私と玉彦の暗闇の惨禍、或いは讃歌

清水 律

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巫女の資質

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 当主の間には、玉彦と宗祐さんと竜輝くんと清藤の付き人を除いた全員が既に集まっていた。

 当主の澄彦さんは、入って来た香本さんを気難し気に見詰めて溜息をつく。
 落胆の色を隠さないその仕草に香本さんは俯いてしまった。

「さて。困ったことになった。護石が目覚めないとなると、陣を敷くことが出来ない」

 当主のあっけらかんとした物言いに反して、その内容はかなり重大だ。
 澄彦さんは香本さんの前に座る竹婆に目をやって言葉を待ったけれど、彼女が口を開かないと判断すると天井を仰いだ。

「先日次代が黒塀に封殺を施したが、それでは心許ない。しかもそれを利用するとなると屋敷敷地内にて封じることとなる。それは出来れば避けたい」

 清藤の残党があと何人居るのかも把握できず、屋敷に彼らを入れてしまうことはあまりにも危険だった。
 出来れば敷地内は荒らさずにしておきたい澄彦さんは、そうも言ってはいられない状況に考え込む。

「流石に竹さんにお願いするのは無謀だろう。なぜ目覚めさせられないのか原因は解っているのか?」

 聞かれた竹婆は押し黙ったまま。
 澄彦さんが座敷を見渡しても、その答えを持つ者は居なかった。

「巫女ねぇ……。巫女……。神守の巫女では代役は出来ないのかな」

 突拍子もないことを言い出した澄彦さんに、私の心臓が跳ね上がった。
 確かに巫女と呼ばれてるけど、そんな資格私にはない。
 それに私は本当の巫女ではなく、神守の者なのだ。
 昔は女性の神守を巫女としていただけで、竹婆や香本さんの様に本殿で朝夕のお勤めをしている訳ではない。

「……無理だと思います。それに私がお屋敷から何日も出歩いてるその時に清藤に狙われたらどうするんですか」

「だが試してみる価値はある。そう、価値はある。明日朝一で一つ目の護石へと行ってみようじゃないか。そこで反応するようなら、すぐに出発だ」

 一方的に決められて、私が口を挟む間すらなかった。

 五村に散らばった護石を一つの線で繋ぐには、まず正武家を出て一つ目の護石から大きく円を描かなくてはならない。
 一つ目の石から出発し順番に回り円を描き出発地点に戻ると、そこから一筆書きの要領で星を描いて戻る。
 それで陣は完成するけど、五村を歩いて回らなくてはならないので到底一日では終わらない。
 それこそ本当に昼夜問わず歩いて丸二日は掛かる。
 私にそんな体力はないし、そもそも護石が反応するとは思えない。
 しかも護衛役と二人きりになるのだから、清藤がそこを狙ってこないはずはなかった。
 でも逆に用心深くなって、来ないかもしれないけど何とも言えない。

「そうと決まれば護衛役を決めなくてはだな。さて、比和子ちゃん。この当主の間にいる巫女を除いた者を指名してくれ。香本の時は南天だったかな?」

 言われた南天さんは、軽く頷いて私を見る。
 この中で一番信頼出来て実力もあるのは確かに南天さんだ。
 宗祐さんが居ない現在、南天さん一択だと思う。
 豹馬くんや須藤くん、多門もいるけれど万が一の時はやはり南天さんが一番だと思った。

 でもさ、って私は考える訳よ。

 そもそも護石が反応するかどうかは置いておいて。
 この中で一番攻守に長けていて、経験があり、頼りになって。
 万が一のことがあっても絶対に私を護ってくれる人ってさ。

「わかりました。では澄彦さん、お願いします」

「はい。では誰にする?」

 澄彦さんは私に笑いかけたけど、こちらの意思が伝わっていないらしくいつまでも護衛の名を呼ばない私に首を傾げる。

「誰が良い?」

「澄彦さん。お願いします」

「……うん。うん?」

「だから、護衛役を澄彦さんにお願いします」

「へっ?」

 思いもよらない指名に澄彦さんは手にしていた黒い扇を落とした。

 だって当主の間にいる巫女以外って当主の澄彦さんも含まれている訳で。
 それは駄目だと言われていない。
 だったらこの中で問答無用で澄彦さんが一番なのだ。
 トランプの中にある二枚のジョーカーの一枚なんだから。
 最強の切り札。
 この五村で一番かの方たちの加護を受けている澄彦さんに護られるのが一番安全。
 私はそう結論付けた。
 もし護石が反応すれば、私が巫女として廻らなくてはならない。
 そうすると玉彦は今度こそ本当に強引に帰って来てしまうだろう。
 でも護りに父親で当主の澄彦さんが付くってなれば、納得してくれるんじゃないだろうか。

「うわぁ……。そうくるんだ。比和子ちゃん、腹黒」

 澄彦さんは引き攣った笑みを浮かべてけれど、やはり駄目だとは断らない。

「この澄彦を護衛役にとはなんとも豪胆で贅沢な。しかしそれもまた一興。引き受けようじゃないか」

「宜しくお願いします」

 私はとても丁寧にゆっくりと頭を下げた。
 澄彦さんはそれを見止めて高笑いをしながら奥の襖へと姿を消す。

 次々と皆が当主の間を後にする中、香本さんだけが私とその場に残った。

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