異世界喫茶店の黒い殺し屋

42神 零

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EPISODE 00・異世界へ来た殺し屋

01

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イグニス歴1996年09月28日 06:00
リーパーside


「…あ?」


 もう二度と醒さねぇと思っていたが、どうもお門違いってやつらしい。

 瞼裏で意識がハッキリすると、俺は目を開いて寝ていた上体を起こし、周囲を見回した。

 ここはどこかの施設らしく、棚に治療器具のようなものが夥しい数で並んでいるのが見えた。

 その部屋の中にあるふかふかのベッドの上で俺は目を覚ました…体に包帯を巻かれながら。


「…誰かが拾って治療した?」


 いやそんな馬鹿な…。俺はあの時、廃工場の爆発に巻き込まれて死んだはず…。

 夢、にしては気持ち悪いほどリアルだったし、何より手のひらを見りゃ火傷の跡が目に見えているんで現実だと物語っている。

 それならここは地獄か?と思ったんだが、体が触れる以上そうとも限らない。憶測に過ぎないけど。

 なんだよこれ…さすがに分からないことが多すぎる。案の定、装備してあった武器も無くなってやがるし。


「二日酔いの気分だよ、クソッタレ」


 考えれば考えるほど謎が出て来るんで、これ以上深く考えないようにしとく。

 今はここがなんなのかぐらいハッキリしておきたい。

 幸い体は動く。あんな爆発に巻き込まれて無傷たぁどういう事だよ。


「あ?」


 内心愚痴を呟きながら出入口の扉へ向かってみると、扉の隙間から見慣れない少女が顔を覗かせていた。

 綺麗な白髪が特徴的なガキだが、奴は水色の瞳をこちらに向けるだけでちっとも動きやしない。

 まさかこいつが俺を?

 いやでも体格上無理がある。オマケにこのガキは飲み食いなんてしてねぇようで、お世辞にも健康的な体とも言えねぇ。


「あー…こんにちは?」


 こういう時なんて言えばいいのか分からねぇ俺は適当に挨拶を掛けてみた。

 人種は違えど挨拶は基本だ。そうすりゃ警戒心が…


「っ!」

「………」


 …逃げやがった。

 人見知りなのか、それとも日本語が通じなくて警戒してるのか…どちらにしろ変な印象を与えちまったな。

 まぁいい。ガキの青いケツを追いかける趣味なんざない。変な騒ぎが起きる前にとっとと事務所に戻ることに…


「やぁ」

「がふっ!?」


 …扉を開けようとしたら目の前で勢いよく開きやがった。

 そのせいで鼻を強打しちまった。鼻血やべぇな、クソッタレ。


「あ、あぁ!?ご、ごめん!!大丈夫かい!?」

「ま、まぁな…」


 不意打ちをくらったが、鼻血ぐらいで済んだので問題ねぇだろ。


「と、ところで…あんた誰?」


 で…結局誰なんだこいつ。日本語を使ってる時点で話の通じる相手だと見えるが…。


「私?私はリフィア。ここエイルの店長だよ」

「エイ…なんて?」


 というより日本語を使ってる割には外人っぽい名前してるな。見た目も茶髪ロング緑瞳なんで日本の留学生ってところか?

 つか、今なんつった?えいる?んな店聞いた事ねぇぞ。


「エイルね。ここら一帯唯一の珈琲店。って言ってもまぁ、場所が場所だからあんまり繁盛してないけど」

「ほーん…」


 名前はともかく、珈琲店ってのは嘘偽りはないようだ。

 その証拠にどこからか、珈琲豆の香ばしい匂いが漂っている。


「でもびっくりしたよー。豆を採取するため出掛けてみたらさ、血塗れの君が倒れ込んでて」

「なぜ助けた?」

「なぜって言われてもなぁ…助けるのに理由なんてある?って感じ」

「………」


 笑顔でそういうリフィアを見て、俺は内心変人だと思ってしまった。

 助けたから見返りを求める偽善者の馬鹿とも言えず、本当になんの理由も無しに俺を助けたみたいだ。


「で、これからどうするの?見た感じ、この地域の人間じゃないように見えるけど…」

「帰る」


 理由はどうであれ、俺は生きている。生きている以上、仕事を全うする他ない。

 それにこいつらは表社会の人間だ。俺のような殺し屋がいていい訳が無いし、いたところで厄介事に巻き込んでしまう。

 それだけは絶対に避けておきたい。罪のない人間を巻き込む殺し屋なんぞ三流以下だ。


「そっか…」

「…けどまぁ、何かの縁だ。珈琲の一杯ぐらい飲んでみたい」


 なんか悲しそうな顔をしてたので、咄嗟に思いついた提案を出す。

 そうするとリフィアは「任せて!」と言わんばかりの張り切り顔に表情を変えた。

 …うん、まぁ。分かりやすいな、こいつ。




・・・




・・









「………」

「それで、何がいいのかな?」


 場所は変わり、エイル本店。カウンターに据わった俺はあるものを見て困惑してしまった。

 そのあるものというのはメニュー表。一見すればどこにでもあるようなものだが、問題は文字列。


「…なぁ、リフィア。これ何語?」


 なんか上手く表現出来ねぇが、漢字と英語がごちゃ混ぜしたような字面が列を成して並んでやがる。

 当然こんなもん読めないし、見たことすらない。それどころか本当に地球に存在すんのか?と疑うレベル。

 字面からしてガキの訳分からん落書きって訳でもない。だが本当になんて書いてあるのかわからない。


「え!?読めないの!?」


 で、問いを投げてみたらこんな反応を返された。いや、それ俺のリアクション…。

 だがふざけてるようには見えない。ガチで文字が読めない俺に対しての驚愕っぷり…これが当たり前なのか?


「あぁ、全く読めない。こうやって対話することは出来るみたいだが…」

「ふ、不思議なこともあるんだね…」


 違和感が過ぎて気持ち悪い。どうなってんだコレ。

 まるで別世界線にでもやってきた気分だ。実際それが本当に存在するかどうか定かじゃねぇけど。


「…いや、まさかな」


 なんとなく、嫌な予感が過ぎった。もしかして、もしかしなくても…そんな馬鹿な話があってたまるか。

 そんなひと握りの望みをかけて、俺はポケットからあるものを取り出す。

 そいつは金貨の500円玉。日本じゃねぇってのは何となく察してるが、果たしてこいつはどんな反応を見せてくれるのか…。


「なぁ、リフィア。これなんだと思う?」

「金?いや、それにしては加工されてるみたいだけど…これってなんだい?」

「…マジか」


 あたかも生まれて初めて見ましたよと言わんばかりにまじまじと500円玉を見つめるリフィア。

 …あぁそうか。もしかしたらここって地球じゃねぇのか。

 つっても決め付けるのはまだ早い。500円玉じゃ証拠が薄すぎる。もしかしたら俺が知らない国にいるってだけで地球に居ることに変わりないのかもしれない。

 だがどのみち500円玉であんな反応だ。日本金じゃ通貨としての役割を期待できねぇだろうよ。


「あー…リフィア。悪いけど、珈琲は飲まないでおく」

「え!?どうして!?」

「…残念ながら一文無しなんでな」

「そんなの別にいいのに」


 いやそこは人間としてのマナーっつーことで…。張り切ってくれたリフィアに悪いが、珈琲は別日にしよう。


「そう言うな、また今度来るから」

「約束だよ?」

「あぁ」


 さて、そうなりゃ野宿しかねぇや。とっとと寝床のいい場所でも探すか…。


「あ、そう言えばよ」

「何?」


 あぶね。忘れるところだった。


「俺が持ってた荷物ってどうなった?見当たらねぇんだけど」


 荷物、と言葉を濁しているが、実際は拳銃とかナイフとかそういった類だ。

 民間人に保護してもらったとはいえ、あれがないと楽に仕事が出来やしねぇ。


「え?あ、あぁ…それなんだけどさ。壊れちゃってるみたいで…さ?」

「壊れた?マジ?」


 おいおい、あの武器は特注品だぞ。金がねぇどころか闇市場に回ってすりゃいねぇ。

 でもまぁ、あの爆発に巻き込まれりゃ物だってぶっ壊れちまうか…。


「…まいいか。壊れたんなら仕方ねぇ、また来るぜ」

「ありがとうございましたー」


 さて、宿探しならぬ野宿探しだ。どこかいいところでもねぇかな…。
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