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第一章 祝福のヨハネ
一話 教会の孤児
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小さな国のとある田舎の小さな教会。
聖ヨハネ教会。それが、ボクの生まれ育った”家”だった。
この名前をくれたのは、ボクの生みの親じゃない。生みの親はわからない。ボクは、ここの教会の質素な装飾の扉の前に、捨てられていたのだという。ボクの「とうさん」が、そう教えてくれた。
コハクという名をくれたのは、とうさんだ。この寂れた教会でとうさんは敬虔な神父として、ずっと祈りを捧げ、人々の祈りを聞き続けてきた。この国ではシフィダ神と呼ばれる神様への信仰が盛んだが、王都から離れた郊外の、ほとんど田舎とも言えるこの地域では、信仰はそれほど重要視されていなかった。それも、町の隅にある教会のため、祈りを捧げにここまでやって来る住民も少ない。よって敬虔な教徒を除いては、町外れの小さな教会にくる人はいなかった。
ボクととうさんは、慎ましい生活ながら、ささやかな幸せを育む日々を送っていた。
その日、ボクはとうさんに頼まれて、街へ買い物へ行っていた。教会の奥に繋がる部屋は、ボクらが生活する居住空間だった。そこで、ボクらは寝起きしていたし、ご飯を食べていた。朝に食べるパンや果物が減ってくると、ボクはとうさんに頼まれて、こうして偶に街へ買い出しに来ていた。
街には、通りに沿っていろんな店が並んでいた。パン屋、服屋、果物屋、帽子屋など様々だ。そこでボクは、いつもパンを買う店の前に立って、前の客が注文を終えるのを待っていた。すると、視界の端で、ポトリと赤いりんごが落ちる音がした。
見ると、隣に立っていた子どもが、りんごの詰まった紙袋を抱えて立っていた。自分より少し背丈が小さく、小柄な子供。少し丈の長い上着を羽織り、内気なのか目深にフードを被っている。その子は、りんごが落ちたことに気づきつつも、左手では紙袋を抱え、右手では隣の男性と手を繋いでいるために両手が塞がっていて、りんごをしゃがんで拾い上げることができないようだった。手を繋いでいる男性は、隣の果物屋の店主と会話をしていて、その小さな窮地に気づいていないようだった。
「はい、どうぞ」
ボクはりんごを拾い上げてその子の紙袋の中に入れた。目深に被ったフードのせいで視界が悪いのか、その子はりんごを拾われて、やっと今ボクの存在に気づきましたと言わんばかりの、驚いた様子で言った。
「あ、ありがとう」
どういたしまして、と言いながら、感謝の拍子に視線の上がったその子と眼が合う。卵から孵ったばかりの雛の羽毛のような、臆病で優しそうなひわ色の瞳をしていた。その見たこともない綺麗な瞳に、思わず声をかけようとすると、頭上から聞き慣れた言葉を探す声がした。
「ーー本当にこの辺りには一軒もありませんか?先日からずっと探しているんですが、まったく見つからなくて。この地域の方々は、誰も《教会》へは行かれないのですか?」
この街には教会が1ヶ所しかない。引っ越してきた敬虔な信徒で、街外れのその場所に自分で辿り着けない人はこれまでもいて、その時もこうやって人伝てで探している人が多かった。だから、ボクの耳はこの時も自然とその単語を拾った。条件反射で、その男性に答えていた。
「あの、もしかして、教会を探しているんですか?」
「え?あぁ、そうなんだよ。いろんな人に聞いているんだけれど、なかなか見つからなくてねぇ。」
「それなら、ボク知っています。教会の隣に、とうさんと一緒に住んでいるんです」
「そうなのかい!なんてことだ、それは良いことを聞いた。ボク、よかったら私たちをそこまで連れて行ってくれないかい」
ボクは快く頷いて、2人を家まで案内した。その間、フードの子は男性と話していて、なかなか話せなかったが、
手を繋いだ男の子も一緒だ
聖ヨハネ教会。それが、ボクの生まれ育った”家”だった。
この名前をくれたのは、ボクの生みの親じゃない。生みの親はわからない。ボクは、ここの教会の質素な装飾の扉の前に、捨てられていたのだという。ボクの「とうさん」が、そう教えてくれた。
コハクという名をくれたのは、とうさんだ。この寂れた教会でとうさんは敬虔な神父として、ずっと祈りを捧げ、人々の祈りを聞き続けてきた。この国ではシフィダ神と呼ばれる神様への信仰が盛んだが、王都から離れた郊外の、ほとんど田舎とも言えるこの地域では、信仰はそれほど重要視されていなかった。それも、町の隅にある教会のため、祈りを捧げにここまでやって来る住民も少ない。よって敬虔な教徒を除いては、町外れの小さな教会にくる人はいなかった。
ボクととうさんは、慎ましい生活ながら、ささやかな幸せを育む日々を送っていた。
その日、ボクはとうさんに頼まれて、街へ買い物へ行っていた。教会の奥に繋がる部屋は、ボクらが生活する居住空間だった。そこで、ボクらは寝起きしていたし、ご飯を食べていた。朝に食べるパンや果物が減ってくると、ボクはとうさんに頼まれて、こうして偶に街へ買い出しに来ていた。
街には、通りに沿っていろんな店が並んでいた。パン屋、服屋、果物屋、帽子屋など様々だ。そこでボクは、いつもパンを買う店の前に立って、前の客が注文を終えるのを待っていた。すると、視界の端で、ポトリと赤いりんごが落ちる音がした。
見ると、隣に立っていた子どもが、りんごの詰まった紙袋を抱えて立っていた。自分より少し背丈が小さく、小柄な子供。少し丈の長い上着を羽織り、内気なのか目深にフードを被っている。その子は、りんごが落ちたことに気づきつつも、左手では紙袋を抱え、右手では隣の男性と手を繋いでいるために両手が塞がっていて、りんごをしゃがんで拾い上げることができないようだった。手を繋いでいる男性は、隣の果物屋の店主と会話をしていて、その小さな窮地に気づいていないようだった。
「はい、どうぞ」
ボクはりんごを拾い上げてその子の紙袋の中に入れた。目深に被ったフードのせいで視界が悪いのか、その子はりんごを拾われて、やっと今ボクの存在に気づきましたと言わんばかりの、驚いた様子で言った。
「あ、ありがとう」
どういたしまして、と言いながら、感謝の拍子に視線の上がったその子と眼が合う。卵から孵ったばかりの雛の羽毛のような、臆病で優しそうなひわ色の瞳をしていた。その見たこともない綺麗な瞳に、思わず声をかけようとすると、頭上から聞き慣れた言葉を探す声がした。
「ーー本当にこの辺りには一軒もありませんか?先日からずっと探しているんですが、まったく見つからなくて。この地域の方々は、誰も《教会》へは行かれないのですか?」
この街には教会が1ヶ所しかない。引っ越してきた敬虔な信徒で、街外れのその場所に自分で辿り着けない人はこれまでもいて、その時もこうやって人伝てで探している人が多かった。だから、ボクの耳はこの時も自然とその単語を拾った。条件反射で、その男性に答えていた。
「あの、もしかして、教会を探しているんですか?」
「え?あぁ、そうなんだよ。いろんな人に聞いているんだけれど、なかなか見つからなくてねぇ。」
「それなら、ボク知っています。教会の隣に、とうさんと一緒に住んでいるんです」
「そうなのかい!なんてことだ、それは良いことを聞いた。ボク、よかったら私たちをそこまで連れて行ってくれないかい」
ボクは快く頷いて、2人を家まで案内した。その間、フードの子は男性と話していて、なかなか話せなかったが、
手を繋いだ男の子も一緒だ
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