私と玉彦の暗闇の惨禍、或いは讃歌

清水 律

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いずれ訪れるその時

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 正武家の当主がお屋敷にいるときには、そちらの母屋で食事を摂るのがお約束だったけれど、私が目覚めてからは玉彦側の母屋にわざわざ澄彦さんが来てくれて、そこで一緒に頂いていた。
 出来るだけ私の負担を減らそうしてくれる澄彦さんの気遣いだった。

 以前よりも少ない量しか食べられない私は、二人よりも早く終えて湯呑みの温かさを両手に伝えていた。
 揺らめく湯気の下に茶柱を発見して玉彦に見せると自分の湯呑みの中を確認している。

「明日、蘇芳《すおう》と西から多門の一派が来る。稀人衆にはもう伝えてあるが、部屋を整えておくように。それと比和子ちゃんにもそろそろ詳細を話しておくように」

 澄彦さんがお箸を置いてそう言うと、玉彦は頷く。
 私が歩き回るくらいに回復したとの判断だ。
 茶柱が立っていたから、きっと悪い話ではないと私は呑気に構えていた。

 部屋へと戻ってお布団を敷いて、時計を見ればまだ十九時過ぎ。
 回復の為、ずっと二十時から朝まで寝ていたときほどもう眠気は無く、日中に浴びた陽が私の身体の時計を整えてくれたようだった。

「さて、寝るか」

「いやいや、待ちなさいよ。私にもそろそろ詳細をって澄彦さん言ってたじゃん」

 当たり前の様にお布団に入った玉彦は顔を背けて小さく舌打ちをした。
 私がまだ眠らないとわかってお布団の中で色々としないまでもいちゃつきたいと考えているのはお見通しだ。
 玉彦は掛け布団を足で蹴り上げて、その上に両足をバフッと乗せた。
 仰向けになり両腕を組み上げ枕にする。
 私はその横にお行儀よく正座をして彼の言葉を待った。

「何から話せば良いものか……。とりあえず明日来る蘇芳は父上の悪友だ。だが非常に護りに秀でている人物でな、比和子の護りに付く」

 どうして私の護りにつく必要があるのか、そこが重要なんだけど話の腰を折らないように神妙に頷く。
 澄彦さんの悪友と言うわりには玉彦はそんな人が私に付くことに異議はないらしかった。

「多門の一派は十数人だ。清藤を鈴白へと呼び戻した。西はもう取り壊され、跡形もない」

 もう西の拠点はないとあっさりと告げられた。
 亜門は、その狗はどうなったのだろう。
 もう粛清されたというのだろうか。

「しばらく清藤は正武家で預かる。残る者も離れる者も出てくるだろう。身の振り方は各々に任せることとした。多門は……次代付の稀人となった。まるで稀人のバーゲンセールだ」

 皮肉気に笑った玉彦は、膝に置かれていた私の手を握る。

「亜門とその残党は行方を眩ませている。比和子が目覚め、ようやく布陣を敷く運びになった」

「私は何をすれば良いの?」

「何も」

「じゃあどうして私が目覚めるのを待っていたのよ」

「父上の意向だ。己が目で結末を見届けたいだろうと。それと……。俺が比和子の側から離れなかったからだ」

「あんた、ほんとしょうもないわね」

「心外だ。役目は務めていた。清藤の件は役目ではない」

 言われてみればそうだった。
 いわば清藤のお家騒動に主家の正武家が乗り出した形だ。
 祓いも鎮めも一切必要としない。

「以上だ」

 簡潔に締めくくった玉彦だったけれど、肝心の粛清内容が語られていない。
 なので私は正座を崩さずにしれっと目を閉じた玉彦を見下ろす。
 今さら私を巻き込みたくないとでも思っているんだろうか。
 空っぽだった私を傍らに置いてお役目に出ていた彼が。

「玉彦」

「なんだ」

「何だじゃないでしょ。まだ詳細のしょの字も話てないじゃん」

 玉彦は再び顔を背けて舌打ちをした。
 最近段々仕草が憎たらしくなってきた。

「比和子は屋敷に居るだけで良いのだ。その他に何を知る必要がある」

「全部よ、全部! 眼を狙われてる私が知らなくてどうすんのよ。もういい。澄彦さんに聞いてくるから!」

 立ち上がった私の足首を玉彦が掴む。
 こういう場合は澄彦さんの名前を出せば、大概彼が折れることを知っている。
 私だって本気で澄彦さんの所へ行こうとしている訳ではない。

「やめろ。わかった。座れ」

「初めっから素直に話しておけばいいのよ。ほんと面倒臭いわね」

「めっ……面倒臭いとは何だ。俺は比和子を思って」

「だからそこから既に間違ってんのよ。今さら部外者扱いするつもり?」

「兎に角座れ。いや、横になれ」

 玉彦の言葉に半分従わず、私はさっきの様に座る。
 不服そうな玉彦は無言で私の腕を引っ張るけど、隣に寝転ぶつもりはない。

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