私と玉彦の暗闇の惨禍、或いは讃歌

清水 律

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次代不在

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 部屋に戻り、お役目前に部屋を整えていると、座卓に白い小箱が置かれていた。
 その下には比和子へと玉彦の文字で書かれた手紙がある。

 何だろうと手紙を読めば、お誕生日おめでとう。とある。
 私の誕生日は八月で、今は十一月である。
 今年は眠り続けていたからお祝いはしていない。
 それにすっかり自分の誕生日なんて忘れていた。

 小箱を手に取りパカッと開くと、そこには鶯色の瑪瑙の帯留。
 瑪瑙は私の誕生石だ。
 すっごい地味だから小さい頃は七月のルビーや九月のサファイアが羨ましかったけれど、こうしてみると瑪瑙の落ち着きは和装に良く似合うと思う。
 そしてこの瑪瑙は、とても玉彦らしいと感じた。
 瑪瑙は玉髄から出来ていて、鉱物だ。
 そして彼にお力を貸してくれる金山彦神様は鉱物の神様でもある。

 私は帯留を取り出して、さっそく白い着物に合わせる。
 違和感なくそこにある瑪瑙に手を当てると、玉彦と一緒にいるような気がする。

 私が御倉神と消えた日。
 彼はこれを求めに出掛けていたのだろう。
 私が喜ぶ姿を想像して帰ってくれば、三日も戻らず。
 それは確かに怒りたくも拗ねたくもなっただろう。

 それにしてもあれから何日も経っているのに、どうしてこのタイミングで贈ろうと思ったのか意味不明だ。
 大よその見当はつくけど。
 多分渡そう渡そうとして、どのタイミングが正解なのか判らなかったんだろう。
 玉彦らしい。

 思わず笑って廊下に出れば、須藤くんが私を先導するために待っていた。
 そして帯留に目を止めると、私の写メを撮って玉彦へと送る。
 その行動に待ったを言う間もなく。

「え、どうして? きっとすごく喜ぶと思うけど」

「普通の着物だったらね……」

「あっ……」

 私が白の着物を着る時は、当主の間や惣領の間へと出向く時である。
 お屋敷で大人しくしていろという玉彦が私のこの姿を見れば、どう思うのかなんて誰が考えても同じだ。
 顔を見合わせていると、すぐに着信。
 須藤くんの手元を見れば、正武家玉彦様。

「どうしよう……」

「むっ、無視で良いんじゃないかな。行こう。南天さんが待ってるよ」

 二人で頷いて母屋を出て離れへと入れば、スマホを耳に当て困り顔の南天さんが私たちを出迎えたのだった。
 何が何でも帰ると駄々を捏ねた息子に、普段威厳のない父親が一喝をして事が収まり。
 私は控の間で訪問客を見渡していた。

 二十三人。十一組。

 今日は午前と午後に分けるけれど、明日と明後日は週の後半四日分と当日の訪問客を迎える。
 要するに一週間分のお役目をかなり前倒しをして三日で終わらせてしまおうという何とも無謀な澄彦さんの計画だ。
 なので明日明後日はこの三倍の人数を視なければならない。
 澄彦さんも私も大変だけれど、それらを出迎える松梅コンビも大変だろう。
 目が回る忙しさに流石の那奈も美憂をいびる暇もないことだろう。

 私が南天さんと須藤くんを従えて控の間に姿を現すと、そこにいた全員が低頭した。
 上げよと言わずに立ったまま其々を見てみれば、中川さんの時の様に黒や灰色が漂うのが五組。
 何も見えないのが六組。
 その六組の中で当たりだったのが三組で、外れは三組。
 私は手で口元を隠して須藤くんに伝えると、それをメモに書き取った須藤くんは南天さんへと確認をする。
 無言で頷く南天さんは私と共に控の間を後にして、須藤くんはその場にいた松さんにメモを手渡して振り分けを伝えた。

 およそ十分。
 あまりにも呆気なく成功して、私は惣領の間で胸を撫で下ろす。
 そして訪問客と接見するためにいつも玉彦が座る座敷の一段高いところへ立ったのだけど。
 用意されていた緋色の座布団を持って段の下に降ろした。

 惣領の間のあの場所は次代の玉彦が座るところ。
 私が絶対に座ってはいけないところ。
 次にそこへと座るのは玉彦と私の子供でなくてはならない。

 その様子を見ていた南天さんにこれでも良いかと目で聞けば、微かに笑ってくれたので間違いではない。
 それから私の両端の前に南天さんと須藤くんが座る。
 傍らに太刀と弓を置いて。
 当主の間では澄彦さんが豹馬くんと多門を従えている。

「さて、頑張りますか。二人とも宜しくお願いします。私がもしやらかしたらフォローしてください」

「比和子さん、無表情でお願いします」

「えーと、足が痺れない様に気を付けて!」

 やっぱり須藤くんはズレていると笑いそうになると、南天さんが早速眉を顰める。

「惣領の間、神守の巫女様でございます」

 梅さんと美憂が青竹の襖を両側から開く。
 そこには先ほど視た黒くか細い煙を纏う二人が低頭していた。

「入りなさい」

 そう言った自分の声が、いつもとは違った。
 私は今から神守の者としてのお役目をするのだと改めて実感した。

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