悪魔とダラダラ異世界道中

灯籠

文字の大きさ
33 / 55

第32話

しおりを挟む
 目の前の状況に興奮はしていたが、俺は不思議と落ち着いていた。俺は冷静に判断して、ガキに距離を詰めた。

 ガキは俺から離れようとして後ろにジャンプしたが、左手を伸ばしてガキの右腕をガッチリとつかんだ。そして力任せに左腕を引っ張り、ガキを地面に叩きつけた。

 俺の判断は、ガキと密接することだった。もし空中にある火球を動かすことができるのならば、自分に当たらないように操作するはずだし、最悪の場合でも、道連れにすることもできる。

 「降参を勧めるぜ、ガキンチョ。」

 俺が余裕を見せつけるようにそう言った瞬間、背中が暖かくなっていくのを感じた。後ろを振り向いたが遅かった。さっき落ちてきたのとは比べ物にならない火球が直撃した。

 「アチイイイイイイ!!」

 とにかく何もかもが熱かった。空気も、着ている服も。俺は耐え切れず、ガキの腕から手を離した。

 この熱さから逃れようとして猛ダッシュで火の中から抜け出した。抜け出した後に様子を見てみると、炎がドームの形を作り出し、それを維持していた。

 そして自分の体に目をやると、肌が焦げ茶色になっていることに気がついた。たった数十秒の間でこうなったという事実に少しゾクッとした。

 すると炎の中から鎧を纏ったガキが出てきた。無傷だった。

 「だから言っただろ。お前はこの私よりも弱いと。もう一度言おう、降参を勧める。」

 「あーあ、やっぱりオメーは分かってねえなぁ。降参するわけがないんだよ。」

 「お前の方が理解していないだろう、この圧倒的な力の差を。」

 「そうじゃねえ・・・。どんなものだってそうだ。」

 俺はより一層、気合を入れてこう言った。

 「敵が強ければ強いほど、立ち向かいたくなるものなんだよ。」



 今までに多くの相手と対峙してきた。私に勝てないと知ったものは、誰一人としてそれ以上の抵抗を行うことは無かった。

 しかし、ある時に手合わせをした相手から、何か異質なものを感じたことがあった。初めてだった。私が何度倒しても、彼は手合わせを志願してきた。それを感じなくなったのは、彼が私に挑まなくなってからだった。

 それからというもの、時折同じようなものを感じ取るようになった。その濃さはまちまちであったが、私と対峙するたびに薄れ、やがて消えていたことは確かだった。それを感じるたびに、嫌悪感を覚えたのも確かだった。

 そのうち、私はその異質なものが一体何なのか知りたくなった。

 そんな思いを持っていた時に対峙したのが、この目の前にいる男だった。こいつも今までに出会った奴らと同じように、異質なものを私に向けていた。

 だがこいつはそれまでの奴らとは違った。その異質なものが、とてつもなく濃いのだ。こいつに火球を浴びせると、なお一層それが濃くなった。生まれて初めて、それで動揺していた。

 「敵が強ければ強いほど、立ち向かいたくなるものなんだよ。」

 その言葉に応じるかのように、奴の身体がみるみるうちに元通りになっていく。

 それから奴は両腕を顔の前に置き、腰を丸めだした。奇妙な構えだった。

 そして次の瞬間、奴は一直線に突撃し、私に距離を詰めてきた。すると奴は横に移動し、私の背後にあった火球に飛び込んだ。

 奴が火球に入った瞬間、私はこの男を買いかぶりすぎたと感じた。自ら火球に飛び込み、己の敗北を演出していたからだと思ったからだ。

 だが直後、私は考えを改めた。地面に足跡があったからだ。奴ではなく、この私が動いていたのだ。私が、自ら退いたのだ。

 信じられなかった。この程度の男に、私が引いたのだ。この事実を把握した瞬間、少し汗をかいた。火球の中にいたからではない。私が奴に怖気づいたのだ。

 「・・・よかろう。」

 私はそうつぶやいた。彼の放つあの異質なものを、全身全霊を以って薙ぎ払う覚悟を決めた。



 炎の中に飛び込んだ俺は、あることに気がついた。熱くない。それに、身体が元通りに戻っている。これってもしかして、炎魔法を経験したことで耐性がついたってことなのか・・・?

 だとすれば、これをアイツに知られるわけにはいかない。奇襲だ。ここで待ち伏せしよう。

 そう思い、俺は地面に倒れてやられたフリをし、この炎の中でガキが来るのを待っていた。

 すると、遠くに人影が見えた。ガキだ。しかし、何か様子が違った。

 「おい、貴様。気が変わった。これから、全力を以ってお前を否定してやる。」

 そう言うと、ガキは膝をつき、両腕を地面に付けた。すると、地面が俺を取り囲むように隆起してきて、ドームの形になって俺を閉じ込めた。

 すると、ドームの壁からドロドロとした赤いものが流れ出してきた。マグマだ。

 マグマは俺のいる地面を埋めてきたので、俺は起き上がり、大きくジャンプをして天井にパンチを打った。するとドームの天井が粉々に砕け、外に出ることに成功した。

 外に出た瞬間に見えたのは、ガキの放つ右ストレートだった。俺はとっさに腕を前に出してガードの姿勢を取った。

 ガキの一撃は俺のガードに直撃し、俺は闘技場の壁まで吹っ飛んだ。腕が骨の芯からビリビリしている。

 俺が地面に足をつけ、前を向き直すと、ガキが俺の前に来て立ち止まった。

 「なんだよ、お前。まだ訳分からん魔法を隠し持ちやがって。おもしれーじゃねえか。」

 「貴様こそ、あの炎の中で狸寝入りをかますとは、いい度胸だ。」

 「そういや、呼び方を変えたな。ちったぁ見直したのか?俺のことをよ。」

 「・・・ああ、貴様を認めよう。だから、否定するのだ。」

 「あっそ。お堅いこった。」

 俺は先ほどの見よう見まねのボクシングの構えを取ると、ガキが身に着けていた鎧が消えていった。

 お互い分かっていた。ここからが本当の戦いになることを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...