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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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「なんですか?」
「なんか言えよ! うまいとかまずいとか! なんかあんだろッ?」
「味は悪くないけど見た目とクセが強い。よって四十二点。生地を作る時は丁寧にどうぞ」
「違うそうじゃない具体的なそういうのはいいんだよもっとバレンタインっぽいやつだよコラッ!」
「うまいとかまずいとかじゃないじゃないですか」
ギリギリと握りつぶさん勢いで三初の手を握りしめながら、深夜なので控えめに叫ぶ。
すると三初は俺の手首をかなり強めのチョップで叩き落とし、黙れとばかりに腕の中へ押し込められた。
「うっ、も、クソがぁ……!」
三初の腕の中に閉じ込められたまま唸る。かんたんな俺は、抱きしめられるだけで多少勢いが削がれてしまう。
こんなんじゃバカみてぇだろうが。
いや、わかってるけどよ。
ちゃんと好かれてるのか確認したいなら、俺が普通に俺のことが好きか、聞けばいい話だ。
頑なに意地を張る俺がマヌケなだけだが、どうしても言えない。性分である。
自分ばっかり三初の手のひらで転がされるのが悔しくて不貞腐れて、拗ね由来の胸の痛みがキュウキュウと押し寄せた。
どうにもムカついて三初の背中に回した手に力を込め、ルームウェアの布地を握りしめてそっぽを向く。
「バレンタインを持ってしても言えないとは、シラフだとガッチガチの意地っ張りだなー……」
そうするとなにやらため息混じりに呟いた三初が、俺の背中をトン、トンと寝かしつけるように叩き始めた。
「っ、んなことしなくても寝れるわ、ミラクルサディスト」
「はいはい。あんたが俺に言いたかったことはもう吐かせたんで知ってますから、そう威嚇しないしない」
「は、なん、なんだよ……?」
妙な言い回しに、唸り声を止める。
ギュッと胸元で抱きしめられているために、三初の顔はよく見えない。
「まー……俺のことはとっくに、先輩が独占してますよね」
ビクッ、と肩が跳ねた。
ルームウェアを握っていた手に力が篭もる。
「俺が俺のままでいれる場所の提供って時点で、それ、相当なもん貰ったよね。ついついちょっかいだして構っちゃうのも、あー……先輩だからですよ」
「……腹壊したのかお前」
「ちょっと黙っててくれます?」
突然なんの脈絡もなく甘ったるいことを明後日の方向を見て言い始めた三初に、俺のマフィンでおかしくなったのかと思ってしまった。
冷淡に一蹴され、大人しく黙り込む。
なぜって、照れくさすぎて硬直してるからだよ。ほっとけ。
するとはぁ、と呆れたため息のあと、三初が俺に囁く新事実。
「酔ったあんたが言ったんでしょうが。『三初を独占したいから、誰よりも好きになって』って」
「は、はっ……!?」
あまりの羞恥に呼吸が止まるかと思ったくらい、体が縮みあがった。
まてまてまて。
そ、そんなこと心の中でしか、いや心の中ですらそこまであけすけに思ったことねぇぞコラ。酔った俺、俺ッ!
絶対言えないと思っていた本音。
それがとっくにバレていたことに俺はまともな言葉が紡げず、唇をハクハクと薄く開閉させる。
三初は静かになったとケロッと言うが、俺の脳内は大惨事。
心臓はバクバクと音を立て、口から飛び出してしまいそうだ。
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