人の心、クズ知らず。

木樫

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第三話 サキとタツキ。

07

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 思い出すことをそうそうに放棄したが、ちょうど月が明るくなって、太陽の姿が月明かりに照らされた。

 金色のサラサラとした髪。眼力のある吊り目。線の細い身体。色白で若いジェンダーレスな雰囲気。俺より小さな背だ。握りつぶせそう。ってのは嘘。大げさ。

 照らし出された姿を眺めると、それがSPACEのギターであることを理解した。
 俺、ちゃんと覚えてんね。すげぇ。

 太陽はタツキから目を離して、俺をキツく睨みつけながらこちらに近づいてくる。今にも俺を刺し殺しそうな鋭い眼光だ。


「またコイツ? みんな待ってる。打ち上げ行こうよ、月」

「あー今日は行かねェ。オレ金出すから、みんなだけで行ってきてちょ。オレ忙しい」

「……なんで?」

「咲と楽しいコトすんのォ。ネ? イイコだから、太陽はみんなと楽しんできなァ」


 へらへらと嬉しげに笑って、タツキはのらりくらりと定まらない口調で太陽の誘いを断った。

 有無を言わせずポケットから折りたたみの財布を取り出して、そこから諭吉の束を引き抜き、太陽に押しつけるタツキ。

 ま、そーなるなぁ。
 タツキはメンバーをタツキなりに大事にしているけど、俺との用事より優先したことはない。

 それが俺がこいつらにゴキブリより嫌われている理由だけど。

 ドラムの宇宙そらには、前に思いっきりグリグリと足を踏まれたことがある。離れる背中に近くにあったテキーラぶっかけてやったけどな。実はなんとなく投げてみただけね。

 俺を嫌う太陽はタツキに札を差し出され、震え上がった。


「っ!」

「……太陽ォ?」


 太陽は親の敵でも見るように俺を睨みつけて、差し出された万札をバシッ! とキツく振り払った。

 あちゃー、ギターにも喧嘩売られるわけか。血気盛んだね。ありがち。くそつまんね。

 手を叩かれたタツキは少し狼狽するが、睨みつけられたところで俺に変化はないので、いつもみたいに笑ってあはは、と明るく声を出してやる。

 しかし俺が笑うと、太陽の顔色が怒りで赤く染まった。
 あれ、激おこじゃね? 逆効果っすか。なんでだろうね。


「お前ッ、お前みたいなクズが月を振り回すなッ! 真面目に付き合う気もないくせに、月を自分のものみたいに扱うなッ!」

「なんで? 扱ってねぇよ? タツキは自由じゃん。嫌なら嫌って言えばいい」

「は、わかってるくせに……ッ!」

「や、わかんねって。俺はやめていいって言ってんの。縛らない俺の感情や対応に変化を求めるとか、おかしくね?」

「おかしいのはお前だろこのイカレゴミクズ野郎ッ!」


 ドンッ、と胸を強く殴られ、そのまま胸ぐらをギュッと掴み、握られる。


「あ? イテェよ、チビ」


 実は痛くないけど、か弱いアピールをしておいた。太陽、弱ぇー。なんにも響かない。

 タツキが止めようとするのを目で制止する俺は、楽しくって仕方がなくて更にニマンと笑うだけだ。


「月はお前と消えた次の日、いつも目が真っ赤だッ! お前の前じゃ、もう月は月じゃない……ッ! お前と出会う前は、クールで勝手でなに考えてんのかわかんなかったけど、もっと、穏やかに笑ってたんだッ!」

「へぇ」

「傷つけるなら、僕に月をくれ! 受け入れる気がないなら、真剣じゃないなら、悲しませることしかできないなら、もう解放してくれ……ッ!」


 真摯な叫び、というやつだ。

 太陽は瞬き一つでこぼれ落ちそうなほど瞳を潤ませて、タツキを想って俺に噛みついた。

 こいつはタツキに恋をしているのだ。
 俺の、やり方がわからない、まっとうな愛ってやつで。

 でも、その愛すら見えていない。

 自分の隣にいる、守っているはずのタツキが、血の気の引いた真っ白な顔で俺を見ていることを。




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