本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
688 / 901
十三皿目 ラブリーキングに清き一票

40

しおりを挟む


 うう、こ、こうなったら俺は帰るしかない。
 コンテストどころじゃないぞ。

「……わ、わかった。叱ったぐらいで別居しないし、女装していたからって嫌いにもなっていないから、取り敢えずええと、俺は帰るからな? な?」
「嫌だ離れんじゃねぇぇぇッ」
「んんん……ッ、よし、おいで。じゃあ俺と一緒に帰ろうか? ん? ぅぐはッ!」

 一緒にと言った瞬間、アゼルが花道から俺の胸に飛び込んできて、ドスッ! と首を絞められる勢いで抱きしめられた。

 下の影にいた俺はペシャンコになりそうだったが、どうにか受け止め、背中をさする。

 暴走思考回路を持っている早とちりの名人なアゼルなので、こちらももうコンテストどころじゃないようだ。

「アゼル、アゼル?」
「ぐ、グルル……! 女装趣味なんてねぇんだ……ッ! 俺の全てはお前基準だぜ……ッ!」
「よしよし、恥ずかしさの限界突破中なんだな」

 麻痺していた羞恥心が帰還し、フィーバータイムになっている。

 抱きついてきたはいいがやはり見られたくないようで、アゼルが首にしがみついて梃子でも顔を上げないのは、ちょっと困った。

 仕方なく首の魔導具を外し、ヒョイッと自分より背の高いアゼルを横抱きにする。

 アゼルがゴネ始めてからの一連の騒動を聞いて、静まり返った会場内。

「うん。ごめんな、ちょっと通してもらいたいんだ」

 ザザッ! と一言で道を開けてくれた観客の間を縫って、出口へ向かって歩いた。

 熱狂していた筈の観客たちがすぐ道を開けてくれたのは、不思議だな。

 おかげでぶつかったりすることなく会場の出口にやってくることができたので、感謝である。

 アゼルはその間ずっとひたすら小言や泣き言をツイートしていた。

 曰く「もうちょっとでラブリーキングになって名実ともに一番だったのに」やら。

「俺史上最低な姿を他の誰でも構わないのに唯一構う奴に見られた」やら。

「後その服なんだよなんかエロいじゃねぇかチクショウ俺だけに見せろよ馬鹿野郎エロエロ男め」やら、だ。

 解読不可能だったので、全てに「うん、うん。また後でな」と返した。

 ううん。俺が来たせいで、カオスな状態になってしまったな。
 アゼルを驚かせたのも申し訳ないし、コンテストをダメにしてしまったのも申し訳ない。

 出口にやってきた俺は、せっかくのイベントを潰してしまった罪悪感から、退室前にクルリと会場内へ振り向く。


「ん……お騒がせして、本当に申し訳ない。この早とちりがちな泣き虫な女王様のかわいい唇は、俺が塞いでおくので──美しいお嬢さんたち。どうか許してほしい」
「あぁ~~~ッ!」


 せめてもの気持ちとして、かわいいコンテストの会場に相応しい振る舞いで、立ち去ろう。

 そう思ったが故のお茶目なセリフだ。

 ペコリと頭を下げてから、なぜか更に悲鳴を上げ始めたアゼルを宥めすかしつつ、俺たちは激動とカオスの会場を後にした。

 ──バタン。

「「「だ、抱かれたいキング……ッ!?」」」
「はぁ……アホらしい。帰りましょう」
「? 駄目だ、脳の回路が壊死しているのか? 正式に給与の発生する任務として優勝してこいと言われたのだから、優勝しなければいけないぞ? クソ虫よ」
「…………ダンゴムシが恋しい」



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...