこの二人。天使すぎるだろ。
「なんか、本当にありがとな。そんで、あなたの名前は?」
「レソと言います。」
「レソさん、もーちょいまけてくんね?」
「できるわけないです。」
「ですよねー。」
このとき、俺の頭にいいアイディアが浮かんだ。
「なあ、トロコッドのじいさん、あんた確か、人の魔力で魔法を使う、って言ったよな?」
「ああ、そうじゃが、それがどうかしたのか?」
「今から俺がありったけの魔力を出すから、それで俺を治してくれねーか?」
「ああ、構わんが、どれくらい治るかはお主次第じゃぞ?」
「それじゃ・・・よっ!」
そう言うと俺はさっきのように魔力を放出した。すると、
「おお、思っていたよりも多い魔力じゃな。これなら、結構いい段階までお主の体を治せるぞ!」
前から考えていたが、ここまで俺の魔力が多くなったのは恐らく経験強化のチートのおかげなのだろう。しかし、そうだとするとある疑問が生じる。
肉体と魔力の伸びが釣り合わないことだ。それはなぜか。トロコッドが魔法で治癒を行っている間、俺はレソに質問をした。
「なあ、レソさん。スライムって、どんなモンスターなんだ?」
「まさか、知らずに戦っていたのですか・・・。スライムは魔力の濃度が比較的濃い場所で自然発生するモンスターです。そのため、スライムの肉体は純度の高い魔力そのものでできています。」
「へー。」
「そして、スライムの中にある核によってその肉体の形を留めています。ですから、その核が壊された瞬間、スライムはその体の形を保てなくなり、その肉体を飛び散らしてしまうのです。」
なるほど。これで合点がいった。多分、魔力と同然のスライムの粘液から魔力を吸収して、俺の力にしたってことだな。だから、魔力だけこんなに上がったのか。なんか俺、人外だな。
「スライムは基本的に自我がなく、また発生した場所の周辺しか移動しないため、敵としての害はありません。しかし、こちらからの物理攻撃はほとんど効かないうえ、近くにいると飲み込んで吸収しようとします。そのため、倒すのならば遠くから魔法による攻撃がセオリー、のはずですが・・・。あなた達はもしかして、物理攻撃でスライムを倒そうとしたのですか?」
「あ、バレました?」
「当たり前です。こんなに愚かな冒険者、初めて見ましたよ・・・。」
そう言うと彼女は顔に手をやり、ため息をついた。そして、
「いいですか?これからは、自分が狙う獲物について確証たる情報を集め、細心の注意を払って行動してください。いいですね?」
と言ってきた。ここまで親切に言ってくれるってことは、もしかしてだけど、この女、俺に気があるんじゃないか?
「分かりましたよ。つまり、近いうちに一緒にご飯を食べたいってことですね?」
「私の話を全然聞いてないですね。」
あれ?ちゃんと聞いたはずなんだけどなぁ。
すると、
「プププ、プギャーハッハッハ!・・・ヤベ!」
と聞き覚えのある笑い声が部屋に響いた。イーギだ。
「なんだ、お前そこにいたのか。」
「ああ、お前と同じようにおねんねしてたゼ。いやー、あれは想定外だったナ!」
「あなた達、命が惜しくないんですか?」
「「いや全然。」」
タイミングまであったその答えを聞き、俺のものになる予定の女は呆れた顔をしていた。
俺の魔力を使った治癒が終わったらしいので、もう一度体を動かしてみることにした。
すると、なんということでしょう!あの時動かなかった肉体が、脳の指示にしっかりと対応しています!これぞ匠の技、もとい、まほう!
と感動を覚えながら健康を噛みしめていると、
「おお、想像以上じゃ。わしゃ、今の治癒でそこまで治るとは思わなかったわい。」
とトロコッドのじいさんが驚いていた。ここまで治るのが早かったのは、肉体の蘇生のチートが一役買っているためだと思われるが、内緒にしておこう。ここでイーギのことが気になったので、イーギについて話を聞いてみた。
「そういや、隣で寝てるやつはどうなんだ?」
「ああ、そいつはまだ動けない頃のお主とそんな変わらんぐらいじゃったぞ。」
「へぇ。じゃあそいつも今起きたことだし、俺と同じことやってみたら?」
「そうじゃな。じゃあお主は、少しそこで寝ておれ。」
そう言われたので、俺はベッドに倒れながら、体の状態を確認してみた。確かに、力を入れると痛い部分や違和感を覚える部分があったので、しばらく安静にしようと思った。
しばらく今後の1000万問題について考えていると、
「おお、体が動くゼ!健康って素晴らしいナ!」
「おお、想像以上じゃ。わしゃ、今の治癒でそこまで治るとは思わなかったわい。」
という驚きの声が同じテキストで聞こえた。じいさん、あんたNPCかよ・・・。
すると、
「おいシイマ!お前、動けるカ?」
と言い、イーギが俺のベッドにやってきた。
「動けるが、激しい運動はできないな。」
「そうカ。だったら一旦、この建物を出ようゼ。」
「何するつもりだよ?」
「いいからいいかラ。」
イーギの意図が全然わからなかったが、とりあえず悪いことをするつもりがなさそうだったので、
「分かったよ。」
と返事をした。
するとあの3人が戻ってきて、
「何やっとる!お主ら、絶対安静じゃ!」
と怒鳴られたので、
「いや、大丈夫だ、ジーサン。もうこいつもピンピンして、早く動きたいって言ってるゼ。」
「そーいうわけで、世話になったな。それじゃあな・・・。」
と言いかけた瞬間、
「病院代と救助代、もういただいてますよ。」
とレソさんが言ってきた。すると、
「げ、マジかヨ。踏み倒せると思ったんだけどナー。」
とイーギが嘆いた。こいつド級のクズじゃねえか。俺だったら、ちゃんとイーギに押し付けて払わせるんだがな。
「まあそんなのいいからさ、俺達、退院していいか?」
「まあ、お主らがそう言うなら、退院してもよいぞ。」
と言われたので、俺達はこの病院から退院することになった。別れ際に、
「なるべくわしの世話にならんようにな!」
「もうこんな無茶しないでくださいね。」
「体に気をつけてね!」
と励ましの言葉を言われた。いつか、あいつらに恩返ししてやろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
コンバット
サクラ近衛将監
ファンタジー
藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。
ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。
忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!?
「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」
今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY!
建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる