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第三章 しきいし
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しおりを挟む帰り道。
玉彦は私と石段を登る前に、豹馬くんと明日の部活をどうするかとか話し込んでいた。
彼はお力を使った次の日は、酷いと寝て回復を図る。
でも今日はそんなに消耗していないみたいだし、明日は私は留守番なんだろうなぁ。
「帰るぞ、比和子」
手を引かれて石段を登って行けば、足が痛んで途中で負ぶってもらう。
背中の温かさは私を安心させると同時に、寂しくもさせる。
「玉彦、今夜はお疲れ様」
「あれしきのこと」
玉彦は一体どれだけのお役目を経験してきているのだろう。
元服をした中一の時には既に、私を襲撃した九児を祓っていた。
それも慣れた様子で。
あれから四年。
私が知らない玉彦の四年間には、言わないだけで危険なお役目もあったに違いなかった。
お布団にゴロリと横になり、縁側で月明かりの下、お茶漬けを掻き込んでいる玉彦の背中を眺める。
お役目が終わると猛烈にお腹が空くのだそうで、私だったらこんな時間に絶対夜食なんて食べない。
空になったお茶碗とお箸を持って台所へ行ったかと思えば、歯磨きをして戻ってくる。
「寝ないのか」
お布団を出て、今度は私が入れ替わりで縁側に腰かけている。
その隣に当たり前のように玉彦がくる。
「まだ。起きてる」
「そうか」
「玉彦も、食べてすぐ寝たら牛になるよ」
肩を竦めて笑った彼は、こちらに倒れ込んで来て、私の膝に頭を乗せる。
「では今しばらく俺も起きていることとしよう」
「玉彦、明日は部活行くの?」
「明日からしばらくは行かぬ。祭りの準備に皆が駆り出される」
「あぁ、もうそんな時期かぁ」
すっかり忘れていた。
村のお祭りは八月の上旬に三日間行われる。
思い起こせば、須藤くんとの出会い、玉彦との一騒動もお祭りの時だった。
そして、猿彦、白猿に襲われたのも。
「誕生日がくるな、比和子の」
そうなのだ。
お祭りの一日目は私の誕生日。
あの時玉彦から貰った浴衣は、どこに行ってしまったんだろう。
正武家に置いたまま、お祖父ちゃんの家に帰ったのだっけ。
「プレゼントは何が良い?」
「玉彦こそ、何が良い? 六月誕生日だったんでしょ?」
「何と言われても。欲しいものはもう手の中にある」
伸ばされた腕が私の耳たぶを引っ張る。
「私のことはあげないわよ?」
「くれぬのか。それは心外」
「だって……」
私はそこで思いついた。
このタイミングなら、最良なんじゃないだろうか。
「お祭りの一日目って、夕方から始まるでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「じゃあその日の午前中の時間を、玉彦の時間を私にちょうだい」
「……? いつ何時でもくれてやるが」
「絶対に忘れないで。絶対その日は予定を入れないで」
「相分かった」
玉彦は頭の上に疑問符を浮かべて首を捻る。
私は来たるその日に向けて、行動を翌日から開始した。
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