10 / 42
2.バカにされては笑えない
02
しおりを挟む朝五は容姿を磨く努力をしている。
毎朝軽い運動を欠かさず週に三日は筋肉を育て、服やインテリアにも気を遣いなるべく笑顔を絶やさない。
もし朝五への告白のきっかけが容姿に対する一目惚れだったのなら、夜鳥の幻滅はあり得る話だ。
カッコつけなだけでこと恋愛に関しては見た目に合わずべそべそと泣き虫な朝五が、夜鳥は冷静に不快と気づいた。
(てかそれしかありえねーじゃん。だって一番好きって人を自分から告白したくせに一ヶ月も放置して連絡ガン無視とかポジティブな理由ですんの? 説明もなく?)
「それむしろ嫌いじゃね……?」
意気消沈してテーブルにへばりついたまま、朝五は自分のメッセージで埋まっているトーク画面を意味なくなぞった。
傷口に塩を塗られた朝五のメンタルは、大いにささくれ立っている。
バイト中はなんとか笑顔を保っていても、終わってしまえば素直な顔には嘆きと苛立ちしか生まれない。
またしても、ダメになった。
いつの間にやら、ダメなのだ。
必要以上にネガティブになってしまっても仕方がないだろう。
自分を擁護し、デロンとアメーバ状態になる朝五。
「せっかくバイト終わったってのに小一時間スマホ眺めながら突っ伏してたかと思ったら、なに言ってんだか……」
そうしてジメジメと湿気る朝五に、そばのデスクで事務作業をしていた男が振り向き溜息を吐いた。
朝五は視線だけを上げて応える。
「もうお前しか残ってねぇぞ。お前が帰らねぇと俺も帰れねぇんだよ。男の愚痴なら聞いてやるから、さっさといつものアホ面に戻っちまえ」
「聞いてくれる? 子ども店長」
「叩き出されてぇのか」
ナイフのような視線で突き刺す彼は──夕暮 文紀。
三十代半ばでありながら百六十と少しの控え目な背丈と童顔な文紀は、この居酒屋の店長だ。
朝五と同じゲイである。
お互いがそうだと知ったことをきっかけに親しくなった。
文紀はいわゆるバリタチで、朝五の知る男の中で最も男気に溢れている。
そんな公私共に頼れる文紀と出会って、もう二年が経つ。一回りも年の違う雇い主と雇われ人だが、朝五にとって文紀は気の置けない友人でもあった。
「で、今度はどうフラれたんだよ」
「べっつにー? いつもの好きな人ができたから別れてくださいパターンですよ。浮気だったら顔面にパンチ入れてやんのに今カレもセットで本気宣言とか、どうしようもねぇじゃんな。つけ入る隙ナッスィング」
単刀直入な切り口。
朝五は唇を尖らせる。反論はできない。朝五が悩む理由の大半は、実際交際相手についてだからだ。
文紀はパソコンをシャットダウンしながら「毎回それとか逆にスゲェわ」と感心する。朝五当人は笑えない。
「じゃ、ストーカーもどきってのはその元カレか?」
「違ーう。その気のねー男を無様に困らせるほどバカじゃねーし。ま、フラれちゃっても好きだったんだからさ? 傷つけたりしねーです。孝則のことはちゃんと自分で処理しました。朝五くんは偉いね~」
「ふぅん。じゃあ誰だよ、もどき」
「それはぁ……今カレ、だと思ってる幼稚園児系オレ様変人野郎?」
「は? パターン変わりすぎだろ」
ノートパソコンを閉じた文紀はデスクチェアを回転させ、訝しげに眉を顰めた。
20
あなたにおすすめの小説
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
息の合うゲーム友達とリア凸した結果プロポーズされました。
ふわりんしず。
BL
“じゃあ会ってみる?今度の日曜日”
ゲーム内で1番気の合う相棒に突然誘われた。リアルで会ったことはなく、
ただゲーム中にボイスを付けて遊ぶ仲だった
一瞬の葛藤とほんの少しのワクワク。
結局俺が選んだのは、
“いいね!あそぼーよ”
もし人生の分岐点があるのなら、きっとこと時だったのかもしれないと
後から思うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる