誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第三話 概ね普通の先輩後輩

09



 偉大なる先輩が怒りで震えているのに、なぜ白けた目で俺を見るのかわからない。

 ってか、コイツなんでキレてるんだよ。
 俺がなにしたってんだ?

 勝手に予定を決められて外に連れ出された挙句、すこぶる映画を楽しんで、飲みもしないコーヒーを買い置きすんのを許してやって、その買い物を待っててやったんじゃねぇか。俺の意思は基本無視でもよ。

 ガルルル、と唸ると、それを無視した(ほらな基本無視だろ)三初は目線だけで中都を指し、小首を傾げる。


「こちらさん、どなたですか」

「それマジ俺のセリフだし! グーはダメっしょグーは! 俺のセンパイアホ犬ちゃんだかんね!? あんまねぇ脳細胞がグーで死滅したらどうすんだよ!」

「待てコラ。なんで俺を間接的に貶すんだオイ。まだたっぷりあるわ脳細胞」

「いやないものを死滅させられないしそもそも俺の玩具せんぱいだし」

「お前はいろいろと見え隠れしてるんだよッ!」


 馬鹿にしてンのか? つーか仲良いのかお前ら。仲良いだろ。

 休日の混みあった店の前で男三人なにをしているんだというのは重々承知なので、ツッコミはなしだ。

「ちょっとこっちこい」と二人の腕を引っ張って通路の端に寄り、人の邪魔にならないようにする。
 こいつら目立つかんな、顔とか派手さとかで。俺の地味さを見習えってもんだぜ。

 いつも以上に塩っぱい三初に中都を紹介すると、三初は自分の名を名乗ってそれきり、興味なさそうに壁にもたれかかった。

 中都は中都で三初が同じ俺の後輩という立ち位置だと知って、後輩の振る舞いがわかってないだとか不満たっぷりむくれる。

 あぁ? やっぱり仲悪いのか?
 若いやつらの考えることはイマイチよくわかんねぇ。こいつらは歳が近いはずだけどな……初対面でいけ好かないとかあんのな。

 まぁそういうこともあるか、なんて腕組みしつつ考えていると、三初が俺の足をつま先でゴスッ! と蹴る。ンだよ。今なにも言ってねぇだろうが。

 悲しきかな、もう突然蹴られるぐらいじゃいちいち驚かなくなってきた。

 で、これからどうするのやら。
 俺はとりあえずアイスが食いてぇな……和菓子も好きだ。甘いもんはちょびっとイイ気分にしてくれる。

 晩飯はなんでもいいけど、三人じゃダメなのか? まあ三初と中都は初対面だし、気まずいか。いやそもそも三初とは、晩飯を食う約束なんてしてねぇけど。ハブはよくねぇ。

 後輩とは、をブツブツ語っている中都の話を右から左に流しつつ、ああ疲れた、甘いもんが食いたい、と唯一無二の俺の恋人を思い浮かべる。

 すると不意に──三初が俺の手を掴み、めんどくさそうにグイッと強く引っ張って有無を言わさず歩き出した。


「はい挨拶終了しましたね。じゃあな八坂。サヨナラ。御割先輩、行きますよ」

「え」
「んなっ!?」

「俺、結構忙しいんで」


 ──いや、暇だろお前ッ!

 そんなツッコミは口から出ず、意外と強固に繋がれた手を振り解くこともできず。

 空気なんて読むどころかどうでもいいらしい三初に、困惑する俺は手を引かれるがまま足を進める。


「ちゅ、中都! お好みは今度っ、変わりなくてよかったわ! またなぁ!」

「センパイ~っ! 俺このモールに入ってるプレイバックマウスって店で働いてるんで、暇な時来てほしいっす~っ!」

「おー!」


 なんとか別れの挨拶はしたが、三初が長い脚を駆使してさっさと進んでいくせいで中都と俺の距離はどんどん離れていき、最期のほうは叫んでいるような声量である。ってかちょっと、マジで速い、マジで競歩。

 そうしてついていくのに必死な俺は、いつも飄々とした化け猫じみた三初が珍しく機嫌が悪い表情をしていることなんて、まるで気がついていなかった。




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