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第四話 後輩たちの言い分
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しおりを挟む三初がこんなに長文を話したのは、初めてな気がする。しかも正論すぎた。
確かにセックスのあとは疲れているのでたいてい濡れた髪にパンツ一枚で寝る癖がある俺は、昨日も服を着ていたものの、ドライヤーはサボっている。自業自得でなにも言えない。
情けない? 普段の威勢の良さはどこに行った? うるせェぞ。
ジッと目を見つめたまま淡々と自分の落ち度と過去の所業を当てつけられて、完膚なきまでに折られてみやがれってんだ。
ぐうの音も出ない完敗に決まっているのだ。もういっそ盛大に労われ。
「く、っ……お……俺がその……わ、悪かったです……」
「はぁ……ま、このしぶとさじゃまだピークじゃないか……鈍感残念ボルボックス野郎な先輩は、しんどさにも鈍いんでしょうけどね……」
「うぐッ……ぐ、ぐぐ……!」
渋々納得した俺に、三初はようやくいつもどおりの掴みどころのない表情に戻った。
絞り出したらぐうの音も出たな、俺。
悔しげに呻いている俺の赤い頬に冷たい手を触れさせながら、三初は「なんでどうあがいても黙ってられないんですか」と言う。
「うぁぁ……」
そう言われると、なんとなく後頭部をガシガシと掻いて誤魔化してしまう。
そんなこと俺が知るか。
つまるところ、なんでいつもこうなるかって理由だろ。余計知るか。
強いて言うなら、お前がなにか嫌味を言わないと俺を気遣えない天邪鬼で、俺はその嫌味を突っぱねないとむず痒い面倒な男ってことだろうが。
多少は気だるいがそれなりに鍛えているし体力もあるから、俺はそこそこ元気。今すぐどうこうなるほどじゃない。
でも三初が大げさに過去までほじくり出して言うのは、たぶん、きっと、おそらく、概ね、俺を心配しているからだ。
本人が気づいているかは別として、とりあえず、俺の頬をスリスリと触っているのは確実に冷やそうとしている。三初は体温が低いので気持ちいい。
うっ、チクショウ。
なんかこう、自惚れっぽい。ちょっとハズいじゃねぇか。
気遣われていることには途中で気づいたので、風邪とともにそれを自覚すると、くすぐったかった。わかりにくいンだよ、コイツ。
「……文句は言ってねぇよ。お前の言うこと、聞く。大したことじゃねぇけど、ちゃんと帰って寝る」
気遣いに報いるために自己を労ることにした俺は、決まり悪く宣誓した。
すると三初はフッ、と鼻で笑い、頬から手を離す。
「初めから素直になればいいのに。アンタ、俺に口で勝てたことないですよね? 虚勢と強情は不治の病だろうけどさ、無駄に楯突かないで? 電信柱でもできることですよ? キレ芸で体力消費されて倒れられたら心底目障りですし。ちなみにベッド以外で倒れたら置いて帰るんでヨロシク」
「くそう、従うと決めた直後に反故にしてェ……! 電信柱でコイツの鼻っ柱フルスイングで殴りてェ……! あとお前、最近先輩に対する敬語が完全に消え失せてんぞ」
「あ、タクシー。すみません、乗ります」
「聞けよ!」
非常に腹のたつ言い方での散々な言われようにガオウッと吠えるが、まるで気にしない三初は俺を引きずり、タクシーの後部座席に突き飛ばした。
く、クソ、この天邪鬼野郎め……!
全然かわいくねぇ……!
熱にうかされつつある脳内で拳を握るが、やはり素直に手を引く。
運転手に行き先を告げて淡々と処理する三初という男のことが、また少しわかったからだ。
さっきの三初の言葉を訳すと、要するに『甘く見ていると悪化するかもしれないからさっさと帰って休め』ということだと思う。なにが面白いのか、至極シンプルなことを複雑怪奇な言い方で言っていたんだろうよ。
三初のことだから本当のことはわからないが、もしそうなら少しだけ嬉しいし、どことなくかわいいかもしれない。
そう思った俺は、たぶん風邪が脳細胞の隅々まで蔓延してるんだと思う。
まぁ、風邪なんか引くと弱っちまう。
情けないことに、それのせいだ。そうに決まってる。うん。それしかねぇ。
「なぁ、ありがとよ」
「顔死んでますよ」
素っ気ない返答は、いつもどおりいけ好かない。けれど不快ではなかった。
でも、俺のこの恥ずかしいデレは死んでも表に出さん。出させねぇ。
ラブストーリーのフラグが立ってもバトルアクションに変えてしまうような俺だから。
三初 要の天邪鬼と同じくらい、御割 修介の意地っ張りは、年季が入ったものなのだ。
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