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第一章 さいかい
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しおりを挟む座敷には宗祐さんが用意してくれた席が設けられ、ささやかながら私の為の宴が開かれた。
澄彦さんを前に、私と玉彦は席を並べている。
ある意味、この配置は助かる。
玉彦を直視しなくて済むから。
しばらく私の話をして、澄彦さんがお銚子を三本空けた頃。
ようやく私が聞きたかった話が始まった。
前置きが長すぎる。
「それで本題なんだけどね」
澄彦さんは言いにくそうに私を見つめる。
「何でしょう?」
「あのね、正武家ってさずーっと惚稀人が来てくれなかったでしょ」
「はい」
「でもね跡取りは作らなきゃいけないでしょ?」
「……はい」
「それでね鈴白を含む五村の中からお嫁さんを迎える風習があってね」
「……」
「各村から候補がね、この屋敷に花嫁修業に来るんだよ」
私は横で御膳の刺身に手を伸ばす玉彦を見る。
でも彼はなんの反応もしない。
「それで比和子ちゃんという惚稀人がいるから、うちの息子は全部突っぱねたんだけど」
「父上」
玉彦は余計なことは言うなという様に牽制をした。
迫力は以前よりも増している。
「あーうん。それで四人は惚稀人が相手ならば仕方がないと引き下がってくれたんだけどさ、一人だけどうしても譲らない娘がいて」
一瞬那奈が思い浮かんだ。
あの夏休み、玉彦に向けてビシバシと好意を飛ばしていた。
「その子はお隣の村のお偉いさんの娘さんでね。今この屋敷に滞在中なんだ」
「はっ?」
私はここでようやく阿保みたいだったけど、声を出すことが出来た。
「は、花嫁修業中っていうの? あはは……」
澄彦さんは両手の指を合わせてもじもじしている。
花嫁って……。
そんなのって……。
「俺は大変迷惑をしている」
玉彦のその言葉だけが私の救いだった。
だって私、あの夏からずっと頑張ってた。
勉強だってなんだって玉彦に相応しくあるように。
意味も無く涙が込み上げてくる。
「あっ、あっ! 比和子ちゃん。違う、違うんだってば!」
澄彦さんは慌てて近くにあったティッシュを私に差し出した。
それを受け取ったのは玉彦で、数枚取ると私の目に優しく当てる。
「僕たちだって、比和子ちゃんが良いんだよ。屋敷の皆の歓迎ぶりを見ればわかるだろう?」
確かに、南天さんはお屋敷から車を飛ばして来てくれたし、松梅コンビは泣いていた。
宗祐さんに至っては、私のお膳だけ当主や惣領息子よりも豪華で盛りだくさんにしてくれているあたり言わずもがなだった。
「どうしても引き下がってくれなくてね。そのうち惚稀人なんか居ないんじゃないかって、その子のお父さんも怒りだしちゃってさ。でも比和子ちゃんは通山だし、惚稀人の存在を証明するためだけに呼ぶわけにもいかないじゃない?」
「当たり前だ」
玉彦が冷たく澄彦さんに合の手を入れる。
「でさーどうしようかと困ってたわけ」
それで御倉神が見かねて私を呼びに来たのね……。
でもなんだってあの神様、そんなことをしたんだろう。
「でも比和子ちゃんが来てくれたら一件落着だよ。だって、なぁ?」
同意を求められて玉彦は渋々頷く。
でもどうして私が来れば一件落着なのか。
「比和子が表門を通るのをあの親子に見せれば良い。それでも言い掛かりを付けてくるようなら俺はそれを許さぬ」
「えっ。そんなことで良いの?」
「認められぬ者があの門を通ろうとしても、まず扉が開かぬ。もし扉が開かれていたとしても潜れぬ。絶対に」
透明な壁でも出来るのだろうか。
そんながことがあるのかと思えば、ここは鈴白。正武家が治める地。
何が起こっても不思議ではなかった。
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