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第四章 こんやく
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しおりを挟む鈴白村のお祭りは、三日間行われる。
宵の宮と呼ばれる夕方から、昼夜を問わず神社の敷地内で三日三晩続く。
大人も子供も余程のことがない限りこのお祭りに参加し、期間中は村の家が留守宅が増えるので、私は泥棒が入るんじゃないかと中一の時にお祖父ちゃんに聞けば、そんなことをすれば泥棒に神様から罰が当たると笑っていた。
明日にお祭り初日と自分の誕生日を控えて、私は澄彦さんと当主の間で向かい合っていた。
この場には二人しかいない。
玉彦はお祭りの準備に豹馬くんと出かけ、付き人の宗祐さんと南天さんは澄彦さんが人払いしたために、当主の間がある離れには私たち以外に誰も居ない。
「それで、話と云うのは何かな」
澄彦さんは私よりも二段高いところで正座し、こちらを柔らかく見つめる。
私は三つ指をついて頭を下げた。
指先が震える。
これから私が澄彦さんに言うのは、私の一生を決める言葉だった。
産土神を祀る巫女である竹婆に、当主と惣領息子に内緒で教えを乞うていた。
惚稀人として歩むにはどのような手順が必要なのか。
豹馬くんが言っていた通り、戸籍上の結婚には意味は無く、産土神や正武家にお力を貸してくれる神様たちに認められれば、玉彦と共にあれと命(めい)を承る。
そうしてようやく私は心身ともに玉彦の惚稀人として胸を張って隣にいることが出来る。
たとえ離れていても、本殿に上がり正式な正武家の一員となれば、その絆は一生切れないと竹婆は教えてくれた。
そしてその本殿に上がる為には、当主の許可が必要で。
昔、私を本殿に上げてしまった玉彦はかなりの暴挙を仕出かしたのだと今更ながらに呆れる。
本来ならば玉彦が澄彦さんに願い出ることなんだけど、それを私がしてしまうのも中々な暴挙だったりする。
でもこれは意趣返し。
なんの説明もなしに昔私を本殿に上げた玉彦への。
たぶん玉彦は意趣返しだなんて思わないだろうけどさ。
「正武家当主澄彦様。本日は大事なお話があり、上守比和子参りました」
「え、あぁ……。ではその話とやらを申してみよ」
澄彦さんはすっかり畏まった私に戸惑いつつも、先を促す。
「明日正武家玉彦様と本殿へ参る御許しをいただきたく」
「うむ。……へ? え?」
「また、明日その時まで玉彦様には内密で」
「……心内はもう決まったのだな?」
「はい。四年前のあの日から、すでに決まっておりました」
「上げよ、比和子」
言われて伏せていた頭を上げれば、澄彦さんは満面の笑みだった。
「良いよ、良いよ。許す、許す。でもなー、百年以上も惚稀人を迎えてなかったから、そこは正武家として大々的にお披露目を兼ねて行いたいんだけど、ダメかな?」
当主の威厳もどこへやら。
澄彦さんはいつもの澄彦さんになってしまい、私に話し掛ける。
「駄目です」
「え~」
眉毛をハの字にした澄彦さんは、段を降りて私の目の前で胡坐を掻く。
「比和子ちゃん。いいの? 玉彦で」
「玉彦『が』いいです」
「そっか。まぁ、こうなることは分かっていたけどね。で、問題が一つあるんだけどね」
なんだろう。
ここまでは竹婆に言われた通りに進んでるけど。
問題って?
「明日、本殿に上がったとして。うちの息子は産土神たちに捧げる祝詞を知ってるの?」
そうだった。
本殿に上がり、そこでの作法はばっちり竹婆が教えてくれたけど、祝詞は玉彦があげる。
「どうなんでしょう……」
「内密になんて言わないで、今夜きちんと伝えなさい。失敗したら、洒落にならないからね。これは遊びではない。正武家の家名に関わることです。そしてこれは下知です」
「……わかりました」
遊びではないと言われてしょんぼりしてしまった私に、澄彦さんが意地悪く口元を歪めた。
「でもなー、それじゃあ僕はアイツの驚く顔見物出来ないしなー。そうだ。今夜、僕から伝えるってどうかな?」
「話が面倒臭くなりそうなので、お断りします」
「え~」
駄々を捏ねる澄彦さんに一礼し、私は当主の間を後にする。
あと数年後、彼が私の義父になるのだと思うと頭が痛いけれど、楽しみでもあった。
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