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第6話 黒い夕陽 長い夜
BDD 二●一二年十二月二十一日(金)
黒い夕陽 長い夜
二Cがまだ一Cだったときのこと。
赤神晴海は、夏休みが終わり秋の声が聞こえた頃、忽然とクラスに現れた。
転校生ではなかった。
春から出席名簿のトップに記載されていたが、長期欠席していた謎の生徒だった。
欠席の理由も、家庭の事情と記憶している者もあれば、病気療養中という者もいて、クラス担任の川田教諭からして「あれ? えーと、どっちだったかな?」と首を傾げるほど曖昧にされていた。
「よろしくお願いします」
クラスメイトたちは教壇に立って頭を下げた少女を、初めて会ったのに前からよく知っているような不思議な気持ちで見ていた。
少女は色が白く儚げで病弱なイメージをまとっていた。
クラスの人間関係もそろそろ固まり始めた時期だったが、赤神晴海をあらためて仲間として温かく迎え入れようという雰囲気が生まれていた。
だが、晴海が押さえたままでいた右手を頬から離した瞬間、クラスを駆け抜けたものは戸惑いと動揺だけではなかった。
今に至るも教室に居座り続けているそれは、破滅の予感────。
彼女の黒痣から撒き散らされたものの正体をやがて誰もが知ることになる。
十二月二十一日。
放課後。
不穏な空気を漂わせつつも、大人しくしていた赤神晴海がこの日ついに動いた。
今井江里加のグループが一Cの教室へ戻ってくると、机が妙な配置に並んでいた。
江里加は唖然としつつも、中央の席にポツンと座っている晴海の前に立った。
「あたしたちに話って、何?」江里加はロッカーの中に入っていたノートの切れ端を机の上に置いた。
「わたしもあなたたちのグループに入れてもらおうと思って」
「それ、友だちになりたいってこと?」
「友だちとは言ってない」
「はあ? 何言ってるの?」
「おかしい?」
江里加は、頬杖をついて目を閉じている晴海を見下ろしながら、その真意を掴みかねていた。
「悪いけど、仲間にはなれないよ。別に痣がキモいとかは関係ない。あんたさ、何か人を馬鹿にしたところがある。上から目線て言うの?」
「ふーん。わたしを仲間に入れてくれないんだ。じゃあ、わたしの仲間に入れてあげる」
「はあ? あんた、さっきから何言ってるのか全然わからないんだけど」
「あなたはわからなくて構わない。ただ、わたしの命令に従えばいいだけだから」
「はあ? ダメだ。この子、マジキチだ。もうつき合ってられない。行こう」
五人が帰りかけたとき、
「見て! 夕陽よ」
五人が振り返ると、沈む太陽を背に、教室に開いた黒い裂け目のような赤神晴海のシルエットがそこにあった。
輝ける闇
燃える混沌
真昼の暗黒
われに仕えよ
われを崇めよ
呪文を唱えながら、晴海は黒い羽根ペンの先で自らの痣を撫でた。
机の上に置かれたトレーシングペーパーの上をなぞっていく。
インクを着けていないペンから黒い線が生まれ、円が描かれた。晴海は円の中にペン先で突くように、点を五つ書いた。
「あんた……何やってるの? それ、何の儀式? キモすぎ」
「気持ち悪いのは、あなたたちも同じ。お互いの顔を見てごらんなさい」
今井江里加 額。
梅本広子 鼻。
束田朋代 顎。
西堀亜紀 右頬。
柘植遥 左頬。
赤神晴海は、いつもと同じ頬杖をついたまま、半狂乱に陥っている江里加たち五人を遠い目で眺めていた。
「悪性黒色腫っていう病気、知ってる? 皮膚ガンの一種よ。わたしはその黒い痣を、あなたたちの顔に、自由に出したり消したりできるの。あなたたち、わたしの言うこと聞かないと、顔からウミ崩れて、死ぬわよ」
赤神晴海がトレーシングペーパーでなぞっていたのは、今日の太陽の衛星写真。
黒い点は太陽黒点。
太陽の表面で磁気嵐が吹き荒れ、そのため周囲より温度が低く、黒く見える場所だ。
顔面を押さえて逃げるように帰っていく五人に晴海は語りかけた。
「夜は長いわ。今晩、ゆっくり考えてみてね」
冬至の日のことだった。
* * *
ぼくは、深いため息をつきながら小冊子から顔を上げた。
この小説に出てきた「西堀亜紀」は同姓同名の別人でなければ、ぼくの従姉弟だった。
しばらく会っていなくて、すっかり忘れていたが、そういえばこの中学の同窓生だ。
幼いころ遊んでくれたアキちゃんは、関西の大学に行って、そのあと大学院に進学したはずだ。
ということは、これは実話なのか?
事実は小説より奇なり、とは言うが、これじゃまるでオカルト、ホラー映画じゃないか!
至急、関西のアキちゃんと連絡を取りたいところだが、小説とも手記ともとれるこいつを読み終わらないことには何も始まらない。
ぼくは13年前、2013年の時間の中へ、再びダイブしていった。
(つづく)
黒い夕陽 長い夜
二Cがまだ一Cだったときのこと。
赤神晴海は、夏休みが終わり秋の声が聞こえた頃、忽然とクラスに現れた。
転校生ではなかった。
春から出席名簿のトップに記載されていたが、長期欠席していた謎の生徒だった。
欠席の理由も、家庭の事情と記憶している者もあれば、病気療養中という者もいて、クラス担任の川田教諭からして「あれ? えーと、どっちだったかな?」と首を傾げるほど曖昧にされていた。
「よろしくお願いします」
クラスメイトたちは教壇に立って頭を下げた少女を、初めて会ったのに前からよく知っているような不思議な気持ちで見ていた。
少女は色が白く儚げで病弱なイメージをまとっていた。
クラスの人間関係もそろそろ固まり始めた時期だったが、赤神晴海をあらためて仲間として温かく迎え入れようという雰囲気が生まれていた。
だが、晴海が押さえたままでいた右手を頬から離した瞬間、クラスを駆け抜けたものは戸惑いと動揺だけではなかった。
今に至るも教室に居座り続けているそれは、破滅の予感────。
彼女の黒痣から撒き散らされたものの正体をやがて誰もが知ることになる。
十二月二十一日。
放課後。
不穏な空気を漂わせつつも、大人しくしていた赤神晴海がこの日ついに動いた。
今井江里加のグループが一Cの教室へ戻ってくると、机が妙な配置に並んでいた。
江里加は唖然としつつも、中央の席にポツンと座っている晴海の前に立った。
「あたしたちに話って、何?」江里加はロッカーの中に入っていたノートの切れ端を机の上に置いた。
「わたしもあなたたちのグループに入れてもらおうと思って」
「それ、友だちになりたいってこと?」
「友だちとは言ってない」
「はあ? 何言ってるの?」
「おかしい?」
江里加は、頬杖をついて目を閉じている晴海を見下ろしながら、その真意を掴みかねていた。
「悪いけど、仲間にはなれないよ。別に痣がキモいとかは関係ない。あんたさ、何か人を馬鹿にしたところがある。上から目線て言うの?」
「ふーん。わたしを仲間に入れてくれないんだ。じゃあ、わたしの仲間に入れてあげる」
「はあ? あんた、さっきから何言ってるのか全然わからないんだけど」
「あなたはわからなくて構わない。ただ、わたしの命令に従えばいいだけだから」
「はあ? ダメだ。この子、マジキチだ。もうつき合ってられない。行こう」
五人が帰りかけたとき、
「見て! 夕陽よ」
五人が振り返ると、沈む太陽を背に、教室に開いた黒い裂け目のような赤神晴海のシルエットがそこにあった。
輝ける闇
燃える混沌
真昼の暗黒
われに仕えよ
われを崇めよ
呪文を唱えながら、晴海は黒い羽根ペンの先で自らの痣を撫でた。
机の上に置かれたトレーシングペーパーの上をなぞっていく。
インクを着けていないペンから黒い線が生まれ、円が描かれた。晴海は円の中にペン先で突くように、点を五つ書いた。
「あんた……何やってるの? それ、何の儀式? キモすぎ」
「気持ち悪いのは、あなたたちも同じ。お互いの顔を見てごらんなさい」
今井江里加 額。
梅本広子 鼻。
束田朋代 顎。
西堀亜紀 右頬。
柘植遥 左頬。
赤神晴海は、いつもと同じ頬杖をついたまま、半狂乱に陥っている江里加たち五人を遠い目で眺めていた。
「悪性黒色腫っていう病気、知ってる? 皮膚ガンの一種よ。わたしはその黒い痣を、あなたたちの顔に、自由に出したり消したりできるの。あなたたち、わたしの言うこと聞かないと、顔からウミ崩れて、死ぬわよ」
赤神晴海がトレーシングペーパーでなぞっていたのは、今日の太陽の衛星写真。
黒い点は太陽黒点。
太陽の表面で磁気嵐が吹き荒れ、そのため周囲より温度が低く、黒く見える場所だ。
顔面を押さえて逃げるように帰っていく五人に晴海は語りかけた。
「夜は長いわ。今晩、ゆっくり考えてみてね」
冬至の日のことだった。
* * *
ぼくは、深いため息をつきながら小冊子から顔を上げた。
この小説に出てきた「西堀亜紀」は同姓同名の別人でなければ、ぼくの従姉弟だった。
しばらく会っていなくて、すっかり忘れていたが、そういえばこの中学の同窓生だ。
幼いころ遊んでくれたアキちゃんは、関西の大学に行って、そのあと大学院に進学したはずだ。
ということは、これは実話なのか?
事実は小説より奇なり、とは言うが、これじゃまるでオカルト、ホラー映画じゃないか!
至急、関西のアキちゃんと連絡を取りたいところだが、小説とも手記ともとれるこいつを読み終わらないことには何も始まらない。
ぼくは13年前、2013年の時間の中へ、再びダイブしていった。
(つづく)
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