私と玉彦の六隠廻り

清水 律

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第五章 くらんど

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「だからって、どうしてここなのよ……」

 御倉神が連れてきた先で、私は盛大に溜息をついた。
 あれから山々を周回し、辿り着いたのは正武家裏手にある本殿。
 ここじゃすぐに見つかってしまうじゃないの。

「ここが一番安全よ」

 御倉神は本殿横にある、小さな離れの扉を押し開ける。
 中には巫女姿の竹婆が、湯呑みを持ってテレビを見ていた。

「来ましたか。惚稀人さま。御倉神様もお疲れ様でございました」

 御倉神は頷くと、すぐに姿を消す。
 彼女はもう全部知っているかのようで、何も言わずに私を招き入れた。

「安心されよ。中の者どもには知らせぬ。暫しことが落ち着き、皆が冷静になるときが必要」

「……すみません」

 私に暖かい湯呑みを渡して、お茶を注ぎ入れる。
 それだけなのに、私は自然と涙が零れ落ちた。
 どうして泣いているんだろう、私。

「澄彦殿は、ことの重大さを甘く見過ぎ、玉彦殿は焦り過ぎ、宗祐は柄にもなく振り回され、南天は付き従うだけ。隠の親玉は亡き影を追い求め、影は己の欲求のみ通そうとする。そしてことの真ん中にいる惚稀人は、短絡、軽率、我儘ときたものだ。これでは正武家は立ち行かぬ。惚稀人さまは、正武家を滅ぼすおつもりか」

「そんなことは、考えてもいません!」

「だが結果、こうなっておる。みな振り回されている」

 それを言われると私は何も言えなくなった。
 自分の至らなさを痛感する。

「代々正武家はそのお役目の為、己の感情を押し殺してでも果たさねばならぬことがあったゆえに、常に冷静で公平な判断を迫られる。だが、今はどうだ。誰がいる。どこにいる」

「……」

「これでは正武家は立ち行かぬ。いくら惚稀人さまとはいえ、正武家に難を運ぶなら立ち去るかここで死んでしまった方が良い」

 私はこの家には相応しくないと、竹婆は暗に言っている。
 私は玉彦と一緒にいられるだけで良いと思って本殿に上がり、その先にあるものが全く見えていなかった。
 正武家の者として何をするべきで、どうあるべきなのか、全く分かっていない。

「婆ちゃん、もうそれくらいにしときなよ。上守さんだって、わかってるって。自分に必要なもの、足りないもの。これから知っていく時にこんなことになっちゃったんだから、仕方ないじゃん」

 お手洗いの水を流す音と共に現れたのは、香本さんだった。

「香本さん? どうして、え? 御婆ちゃん?」

「正確には御祖母ちゃんのお姉さん。私、梅の孫」

「ええっ!? そうなの?」

 全然知らなかった。
 でも玉彦に対してずけずけと言えたのは、そういうことなのか。

「前に話したじゃん? 私、男の子との付き合いに興味ないって」

「うん」

 香本さんは自分でお茶を入れて私の横に座る。
 竹婆はもう既にテレビに向き直っていた。

「婆ちゃんの跡、継ぐんだ。だから、男はいらない。私が仕えるのは神様だから」

 衝撃的な事実に、私は言葉が出ない。

「だから上守さんが正武家に入るって聞いた時、嬉しい反面心配だった。で、やっぱりこうなった」

 イシシと笑って、香本さんはせんべいを齧る。

「今後、婆ちゃんの代役で私が鬼の敷石に付き合うよ。婆ちゃん、ぎっくり腰なんだって」

 え? と思ってみれば、竹婆の腰を叩く三文芝居が見える。
 この二人は一体何を企んでいるんだろう。

「とにかくさ、正武家に行って、様子見てきてあげる。大混乱だろうなー」

 香本さんはそういうと、楽しそうに出て行く。
 残された私は、竹婆とテレビを観ながら朝のワイドショーに突っ込みを入れていた。




 潜入してきた香本さんによれば。

 澄彦さんは再び蔵人を逃がしたことに、がっくりと肩を落とし。
 玉彦は私を捜す為に、屋敷を出てってしまい。
 宗祐さんは鈴白の君を追い払えなかった豹馬くんを叱責し。
 南天さんは日々のお屋敷の仕事に追われ。
 
 傍から聞いていても、まとまりが無くなっていた。

「ここまでてんやわんやの正武家って見たことないわ」

 香本さんは他人事のように言って、朝ごはんを平らげた。
 体調が優れない私は、梅干し一個が精一杯だった。

「じゃあいこっか」

「どこへ?」

「鳴黒の鬼の敷石」

「二人で!?」

「もう一人、先に行って待ってる。口が堅い、上守さん信者」

 でも行ったところで、敷石を動かすことは出来ないんじゃないだろうか。
 それに隠と対峙できるのは、夜だったはず。
 しかも私の信者って……。

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