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第1章
第9話 遅いお返し
しおりを挟む上がった後の休憩室で、ハートのピアスをしている香坂さんを横目で見ると、少し疎ましく思ってしまった。
香坂さんは何も悪くないのに、そんな風に思う自分にも嫌気がさした。
でも、よくよく考えれば悪いのは尾関先輩だ。確かに、香坂さんのは『プレゼントするために作ったチョコ』で、私のは『いらなくなったチョコ』だけど、同じくチョコをくれた人間に対して、一方は高そうなピアスでもう一方は何もなしなんて、私が尾関先輩を好きとかそんなの関係なく、人としてどうかと思う。
しかもそれを本人の目の前で渡すなんて、デリカシーがないにも程がある。
だんだんフツフツと腹わたが煮えくりかけた時、「お先にー!」と帰っていった香坂さんと入れ違いで尾関先輩が休憩室に入って来た。
「倉田!ファミレスいこ!余り物のチョコとはいえ高いチョコ食べさせてもらったお礼に奢るよ」
頭と心が沸騰し始めていたはずなのに、全身が一気に常温に戻ってしまった。ピアスとの格差には正直納得してなかったけど、予想してなかった展開に悔しいけど嬉しいと思ってしまった。
近くのファミレスまで歩きながら
「なんでホワイトデー当日じゃないんですか?」
と聞いた。
「だって当日は彼氏と用があるだろうから」
「……別に何もなかったです」
「まぁ、板のガーナじゃな……向こうも何返したらいいか困るよね」
先輩はまた思い出し笑いをした。
クリスマスデートをして、バレンタインにチョコをあげて、ホワイトデーのお返しに食事をごちそうになって……言葉ににするとまるで付き合ってるみたいだけど、これは全て私がつき続けている嘘のおかげなんだ……
気づけば架空の恋人とのつき合いは半年になっていた。
私はいつまでこの嘘をつき続けるんだろう。悲しくて悔しいけど、この嘘のおかげで、こんなに幸せな時を過ごせてる。
これからもこうして先輩の側に居続けるためには、きっとずっと私は嘘つきでい続けなきゃいけないんだ。もし全部嘘だったと知られてしまえば、もう二度と側には居られなくなるから。
ファミレスに着いて食事を済ませると、先輩は疲れ切った様子でソファーに深く背中を寄りかけた。
「そうだ、倉田もう高校卒業したの?」
「あーはい。ついこないだ卒業式終わりましたよ」
「さっぱりしてんなー。それ、トイレ掃除終わりましたくらいのテンションじゃん。泣いたりしなかったの?」
「どうして泣くんですか?」
「これからは仲間たちと離れ離れになっちゃう…とかないの?」
「ないですよ、別に」
「へー」
「先輩は泣いたりしたんですか?」
「微塵も」
「自分もそうなんじゃないですか!」
「そうだけど、周りの子達はけっこう泣いてる子ばっかりだったから、倉田もそうなのかなって」
「……私は、どちらかと言うと嬉しかったから」
ずっと早く卒業したかった。でも、特に高校生活に大きな不満があるわけじゃなかった。
高校生というレッテルが剥がれたら、尾関先輩に今までよりはもう少し大人として見てもらえる気がしていたから。
「じゃあ、めでたいんだ?」
「めでたいですね」
「じゃあコレあげる!」
先輩はバッグから少しクシャクシャになった茶色い紙の袋を出して私に差し出した。
「卒業と、あと倉田来月誕生日でしょ?二つ合わせてソレってことで……」
「え……」
あまりの驚きにお礼もちゃんと言えないまま、紙袋の封を閉じているシールをそーっと剥がし、袋の中に手を入れた。
肌触りのいい感触が手に当たる。それを掴んで取り出すと、正体はゾンビーナの小さなマスコットだった。
「……てゆうのは正直後づけで、ネットでたまたまこれ見つけた時、倉田もこうゆうの好きそうだなって思って2個買ったの。だから1個あげる」
言葉より先に涙が出てしまった。どんな理由だろうがもうどうでもよかった。
こんなに異常に喜んだらダメなのに、またひかれて拒絶されるかもしれないのに、嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかった。
「あ、ありがどうございまず……。めちゃぐちゃがわいいでず……」
鼻水まで出てきてひどく無様なお礼を言う私を見て、意外にも尾関先輩は、膝を叩きながら深夜の店内に響き渡るほど大笑いした。
「卒業式で泣かないでゾンビで泣くって、どんだけゾンビ好きなんだよ!」
そう言われて私も一緒に泣きながら笑った。
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