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覚醒と穢れ
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しおりを挟む続いて神様は本殿の階段に凭れ掛かっていた御倉神の前にしゃがみ込む。
御倉神は拗ねたように顔を背けたけど、その頭をぐしゃぐしゃと神様は撫でる。
「宇迦之御魂。油断したな」
「たまたまだ」
「そうか、たまたまでどてっぱらに穴を開けたか」
地を震わす笑い声を上げた神様は御倉神を荷物の様に肩に担ぐとこちらへと向かってくる。
私は玉彦を抱きしめる腕に力が入った。
玉彦の怒りの感情によって姿を現した神様が振るった力は圧倒的だった。
だから見返りを求められてもおかしくはない。
私が差しだせるものなら何だって出す、これ以上玉彦に何かをさせたくはない。
「正武家次代」
呼ばれて玉彦は私を身体からゆっくり離すと神様に向き直った。
私は玉彦の帯を握って願った。
どうか……。
「はい」
「……優男だな。こんな者が我を呼ぶとは」
「……」
「宇迦之御魂は連れ帰る。大国主は二度とこの地には現れぬ。それで良いか」
「はい」
「ではまたな。次は酒くらい用意しておけよ」
「畏まりました。素戔嗚様」
スサノオ?
私でも知っている神様の名前にギョッとすると、素戔嗚はもう空の彼方だった。
素戔嗚ってヤマタノオロチとか退治した神様で、御倉神のお父さんだ。
ということは大国主の大先祖。
素戔嗚は姉の太陽神の天照と対のように夜を司る。
そっか……だから玉彦は夜に本領を発揮するんだ……。
今まで金山彦神しか現れなかったのは、怒りの感情を持っていなかったからなのかな……。
圧倒的な力だったけどもう二度と会いたくないな。
だって素戔嗚が現れるということは、玉彦が彼にすごく影響を受けてしまって怒りで動く人形の様になってしまう。
そんなことを考えていたら、帯を握り締めていた私の手を後ろ手で冷たい玉彦の手が解く。
「玉彦?」
「触れてはならぬ。比和子は穢れに触れるな」
背を向けたまま言われて、私は固まった。
玉彦の穢れという感情を引き受けると決めていたけど、彼にはまだ伝えてはいない。
彼が言う穢れは穢れではなく、気の持ちようでどうとでもなるものなんだ。
でも頑なな玉彦は言っても聞かないから、実践して何度も反芻するしかない。
意を決して背後から抱き付こうとしたら、解っていたかのように玉彦が三歩離れる。
見えてないくせに、生意気だ。
「玉彦、あのね……」
「私は穢れてしまったのだ、比和子。誰も救えず護れず傷付いた」
「でも皆生きてるよ!」
「都貴は? 亜門は?」
問われて言葉に詰まった。
確かに二人はこの世から消えてしまった。
でもそれは玉彦のせいじゃない。
「もう、いないだろう? 私が上手く立ち回れればこのようなことにはならなかったのだ」
「違うよ! 私が暴走したからだよ!」
「……比和子はそのままで在れば良いのだ。暴走も含めて。全て纏めて俺は愛したんだ」
「何言ってんのよ、なんで過去形なのよ」
「ごめん、比和子。こんな穢れた自分は比和子にも正武家にも必要ない」
「玉彦!?」
一瞬頭を下げた玉彦は本殿前から走り出す。
私は訳も解らずに後を追った。
途中から素の玉彦になった言葉に、目の前が霞む。
あれは玉彦様じゃなくて、玉彦のだ。
やっぱり玉彦の優しすぎる心は悲鳴を上げていた。
私はどうして汲み取ってあげられなかったんだろう。
こんなにもいつも一緒に居たのに。
いつだって玉彦は私のことばかり助けて、自分のことを二の次にしていた。
私も玉彦は大丈夫だと思い込んでいて深く考えていなかった。
澄彦さんと穢れの話をした時、あの時にきちんと話し合っておけば良かったのに!
「待って! 玉彦、待ってってば!」
走りながら叫んでも息が切れるだけで効果が無い。
玉彦の背中は段々と私から離れて行く。
振り向いてもくれない。
キャンプの夜と同じで悲しくなる。
すると本殿へと向かって来ていた澄彦さんと宗祐さんが離れの横を走っている私たちを見つけて歩みを止める。
「止めてください!」
反射的に澄彦さんは横を駆け抜けようとした玉彦の袖を掴んでくれた。
でもスピードが落ちただけで玉彦は止まらなかった。
「身体をお願いします!」
「え?」
ここから産土神の社まで一直線だ。
たった数秒でも私に時間があって、玉彦の姿を視界に留めることが出来る。
だったらもう実力行使しかない。
私は玉彦の背中を追いながら、眼に力を込めた。
「馬鹿玉! 私から逃げられると思ってんの!?」
そう叫んで私は白光する道を駆けた。
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