82 / 111
玉彦のこころ
2
しおりを挟む身を起こして辺りを見渡しても私だけ。
でもここは確実に玉彦の世界だった。
薄紫と白い世界。
ここは今、私と玉彦の世界が拮抗している。
「たまひこー、たーまーひーこー」
愛しい人の名を呼びながら当てもなく歩く。
世界を縮めてしまう芸当を身に付けた私だけど、あの状態の玉彦だったらそのまま闇へと消えてしまう恐れがあったので、自力で頑張ることにした。
歩きながら考える。
玉彦の記憶で過ごした時間は現実でどれ程の時間を経過させたのか。
近くに澄彦さんと宗祐さんが居てくれたから、神守の眼の影響で私たちが目覚めないのだと判断してくれているはずで、二人で並んで本殿に寝かされているんだろうなー。
「たまひこー」
「玉彦っ!」
「玉様ー」
「玉彦様ー」
「……玉ちゃん」
「……やめろ」
希来里ちゃんの真似をして呼ぶと、背後から待ち侘びた玉彦の声。
振り向くと白いお役目姿の玉彦が佇んでいた。
でも私が一歩近づくと、二歩逃げる。
「どこにいたの。ずっと探してたんだよ」
「比和子の後ろに」
「そ、そう。だったらすぐに返事しなさいよね」
全然気が付かなかった。
真っ直ぐ振り向かずに歩いてたし。
「帰ろうよ、玉彦」
「嫌だ」
「どうしてよ」
「俺は穢れている」
ずがーんと頭を殴られた感じに私はへなへなと座り込んだ。
あれだけ記憶の中で頑張ったのに玉彦への影響がゼロだったなんて、切なすぎる。
玉彦は私の正面に正座をして姿勢を正した。
「お前、俺の記憶を改変しただろう」
「え?」
「ここでも俺は自我を持っているのだぞ。そう易々と何でも思い通りにはならぬぞ」
若干後ろめたい私は目を逸らした。
だってそうでもしなきゃ、玉彦はいつまで経っても穢れっていうキーワードに縛られちゃうじゃん。
「いつから気付いたの?」
「麦茶から」
「じゃあ最初じゃん!」
何ということだ。
私は玉彦の記憶の中にいると思っていたけど、記憶の中の玉彦は今の玉彦で過去の玉彦じゃなかったんだ。
二人して思い出を繰り返していただけだなんて。
「だったら解ったでしょ。玉彦は穢れてなんかいないんだって」
「……」
黙り込んだ玉彦は俯いたけどこの場から離れるつもりはないらしく大人しくしている。
だったら正攻法で攻めてみよう。
「澄彦さんからも聞いてるけど、正武家の人間はそもそも穢れないでしょう? どうして自分が穢れたなんて思うの?」
「……」
「玉彦」
「正武家の業は深い。連綿と続く血が私にも流れている。穢れないのではない。元々穢れているから弱小な穢れは負けて消えるだけなのだ」
「……そうなの?」
「父上もそれは知っている」
「なんだ、そんなことだったの」
私は呆れて座ったまま後ろへ倒れ込んだ。
そのまま足を伸ばして大の字になる。
「比和子?」
「あのさー、そんなこと言ったら私なんか生まれた瞬間から穢れてるわよ」
「何をいう! 比和子は穢れてなど!」
玉彦は私を覗き込んだけど触れようとはしない。
「だって女だもん。女って穢れの象徴でしょ? 毎月生理だってある。それだって穢れだよ」
「それは……」
「違わないよ。一緒。しかも神守の血だって流れてる。正武家と同じお役目をしている神守だけ穢れないだなんて思わない。そうなると御門森も清藤も穢れてるってことになるね。でもその穢れのお陰で一定の禍を退けられてるし、対処することも出来てる。それじゃあ駄目なの?」
「穢れとは許されぬものだ」
「でも穢れから生まれた神様もいるわ」
「しかし!」
「しかし、とか、でもとか。前にも言ったけどそんなの聞きたいわけじゃないのよ。玉彦はどうしたいの? 穢れを無くしたいの?」
「少なくとも禊をすれば当面の穢れは払えている」
「おかしいじゃないの。血以外は穢れてないのに何を払ってるの?」
「……」
「透析……じゃ意味が無いか。だったら輸血でも繰り返して正武家の血を入れ替える?」
「……」
「そうじゃないでしょ? 流れる血肉で今の玉彦が出来上がってる。それを否定してどうするの?」
「……」
「死にたいの? だったら私も一緒に死ぬ。玉彦がいないなら意味が無いもん」
「比和子……」
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる