誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
44 / 454
第三話 概ね普通の先輩後輩

09

しおりを挟む


 偉大なる先輩が怒りで震えているのに、なぜ白けた目で俺を見るのかわからない。

 ってか、コイツなんでキレてるんだよ。
 俺がなにしたってんだ?

 勝手に予定を決められて外に連れ出された挙句、すこぶる映画を楽しんで、飲みもしないコーヒーを買い置きすんのを許してやって、その買い物を待っててやったんじゃねぇか。俺の意思は基本無視でもよ。

 ガルルル、と唸ると、それを無視した(ほらな基本無視だろ)三初は目線だけで中都を指し、小首を傾げる。


「こちらさん、どなたですか」

「それマジ俺のセリフだし! グーはダメっしょグーは! 俺のセンパイアホ犬ちゃんだかんね!? あんまねぇ脳細胞がグーで死滅したらどうすんだよ!」

「待てコラ。なんで俺を間接的に貶すんだオイ。まだたっぷりあるわ脳細胞」

「いやないものを死滅させられないしそもそも俺の玩具せんぱいだし」

「お前はいろいろと見え隠れしてるんだよッ!」


 馬鹿にしてンのか? つーか仲良いのかお前ら。仲良いだろ。

 休日の混みあった店の前で男三人なにをしているんだというのは重々承知なので、ツッコミはなしだ。

「ちょっとこっちこい」と二人の腕を引っ張って通路の端に寄り、人の邪魔にならないようにする。
 こいつら目立つかんな、顔とか派手さとかで。俺の地味さを見習えってもんだぜ。

 いつも以上に塩っぱい三初に中都を紹介すると、三初は自分の名を名乗ってそれきり、興味なさそうに壁にもたれかかった。

 中都は中都で三初が同じ俺の後輩という立ち位置だと知って、後輩の振る舞いがわかってないだとか不満たっぷりむくれる。

 あぁ? やっぱり仲悪いのか?
 若いやつらの考えることはイマイチよくわかんねぇ。こいつらは歳が近いはずだけどな……初対面でいけ好かないとかあんのな。

 まぁそういうこともあるか、なんて腕組みしつつ考えていると、三初が俺の足をつま先でゴスッ! と蹴る。ンだよ。今なにも言ってねぇだろうが。

 悲しきかな、もう突然蹴られるぐらいじゃいちいち驚かなくなってきた。

 で、これからどうするのやら。
 俺はとりあえずアイスが食いてぇな……和菓子も好きだ。甘いもんはちょびっとイイ気分にしてくれる。

 晩飯はなんでもいいけど、三人じゃダメなのか? まあ三初と中都は初対面だし、気まずいか。いやそもそも三初とは、晩飯を食う約束なんてしてねぇけど。ハブはよくねぇ。

 後輩とは、をブツブツ語っている中都の話を右から左に流しつつ、ああ疲れた、甘いもんが食いたい、と唯一無二の俺の恋人を思い浮かべる。

 すると不意に──三初が俺の手を掴み、めんどくさそうにグイッと強く引っ張って有無を言わさず歩き出した。


「はい挨拶終了しましたね。じゃあな八坂。サヨナラ。御割先輩、行きますよ」

「え」
「んなっ!?」

「俺、結構忙しいんで」


 ──いや、暇だろお前ッ!

 そんなツッコミは口から出ず、意外と強固に繋がれた手を振り解くこともできず。

 空気なんて読むどころかどうでもいいらしい三初に、困惑する俺は手を引かれるがまま足を進める。


「ちゅ、中都! お好みは今度っ、変わりなくてよかったわ! またなぁ!」

「センパイ~っ! 俺このモールに入ってるプレイバックマウスって店で働いてるんで、暇な時来てほしいっす~っ!」

「おー!」


 なんとか別れの挨拶はしたが、三初が長い脚を駆使してさっさと進んでいくせいで中都と俺の距離はどんどん離れていき、最期のほうは叫んでいるような声量である。ってかちょっと、マジで速い、マジで競歩。

 そうしてついていくのに必死な俺は、いつも飄々とした化け猫じみた三初が珍しく機嫌が悪い表情をしていることなんて、まるで気がついていなかった。




しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか

相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。 相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。 ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。 雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。 その結末は、甘美な支配か、それとも—— 背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編! https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

処理中です...