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第2章 -少女期 復讐の決意-
82.閑話 Sideタクト 恩人との出会い
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「グアアアアアアァァァァァァァアアアアァァ!!!!・・・・」
ズバンッブシャーーーッ
・・・ゴトッ
──────来るはずの痛みや衝撃が無く、害獣の断末魔が聞こえたタクトは固く閉じていた目を恐る恐る開いた。
するとそこには、一人のケモ耳がある屈強な獣人が剣についた血を払っている姿があった。
足元を見ると先程まで大きな口を開けてタクトに襲い掛かっていたクマの様な害獣が、その首と体が離れた状態で横たわっていた。
「おい、大丈夫か?ケガしてないか?・・・お前達、そんな軽装でしかも生身でこんなところで・・・一体何をしてるんだ?まさか、奴隷商から逃げてきた者達か?」
獣人は眉間に皺を寄せ、非常識極まりない状況の俺達を怪訝に見つめていた。
そりゃあそうだが・・・俺達だって好きでこんなことしてる訳じゃない。
タクトはムッとしながらも、しかし命の恩人にわざわざ愚痴をこぼすのも・・・と改め、まずは助けてくれたことへの感謝を伝えようと口を開きかけた時だった。
「ヒッ!!!じゅ、獣人だあああぁぁぁ!!おいっ何してる!?早く逃げろっ!!」
我先に逃げていた奴が害獣の叫び声が聞こえなくなったからだろう、少し近づいてきて獣人を目にした途端叫んだ。
今までの人生で確かに獣人を見たのは初めてで、「獣人は害獣と同じく狂暴な存在だ」と教えられてきたが・・・命を助けてくれた恩人に対してなんて失礼なことを言うんだ。
獣人も、先程より眉間に皺を寄せて難しい表情をしてただただ黙ったままだ。
タクトがこの恩知らずに一喝してやろうと立ち上がった時だ。
パカラッガタガタッという馬車が近づく音と、「お~い!!大丈夫か~!!」という声が聞こえてきた。
その声が聞こえた時、今まで渋い顔をしていた獣人の表情が和らいだ気がしたし、人間の姿が確認出来て皆ホッと胸を撫で下ろした。
「まったく、慌てた様子の商隊が見えたと思ったら一人で駆けていくんだもの、ビックリしたよ。彼等を助けに行ったかと思ったら素通りしていくし・・・。この子達を助けたかったんだね、なるほど。あの商隊の奴等・・・妙にニヤニヤしてたと思ったら、趣味の悪い。」
「おい、今回はまだ俺達護衛がまだいたから良かったが・・・お前一人の時は気を付けろよ?あくまでも俺達は”モレッツ商会”の護衛なんだから。」
「君、立てる?あぁ・・・怪我をしているね、痛いのによく泣かずに頑張った。すぐに手当てしてあげるからね」
「貴方達は大丈夫ですか?怪我してませんか?」
穏やかそうな人達で安心した。
今日会った中ではダントツで”まともな人間”に、心の底から安心した。
ケガもしていてチビだからか、とても丁寧に接してもらい何だかむずがゆい。
手を貸してもらいながら立ち上がり、傷の手当てを受けた。
・・・包帯まで巻いてくれるなんて、後で金を請求されるとかいうオチじゃないよな?と不安になる程手厚く処置をしてくれた。
他の男達も、濡らしたタオルで拭われたり、飲み物を配られて一息ついていた。
命の恩人である獣人はというと、恐らく上司だろうこれまた屈強な男に小言を言われていたが、今は数人の男達と倒した害獣の解体や処理をしていた。
少し開けた場所に馬車を止めて火をおこし、俺達にも料理を振舞ってくれるそうだ。
あの恐ろしかった害獣も、美味しいステーキになるそうで・・・ここまでの怒涛の流れに正直脳が追い付いていない。
しかし、傷の手当ても終わったところで未だにお礼が言えてないことに気付いた俺は、恐る恐る助けてくれた獣人に近づいていった。
「あ、あの・・・その、助けてくれて、ありがとうございます。」
「あぁ・・・いや、君が無事で良かったよ。今後は絶対にそんな軽装でこんなところに出かけちゃダメだぞ。」
ポンポン、と大きな手で頭を撫でながら、思ったよりも優しい声色で返事をしてくれた。
温かい温度を感じて、ようやく命の危機が去ったのだと思うと涙が出てきた。
しかもこんなに優しい命の恩人に、心無い言葉を浴びさせてしまったという羞恥もあり・・・タクトは涙をこらえるのに相当奥歯を食いしばった。
小さな体で涙をこらえる姿に加護欲を刺激されたモレッツ商会の面々は、あれやこれやとタクトの世話を始めた。
◇
「えっ皆さん王国の商人なんですか?」
振舞ってくれた害獣のステーキ串、温かいスープを食べている間の会話で判明した事実に、思わずタクトは聞き返してしまった。
「あぁ、そうだよ。といっても王都からかなり遠い・・・所謂辺境と呼ばれる領なんだけどね。バジル領という素敵な都市から来た、モレッツ商会の者さ。これでも結構有名で、他国にも支店を出してるんだけどなぁ~。ほら、石鹸(シャボン)って聞いたことない?アレを売ってる商会だよ。」
「お前知ってるか?」「いや、知らねぇな・・・」「何か商人から聞いたことあるような」
「それよりスープおかわりしてもいいか?」「こんなウメェもん食ったの初めてだ」
誰一人ピンときていない様子を見た商人は、ガックリと落ち込んでいた。
「いやぁ、俺達もまだまだだな。モンブ国でしたっけ?来年にはモンブ国にも名が届くように頑張りますね!さぁ、おかわり大丈夫ですよ!遠慮せず食べてください。」
失礼な態度に嫌な顔一つもせず、気にする素振りなく普通に対応してくれるモレッツ商会の方々を見て、タクトの中の悪いイメージで固まっていた”王国人”像が崩れていく。
「・・・王国人って、皆さんみたいな優しい常識人もいるんですね。」
思わずポロリ、と心の声が出てしまったタクトは、ハッ!と慌てて口を押えるが、時すでに遅くモレッツ商会の面々はタクトに視線を集めていた。
「何か、王国人に意地悪でもされたのか?」
見かねた獣人が何でもないように聞いてくれて、少しホッとした。
「そうなんすよ!!俺等そりゃ~酷い目にあって!!!」
「それに害獣に襲われたのも王国人のせいで!!!」
何故か聞かれたタクトではない男達が、堰を切った様に今までに受けた王国人からの悪行をこぞって話し始めた。
「───────そうですか、そんなことが・・・。確かに、そこまで酷い目にあったら王国人に対する偏見が出来てもおかしくないですね。同じ王国人として、その人達を心底軽蔑します。我々が言うのもなんですが、王国人は決してそいつ等みたいな奴等ばかりではありませんから。」
苦笑しながら弁解する商人に、勿論だと言う様に大きく頷いた。
「勿論です!命の恩人である皆さんも、王国人ですから!それだけで”あぁクソだったのはアイツ等だけかもしれない”と十分思いましたし!・・・変なことを言ってすいません。」
「いやいや、当然だよ!・・・同じ王国人の無礼を謝罪、って言うのはおかしな話だけど。お詫びに皆さんの行き先であるモンブ国まで、我々が責任を持ってお送りしますよ。その王国の商人達の話も聞きたいし。勿論金銭はいただきませんし、こんなもので良ければ食料も用意しますので。・・・どうでしょう?」
商人からの提案を聞いた直後、男達は興奮気味に喜びをあらわにした。
「やったーーー!!安全に帰れる!」「歩かなくて済むぞ!」「貴方方は神様ですか?!」
「何でも話します!ありがとうございます!!」「こんなものって・・・!こんなに美味しい物逆に良いんですか?!」
夢の様な条件に、つい先刻まで死を覚悟した者達とは思えない程嬉しそうにしていた。
タクトも予定通りの日程で帰路に着くことができることに、思わず笑みがこぼれた。
それから数日、タクト達とモレッツ商会の面々は共に旅をするうちにすっかり打ち解けた。
初めは遠巻きに獣人を見ていた男達も、1日経った頃には助けてもらった際の非礼を詫びていた。
一番小さい事もあり特に相手をされていたタクトも、一流の商人達から聞く話が面白く・・・そして勉強になった為いろんな話を聞いたし喋った。
話している内に判明したのだが、例の周辺国で出ていた条件の良い求人はモレッツ商会のものだったようだ。
しかも”どうせ上辺だけの条件だ”と見下していたものは、本当にそのままの良い条件だったという事も分かりタクトは内心悔しくなってしまった。
勘違いした能天気な男達の一人が、「俺達もそっちで雇ってくれよ」と馴れ馴れしくお願いした時はちょっと・・・いや大分内心で期待していたがバッサリと断られた。
「商売は何より信用が大事です。貴方達は今回の出張研修はともかく、しっかりと契約を交わし研修も行われているんですよね?それを先方と話し合わずに勝手に別の所に就職するから辞める~なんて虫のいい話ありませんよ。それに何より無責任だ。そんな人達を心から信用出来る人がいますかね?・・・少なくとも俺達は信用できません。貴方達がちゃんと働いて、それでも違うと思ったのであれば雇用主とちゃんと話し合ってすっぱり辞めてからだったら、その時はちゃんと面接させていただきますよ。」
商人の言葉に、罰が悪そうな顔で男達はすごすごと引っ込んでいった。
とても、とても残念に感じてしまったが・・・何だかきっぱりと言う商人がカッコよく見えた。
商人達が話す内容は本当にどれも輝いていた。
特にバジル領やその領地を治める”バジル家”の話も、物語を聞いているようで楽しかった。
バジル家のお嬢様は、素晴らしく美しくそして優しい女の子だそうだ。
俺が今回出会った貴族令嬢と全く真逆の女の子像で、反射的に「嘘だ、そんな奴いるわけない」と言ってしまった。
それからアイリ?とか何とかいう奇怪な色彩を持った、性格の悪い令嬢の話をしたりオーナーの話をしたりモンブ国の店の話をしたりしていると・・・あっという間にモンブ国に到着した。
「本当ありがとうな!」「助かったよ、今度うちの店に食べに来てよ!」
「飯美味かった!あんがとな!」「またちゃんと店辞めて、そっち行くときはよろしくな!」
それぞれ別れの挨拶をしている中、無事にそして予定よりも早く帰ってこれて嬉しいはずなのに、寂しさで涙が出てきたタクトは、獣人と商人の服を掴んで固まってしまっていた。
二人は顔を見合わせて苦笑し、それぞれポンポンっと頭を撫でてやる。
「姉貴に早く会いたいって言ってたじゃねーか。運が良けりゃまた会える。元気でな。」
「大丈夫、手紙を書くと言っただろう?お願いしたこともあるし、絶対にまた会いに来るから。それまでにもっと大きくなってるんだよ?さぁ、お姉さんが待ってるよ。」
優しい言葉をもらい、一度ギュッと目をつぶってゴシゴシと目元を拭いた。
「っ、本当に、ありがとうございました!俺、絶対に将来モレッツ商会で働けるようにっ頑張ります!手紙も書きます!だから・・・絶対!また会いましょうね!!」
──────────こうしてタクト達の慌ただしい研修は終わり、無事に各自の家路に着いた。
ズバンッブシャーーーッ
・・・ゴトッ
──────来るはずの痛みや衝撃が無く、害獣の断末魔が聞こえたタクトは固く閉じていた目を恐る恐る開いた。
するとそこには、一人のケモ耳がある屈強な獣人が剣についた血を払っている姿があった。
足元を見ると先程まで大きな口を開けてタクトに襲い掛かっていたクマの様な害獣が、その首と体が離れた状態で横たわっていた。
「おい、大丈夫か?ケガしてないか?・・・お前達、そんな軽装でしかも生身でこんなところで・・・一体何をしてるんだ?まさか、奴隷商から逃げてきた者達か?」
獣人は眉間に皺を寄せ、非常識極まりない状況の俺達を怪訝に見つめていた。
そりゃあそうだが・・・俺達だって好きでこんなことしてる訳じゃない。
タクトはムッとしながらも、しかし命の恩人にわざわざ愚痴をこぼすのも・・・と改め、まずは助けてくれたことへの感謝を伝えようと口を開きかけた時だった。
「ヒッ!!!じゅ、獣人だあああぁぁぁ!!おいっ何してる!?早く逃げろっ!!」
我先に逃げていた奴が害獣の叫び声が聞こえなくなったからだろう、少し近づいてきて獣人を目にした途端叫んだ。
今までの人生で確かに獣人を見たのは初めてで、「獣人は害獣と同じく狂暴な存在だ」と教えられてきたが・・・命を助けてくれた恩人に対してなんて失礼なことを言うんだ。
獣人も、先程より眉間に皺を寄せて難しい表情をしてただただ黙ったままだ。
タクトがこの恩知らずに一喝してやろうと立ち上がった時だ。
パカラッガタガタッという馬車が近づく音と、「お~い!!大丈夫か~!!」という声が聞こえてきた。
その声が聞こえた時、今まで渋い顔をしていた獣人の表情が和らいだ気がしたし、人間の姿が確認出来て皆ホッと胸を撫で下ろした。
「まったく、慌てた様子の商隊が見えたと思ったら一人で駆けていくんだもの、ビックリしたよ。彼等を助けに行ったかと思ったら素通りしていくし・・・。この子達を助けたかったんだね、なるほど。あの商隊の奴等・・・妙にニヤニヤしてたと思ったら、趣味の悪い。」
「おい、今回はまだ俺達護衛がまだいたから良かったが・・・お前一人の時は気を付けろよ?あくまでも俺達は”モレッツ商会”の護衛なんだから。」
「君、立てる?あぁ・・・怪我をしているね、痛いのによく泣かずに頑張った。すぐに手当てしてあげるからね」
「貴方達は大丈夫ですか?怪我してませんか?」
穏やかそうな人達で安心した。
今日会った中ではダントツで”まともな人間”に、心の底から安心した。
ケガもしていてチビだからか、とても丁寧に接してもらい何だかむずがゆい。
手を貸してもらいながら立ち上がり、傷の手当てを受けた。
・・・包帯まで巻いてくれるなんて、後で金を請求されるとかいうオチじゃないよな?と不安になる程手厚く処置をしてくれた。
他の男達も、濡らしたタオルで拭われたり、飲み物を配られて一息ついていた。
命の恩人である獣人はというと、恐らく上司だろうこれまた屈強な男に小言を言われていたが、今は数人の男達と倒した害獣の解体や処理をしていた。
少し開けた場所に馬車を止めて火をおこし、俺達にも料理を振舞ってくれるそうだ。
あの恐ろしかった害獣も、美味しいステーキになるそうで・・・ここまでの怒涛の流れに正直脳が追い付いていない。
しかし、傷の手当ても終わったところで未だにお礼が言えてないことに気付いた俺は、恐る恐る助けてくれた獣人に近づいていった。
「あ、あの・・・その、助けてくれて、ありがとうございます。」
「あぁ・・・いや、君が無事で良かったよ。今後は絶対にそんな軽装でこんなところに出かけちゃダメだぞ。」
ポンポン、と大きな手で頭を撫でながら、思ったよりも優しい声色で返事をしてくれた。
温かい温度を感じて、ようやく命の危機が去ったのだと思うと涙が出てきた。
しかもこんなに優しい命の恩人に、心無い言葉を浴びさせてしまったという羞恥もあり・・・タクトは涙をこらえるのに相当奥歯を食いしばった。
小さな体で涙をこらえる姿に加護欲を刺激されたモレッツ商会の面々は、あれやこれやとタクトの世話を始めた。
◇
「えっ皆さん王国の商人なんですか?」
振舞ってくれた害獣のステーキ串、温かいスープを食べている間の会話で判明した事実に、思わずタクトは聞き返してしまった。
「あぁ、そうだよ。といっても王都からかなり遠い・・・所謂辺境と呼ばれる領なんだけどね。バジル領という素敵な都市から来た、モレッツ商会の者さ。これでも結構有名で、他国にも支店を出してるんだけどなぁ~。ほら、石鹸(シャボン)って聞いたことない?アレを売ってる商会だよ。」
「お前知ってるか?」「いや、知らねぇな・・・」「何か商人から聞いたことあるような」
「それよりスープおかわりしてもいいか?」「こんなウメェもん食ったの初めてだ」
誰一人ピンときていない様子を見た商人は、ガックリと落ち込んでいた。
「いやぁ、俺達もまだまだだな。モンブ国でしたっけ?来年にはモンブ国にも名が届くように頑張りますね!さぁ、おかわり大丈夫ですよ!遠慮せず食べてください。」
失礼な態度に嫌な顔一つもせず、気にする素振りなく普通に対応してくれるモレッツ商会の方々を見て、タクトの中の悪いイメージで固まっていた”王国人”像が崩れていく。
「・・・王国人って、皆さんみたいな優しい常識人もいるんですね。」
思わずポロリ、と心の声が出てしまったタクトは、ハッ!と慌てて口を押えるが、時すでに遅くモレッツ商会の面々はタクトに視線を集めていた。
「何か、王国人に意地悪でもされたのか?」
見かねた獣人が何でもないように聞いてくれて、少しホッとした。
「そうなんすよ!!俺等そりゃ~酷い目にあって!!!」
「それに害獣に襲われたのも王国人のせいで!!!」
何故か聞かれたタクトではない男達が、堰を切った様に今までに受けた王国人からの悪行をこぞって話し始めた。
「───────そうですか、そんなことが・・・。確かに、そこまで酷い目にあったら王国人に対する偏見が出来てもおかしくないですね。同じ王国人として、その人達を心底軽蔑します。我々が言うのもなんですが、王国人は決してそいつ等みたいな奴等ばかりではありませんから。」
苦笑しながら弁解する商人に、勿論だと言う様に大きく頷いた。
「勿論です!命の恩人である皆さんも、王国人ですから!それだけで”あぁクソだったのはアイツ等だけかもしれない”と十分思いましたし!・・・変なことを言ってすいません。」
「いやいや、当然だよ!・・・同じ王国人の無礼を謝罪、って言うのはおかしな話だけど。お詫びに皆さんの行き先であるモンブ国まで、我々が責任を持ってお送りしますよ。その王国の商人達の話も聞きたいし。勿論金銭はいただきませんし、こんなもので良ければ食料も用意しますので。・・・どうでしょう?」
商人からの提案を聞いた直後、男達は興奮気味に喜びをあらわにした。
「やったーーー!!安全に帰れる!」「歩かなくて済むぞ!」「貴方方は神様ですか?!」
「何でも話します!ありがとうございます!!」「こんなものって・・・!こんなに美味しい物逆に良いんですか?!」
夢の様な条件に、つい先刻まで死を覚悟した者達とは思えない程嬉しそうにしていた。
タクトも予定通りの日程で帰路に着くことができることに、思わず笑みがこぼれた。
それから数日、タクト達とモレッツ商会の面々は共に旅をするうちにすっかり打ち解けた。
初めは遠巻きに獣人を見ていた男達も、1日経った頃には助けてもらった際の非礼を詫びていた。
一番小さい事もあり特に相手をされていたタクトも、一流の商人達から聞く話が面白く・・・そして勉強になった為いろんな話を聞いたし喋った。
話している内に判明したのだが、例の周辺国で出ていた条件の良い求人はモレッツ商会のものだったようだ。
しかも”どうせ上辺だけの条件だ”と見下していたものは、本当にそのままの良い条件だったという事も分かりタクトは内心悔しくなってしまった。
勘違いした能天気な男達の一人が、「俺達もそっちで雇ってくれよ」と馴れ馴れしくお願いした時はちょっと・・・いや大分内心で期待していたがバッサリと断られた。
「商売は何より信用が大事です。貴方達は今回の出張研修はともかく、しっかりと契約を交わし研修も行われているんですよね?それを先方と話し合わずに勝手に別の所に就職するから辞める~なんて虫のいい話ありませんよ。それに何より無責任だ。そんな人達を心から信用出来る人がいますかね?・・・少なくとも俺達は信用できません。貴方達がちゃんと働いて、それでも違うと思ったのであれば雇用主とちゃんと話し合ってすっぱり辞めてからだったら、その時はちゃんと面接させていただきますよ。」
商人の言葉に、罰が悪そうな顔で男達はすごすごと引っ込んでいった。
とても、とても残念に感じてしまったが・・・何だかきっぱりと言う商人がカッコよく見えた。
商人達が話す内容は本当にどれも輝いていた。
特にバジル領やその領地を治める”バジル家”の話も、物語を聞いているようで楽しかった。
バジル家のお嬢様は、素晴らしく美しくそして優しい女の子だそうだ。
俺が今回出会った貴族令嬢と全く真逆の女の子像で、反射的に「嘘だ、そんな奴いるわけない」と言ってしまった。
それからアイリ?とか何とかいう奇怪な色彩を持った、性格の悪い令嬢の話をしたりオーナーの話をしたりモンブ国の店の話をしたりしていると・・・あっという間にモンブ国に到着した。
「本当ありがとうな!」「助かったよ、今度うちの店に食べに来てよ!」
「飯美味かった!あんがとな!」「またちゃんと店辞めて、そっち行くときはよろしくな!」
それぞれ別れの挨拶をしている中、無事にそして予定よりも早く帰ってこれて嬉しいはずなのに、寂しさで涙が出てきたタクトは、獣人と商人の服を掴んで固まってしまっていた。
二人は顔を見合わせて苦笑し、それぞれポンポンっと頭を撫でてやる。
「姉貴に早く会いたいって言ってたじゃねーか。運が良けりゃまた会える。元気でな。」
「大丈夫、手紙を書くと言っただろう?お願いしたこともあるし、絶対にまた会いに来るから。それまでにもっと大きくなってるんだよ?さぁ、お姉さんが待ってるよ。」
優しい言葉をもらい、一度ギュッと目をつぶってゴシゴシと目元を拭いた。
「っ、本当に、ありがとうございました!俺、絶対に将来モレッツ商会で働けるようにっ頑張ります!手紙も書きます!だから・・・絶対!また会いましょうね!!」
──────────こうしてタクト達の慌ただしい研修は終わり、無事に各自の家路に着いた。
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