18 / 26
霞
第18話
しおりを挟むその日は勉強をしながら、たまたまこんな話になった。
「雨ちゃんは行きたい大学とかあるの?」
「……ありますけど、恥ずかしくて言えないです」
「恥ずかしいの?どうして?」
「今の自分のレベルじゃ名前出すだけで笑われちゃうから」
「笑ったりなんかしないよ!まだ受験まで一年以上も時間あるんだよ?まだまだ頑張ればどこだって受かる可能性あるって!」
「こんなにバカなのに?」
「バカなんかじゃないよ!この数ヵ月ですごいレベル上がってるし、こないだのテストなんか前回より50位も順位上がったんだもん!この調子でこれからまだまだ伸びるよ!」
両手をグーにして一生懸命に私を勇気づけようとしてくれるかすみさんが可愛くて、今すぐそのままベッドに押し倒したくなった。
かすみさんといると、そんなきっかけは無数に生まれる。かすみさんがちょっと耳に髪をかけるだけで、ちょっと物を拾うだけで、ちょっとくしゃみをして謝るだけでも、私のスイッチは簡単に入ってしまう。でも、そんな衝動は胸の内に隠して私は会話を続けた。
「全部かすみさんのお陰です。先生がかすみさんじゃなかったら、こんなに結果出てないです」
実際、かすみさんに教えてもらうようになってから、私の成績は今までと比べ物にならないほど上がった。その理由は具体的に二つあって、一つ目の理由は、ひいき目なしに言ってかすみさんの教え方が本当に上手だから。
理解力が絶望的に乏しい私の脳にも、すんなり入って来るような言葉を選んでくれる。それに、分からないことはとにかく根気強く丁寧に優しく教えてくれる。私は元々生まれながらに勉強が出来ない人間なんだと思ってきたけど、これまでの歴代の先生たちの教え方が、私には合わなかっただけだったんだと今では思っている。
そしてもう一つの理由は、結果を出すとかすみさんが褒めてくれるから。学校のテストでも、家庭教師中に出されるミニテストでも、私の学力が前より上がるとかすみさんは手を叩いて喜んでくれた。
前回まるで出来なかった数学の問題を次の週にスラスラ問いてみせた時は、あまりの喜びに椅子に座る私を後ろから柔らかく包みこんで、耳にキスまでしてくれた。
かすみさんに褒めて欲しい。成績が上がればかすみさんは私に何かを与えてくれる。その煩悩は、とことん知能の低い私の脳を、限界を超えてフル活動させた。
「雨ちゃんはすぐまたそうやって私が喜ぶこと言うんだから!」
「だってほんとのことなんですもん」
私が少し生意気に返すと、かすみさんはしたり顔で返してきた。
「そう?じゃあ、そのお礼のつもりで教えて?どこの大学行きたいの?」
目を輝かせて聞かれ、あらがう気が消え去った。
「……ツグミには絶対に言わないで下さいよ?」
「言わないよ!」
「お母さんにも」
「言わない!言わない!」
「……かすみさんと同じ大学に……行きたいです」
「うち?」
かすみさんは全く予期してなかったようで、予想外の私の返答にキョトンとしていた。
「正直、知ってるのはとんでもなくレベルが高い大学だってだけで、他にはまだなんにも知らないんですけど、 ただ、叶うならかすみさんと同じ大学に行けたらな……って」
私は反応を伺うように横目でかすみさんを見た。
「私も、雨ちゃんが来てくれたら嬉しいな!」
そう言ったかすみさんは本当に嬉しそうな顔をしてくれていて、私は心からほっとした。もしかしたら嫌がられる可能性もあるんじゃないかと、内心かなり怯えていたから。
「じゃあさ、今度うちの大学に見学に来たら?私が案内するから」
そんな流れで、その次の週、早速私はかすみさんに連れられ、ツグミとかすみさんの通う大学へ見学に行くことになった。
***
大学の敷地内に入ってみると、その想像以上の広さと、高校とは比べ物にならない様々な人種に圧倒された。
ペンを持つのも大変そうな長いネイルの派手なお姉さん、マジックで胸元に名字を書いた鮮やかな緑のジャージ姿の人、大陸を渡るほど長い旅からたった今ヒッチハイクでここまで辿り着いたような、全身とにかくボロボロの人……この通りを行く人々全員、日本国民成績ランキングで、トップグループに属するんだと思うとすれ違うことすら気がが引けた。
ただ、本当に沢山の色んな人がいたけど、かすみさん以上に綺麗な人はいなかった。それをかすみさんに伝えると、どこでそんな殺し文句を覚えてきたのかと笑いながら追求された。
構内の案内をしてもらっていると、ちょくちょく知らない人が私たちに絡んできた。ツグミをそのまま小さくしたような私を見て、面白がって食いついてきたようだった。その頻度の多さに、久しぶりにツグミの人気ぶりを垣間見てどうしてもテンションは下がった。そんな私にかすみさんがすごく気を遣っているのが分かって、それもなんだか切なかった。
一通り案内してもらうと「歩き回って疲れたでしょ?休憩しよっか!」と、ちょうど今は誰もいないというサークルの部室にかすみさんは私を連れて行った。
部屋の前まで来てかすみさんが扉を開けた時、キョロキョロと辺りを見回していた私に一人の女の子が話しかけてきた。
「あれ?雨ちゃんじゃない?」
それは百々花さんだった。
「あ、どうも……」
「一瞬ツグミちゃんかと思ったじゃん!」
そう言って百々花さんは笑いながら、私の肩をパシッと軽くはたいた。ボケたわけじゃないのにツッコまれた。ちゃんと話したことなんてほとんどないのに、しかも初対面の時の私はすごく嫌な態度をとったのに、長年の友だちみたいに話しかけくる百々花さんに、ツグミとは違う天性の人間力みたいなものを感じた。
「あ、桐山先輩もいる!こんにちは!」
「百々花ちゃん……」
百々花さんのその調子はかすみさんに対しても例外じゃなかった。もちろん彼女の元カノだと知ってるはずだ。でもその絡み方はマウントを取る感じでもなく、ただただ純粋な挨拶に見えた。その挨拶に、かすみさんだけが複雑そうにしていた。
「遊びに来たの?」
百々花さんは立ち去らず、まだ私たちと話すスタンスでいる。
「ちょっと見学に……」
「うち受けるんだ?」
「今は目標にするだけでも非現実的ですけど、出来れば挑戦したくて……」
「大丈夫だよ、私が受かったんだもん!雨ちゃんなら絶対受かる!受かる!」
「……ありがとうございます。頑張ってみます」
百々花さんはまた肩をパシッとはたいてきた。今回のはきっと激励のサインなんだろう。
「あの桐山先輩、ちょっとだけいいですか?」
すると今度はいきなりかすみさんにそんなことを言い出した。
「え?今?!」
私が心で思ったこと全く同じ言葉をかすみさんは口にした。
「はい。雨ちゃん、ごめん!ちょっとだけ桐山先輩借りていいかな?」
かすみさんは困っていたけど、私は空気を読んだ。
「じゃあ私、ちょうどトイレ行きたかったから行ってきます。どこにありますか?」
「トイレならそこの角を右に曲がったらすぐあるけど……一人で大丈夫?」
かすみさんが過保護な親のように心配する。
「大丈夫ですよ!私をいくつだと思ってるんですか!」
私は明るく振る舞って歩き出した。二人が部室へ入り扉が閉まる音が聞こえると、私は部室の前まで戻った。トイレになんて別に行きたくなかった。
しばらくの沈黙の後、百々花さんの声が聞こえてきた。私は息をのみ、扉越しにその会話に聞き耳を立てていた。
0
あなたにおすすめの小説
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
名もなき春に解ける雪
天継 理恵
恋愛
春。
新しい制服、新しいクラス、新しい友達。
どこにでもいる普通の女子高生・桜井羽澄は、「クラスにちゃんと馴染むこと」を目指して、入学早々、友達作りに奔走していた。
そんな羽澄が、図書室で出会ったのは——
輝く黒髪に、セーラー服の長いスカートをひらりと揺らす、まるで絵画から抜け出したような美しい同級生、白雪 汀。
その綺麗すぎる存在感から浮いている白雪は、言葉遣いも距離感も考え方も特異で、羽澄の知っている“普通”とは何もかもが違っていた。
名前を呼ばれたこと。
目を見て、話を聞いてもらえたこと。
偽らないままの自分を、受け入れてくれたこと——
小さなきっかけのひとつひとつが、羽澄の胸にじわりと積もっていく。
この気持ちは憧れなのか、恋なのか?
迷う羽澄の心は、静かに、けれど確かに、白雪へと傾いていく——
春の光にゆっくりと芽生えていく、少女たちの恋と、成長の物語。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる