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最終章 ひっこし
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しおりを挟む「あっ。ちょうど良かった。玉彦はどれが良いと思う?」
中に入って制服を見た玉彦は、眉を顰めて私を見下ろす。
「お前、何を着て行くつもりだ」
「は? 制服に決まってんじゃん」
「これがか?」
指をさして首を捻る。
確かに。
二流のアイドルが着てそうな制服ではあるけど。
スマホの小町との画像や、ネットにある国明館のHPを見せてようやく納得した玉彦は、困ったように人差し指でこめかみをぐりぐりする。
彼の話によれば、美山高校の女子の夏の制服は、上は白で下は濃紺のスタンダードなセーラー服だそうで、私の制服は確実に浮きまくると心配している。
それを聞いて、今度は私が頭を抱えた。
短い期間だけど、女子同士のマウンティングはきっとある。
上下を決めるのは、性格であり、見た目であり、狡賢さだ。
でもそれは同じ舞台にいる場合。
異分子は全力で排除される、いじめという手段によって。
これはいくら玉彦が同じクラスでも、女子には別世界があるし、逆にそこまで彼に首を突っ込ませるわけにはいかない。
これは、女の戦いなのだ。
「だが、この制服は可愛らしい」
私が必死にシミュレーションをしていると、玉彦がピラリとハンガーのスカートを捲る。
彼の可愛らしい発言に、思考が一瞬止まる。
玉彦にそんな感覚があるだなんて。
なんてゆーかこういう事には無頓着で、興味がないと勝手に思っていた。
「おすすめはね、これとこれの組み合わせなんだ。小町とお揃い」
「着てみろ。それで昼餉に行く。父上が待っている」
「わかった」
廊下に玉彦を待たせて、制服に袖を通すと変な感じがする。
このお屋敷を制服で歩く時が来るなんて、想像もしていなかった。
リボンを結び、ニーハイを穿いて、髪を無造作に結び、上で団子を作る。
これがいつもの私の格好だ。
「お待たせ。お腹空いたね」
襖を開けると腕組みをして壁に背を預けていた玉彦が、ゆっくりとこちらを見る。
「……」
肘に手を当て、その先の手は口元を覆う。
「え、なに。どういう反応?」
「……馬子にも衣裳」
「早く行けっ!」
私が軽く玉彦を蹴ると笑いながら歩き出す。
馬子にも衣裳って失礼にもほどがあるわ!
昼餉の座敷には既に澄彦さんが待っていて、制服姿の私を見るなりお父さんと同じことをリクエストする。
「比和子ちゃん、回って回って~」
「おい、父上。いい加減にしろ」
昼餉の膳を前にして、もうかれこれ五回は回っている。
「なんだよ、良いじゃないか。これぞ女子高生だろ。美山の制服は見飽きてるんだよ」
「比和子は玩具ではない」
「わかってるよ。いやー光一朗が気に入ってるのも解るよ。アイツとは昔から趣味が似ているんだ」
「比和子、座れ。もう父上は放っておく。ではいただきます」
「あっ、勝手に食べ始めるなよ!」
澄彦さんは子供っぽい。
その分玉彦は、早く大人になってしまっている。
「時に息子よ」
もう昼餉が終わり、熱いほうじ茶の湯呑みを啜る澄彦さんが箸を置いた玉彦に話しかける。
返事はせずに彼は身体の向きだけ父親に向けた。
「蔵人が藍染より鈴白へと入った。用心は怠るな。努々油断するでないぞ」
「わかりました」
蔵人が鈴白へ移動してきたことを、どうやって澄彦さんは知ったのだろう。
不思議に感じていると澄彦さんが左腕を叩いた。
「保管してある腕の動きがいつにも増して騒がしい」
「近くに来ていると?」
「そうだ。だがここで困りごとが出来た」
珍しく澄彦さんは本当に困った顔をしている。
何があっても飄々としているので、本当に困っているようだ。
「一つ。後藤の娘の護衛が決まらん。二つ。父はこれから北陸の五箇山へ鎮めにゆかなくてはならん」
こんな時に澄彦さんが鈴白を離れる。
玉彦を信じていない訳ではないけれど、不安になる。
あの蔵人を玉彦が仕留められるのだろうか。
当主が二度も逃がしている隠を。
それに護衛対象が二人になり、護りが分散される。
それよりも小百合さんの護衛が決まらないとはどういう事なんだろう。
「澄彦さん。私は豹馬くんや須藤くんが居てくれれば大丈夫ですが……」
「比和子ちゃん……。君の申し出はすごく有り難いんだけどね。根本的な問題でね」
澄彦さんは何故か私と話す時は澄彦様から澄彦さんになる。
「後藤さんの娘さん、美山高校の家政科なんだよ……」
「あ……」
学校で常に正武家関係の人間を近くに置きたいところだけど、女子ばかりの家政科のクラスに流石に彼らは入れない。
「香本に任せれば良い。何かあれば知らせに走るくらいは出来るだろう」
玉彦の提案に澄彦さんは考えている。
でも香本さん……。
めっちゃ小百合さんの文句言ってたよ……。
お仕事なら、私情を挟まずにはいそうだけど。
「知らせに走る間に、攫われたらどうすんのよ」
「そう簡単に攫えると思うか? お前ならともかく」
玉彦は遠回しに小百合さんの体重は蔵人でも苦労すると言っているようなものだ。
ふと、藍染村の鬼の敷石での出来事を思い出す。
ちょっと待って。
まだ小百合さんにも私にも護衛って必要ないんじゃないかな。
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