本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

45(sideアゼル)

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 腕の中で温かな体が驚き、固まっているのはわかる。それでもそれをかき抱くことをやめられない。

 表情を殺して耐えていた涙が、いとも簡単に溢れ出して、ポロポロとシャルの体に降り注ぐ。

 知らなかった、知らなかった。
 お前がそんなことを考えていたなんて、知らなかったんだ。

 誰よりも強い俺の体を心配するやつなんて、いるわけがない。

 ましてや殺し合った相手を気遣うことなんて、あるわけがないのに。


「あぁ……っ……お、俺……俺は、そんなこと、気づかなくて……っき、っく……きの……酷いことを、しっ……ぅ……っ」


 ──そのあるわけがないことを、こいつは、しようとした。
 誰もしなかったことを、俺を殺すための存在であるはずの、勇者が。

 シャルは、心の中は俺に贈り物を用意したくて、外に出たいと強請ったのだ。

 結界を解いて外に出られるようになって初めに、俺のための贈り物を探しに行きたいと、言っていたのだ。

 溢れ出る涙が止まらない。
 自分が馬鹿で、マヌケで、心無い存在だと責め立て、嘆くことをやめられない。

 俺は恩人だなんだと追いかけていたから、今ここにいるシャルがどんな男かがわからなかった、節穴野郎。

 今、初めて知った。

 この腕の中にいる男は、底抜けに温かで真っ直ぐな男なのだ。

 自分の命を食事にした俺の元へ日暮れまで花を求めて、汗を拭う時間も惜しんだようにあるがままにやってきたシャルに、俺は胸が張り裂けそうなほど痛感する。

 シャルは、弱い人間なのに、魔族を嫌っていない。

 魔王である俺を、ただのアゼリディアス・ナイルゴウンとして、対等に向き合ってくれている。

 ただ優しくされたから優しくして。大切にされたから大切にして。

 そうやっているだけなのだ。

 敵地のど真ん中で、ともすれば愚直に、真っ直ぐに、正直に、素直に、手の触れるものだけを抱きしめて温めている。

 そんなシャルが誤魔化しや嘘を吐くこれまでと同じ人間だと、どうして思い込んでいた?

 わかっていればあんな無様に取り乱すことなく、本当にそうする必要があるのだとわかったはずだった。

 恩義という一方通行な気持ちで、俺はシャルという個人と向き合っていなかったんじゃないか。

 独りよがりな勘違いをして、激昂して、脅して、怪我をさせて。
 ひたむきなシャルが懸命に贈り物を探し、俺との約束も守りに来るまで、自分ばかり守っていた。

 外側だけが強いフリをして、馬鹿らしい。薄皮一枚引き剥がせば、俺は、なんて。

 俺はなんて──……ッ!


「よ、弱くて……弱くて、悪かった……っ、はっ、傷つけて、怖がらせて、うう、シャル……!」


 たった数秒の間に駆け巡った思考と悔恨に、自分が恥ずかしくてたまらない。

 俺は臆病な、ダメな男だ。
 ダメな魔王だ。

 腕の中のシャルが、もぞりと動く。抵抗しようとしているのかと思い、頬を伝う涙は途端にボロボロと洪水のように増す。


「き、嫌いにならないで……っ」


 どうしようもない馬鹿な俺は、どうしようもない馬鹿なことをしでかしたのに、結局必死に縋りつくのだ。

 それは魔王ではない。
 ただのアゼルの、剥き出しの本心だった。




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