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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
09
しおりを挟むまぁ竜人たちはそのうっかりで気絶するほどの蹴りを決められたのだから、そう責めることでもない気がする。
俺は生きているし、構わないか。
死んでいたらデコピンしたかもしれないが。
むしろ蹴り飛ばされて意識を失ったアリオが、少し気の毒である。
手加減したとは言っていたが、聞くところによるとガドの蹴りは普通の威力じゃないみたいだしな。
あの長い足がミサイルのように突き刺さったのだから、それは痛ましいだろう。
魔族的にはあれを軽いしっぺくらいに捉えているが、人間的には殺人未遂だ。
やはり気の毒である。
「んん……ん、そうだ。空軍にも午後にティータイムがあるみたいだから、よかったらこれを受け取ってくれないか? 俺は無害な勇者だ」
「んむ? これがもしかしてさっきからやたらと香ってきていた、美味しそうな甘い匂いの元か……?」
「確かに、美味しそうな匂いがしてたな」
「あぁ、美味しそうな匂いだ」
となればお詫びを兼ねた友好の証と宣伝がてら、お見舞いをしても悪いようにはならないはず。
俺はずっとさり気なくかつ一生懸命守っていたバスケットを開いて、中からクッキーの紙袋を三つ取り出した。
それを一つずつ信号機カラーの竜人たちに渡していくと、匂いに敏感な竜人たちはよだれを垂らし、興味深そうに紙袋を見つめる。
爬虫類は鼻がいいというから、そういうことなのだろうか。俺は動物も好きだが、爬虫類も好きだ。
「ふんふん、クルミの匂いがするよな?」
「バターの匂いもするぜ」
「おお、クルミにしては香ばしいぜっ」
ふふふ。香ばしいのは、一度クルミにバターをかけて炒っているからだな。
ヒクヒクと鼻をヒクつかせて、いそいそと紙袋を漁り始める三人に、俺は心の中でブイサインを送った。
その光景にスッと不機嫌顔になり、蛇のように目を細めて尻尾をビタビタとさせる人が一人。のほほんバーサーカーこと、ガードヴァイン空軍長官殿である。
「それはまさか俺のじゃねぇだろォな? な? 俺のクッキーが横領されているのを見ちまったのか? ククク、そんなに俺にお仕置きされてェんだな……オーケーファッキン竜人ども。死舞魔将、ガードヴァイン・シルヴァリウス様の地獄のブートキャンプ、始めるぜ。お漏らししてもいいようにパンツの替えは用意しろよ、ボーイ?」
「ガドのぶんはここにあるからやめろ、魔将降臨させるな。なんだそのアメリカンなノリは。どこのマッチョな黒人隊長だお前は……!」
「ふっひょォシャルのクッキーゲットだぜィ!」
慌ててガド用のやや大容量なクッキーの紙袋を手渡すと、ガドは百八十度コロッと態度を切り替え、クッキーを手にニタニタと笑い始めた。
相変わらずとんだおこちゃまさんだ。怒らせると塵になるタイプのおこちゃまだが。
「! うまいぜ……!?」
「うめぇ~! これはぜってぇ合うぜ! はちみつベリーティーにも合うぜ!」
「だな! ゴロゴロサクサクだぞ!」
初めに驚きと歓喜の声を上げたのは、木の幹にぶつかったアリオだった。
続いてオルガ、キリユもきゃっきゃと騒ぎながら、美味い美味いとクッキーを詰め込み頬を膨らませている。
それを見た俺は笑みを抑えきれずに、嬉しくなってニコニコと笑った。
ふふふ、そうなのだ。
今日は勘も戻ってきたのか良くできたのだ。やったぞ、喜んでもらえた。嬉しい。
そんなニコニコの俺を、三人の竜人は頬にクッキーを詰め込んだまま、興味深そうにじっと見つめた。
ん? なんだろう。顔に変なものでもついているのだろうか。
急に熱心に見つめられ、首を傾げる。
クッキーを飲み込んだアリオが、自分の頬をむにむにと揉みながら軽く頷いた。
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