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番外編 緑林と次代様のお話
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しおりを挟む鈴白村の正武家様のお屋敷から出されて、緑林村の実家に帰ると私はすぐに自分の部屋に逃げ込んだ。
追い掛けてきた妹と素早く入れ替わり、私たちの一世一代の嘘はこうして誰にも知られることなく達成された。
それから、数週間後。
田舎の数少ない話題に上っていたのは、正武家様の花嫁候補が藍染と鳴黒に絞られたということだった。
私は村役場の休憩所で、それを憶測を交えて口々に語り合うおばさんたちに紛れてぼんやりと聞いていた。
時折彼女たちの視線が私を窺うけど、何も言うことは無い。
彼女たちの中では緑林の花嫁候補こそが選ばれると思っていたのに、という無言の残念感があった。
それから数日後。
私の家ではお父さんの怒声が響き渡った。
なんと妹はちゃっかりさっさと和くんに想いを告げて、結ばれてしまったのである。
花嫁候補になった者は正武家様の花嫁が身籠るまで、その身を固めてはならないとの仕来りがある。
これは万が一、花嫁に不測の事態が起こった時に代わりにならなければならないからだった。
でもぶっちゃけ、花嫁候補最下位の緑林にそのお鉢が回ってくることは無いと思う。
しかも実際正武家様に候補として入ったのは私なのだから問題は無いのだけど、言えないところが辛いところだ。
妹にお母さんと共に相談されたのが一昨日のことだった。
雁首揃えてお父さんの怒声に耐え続ける二人を横目に、私はお風呂上がりのアイスを堪能する。
「貴様らはっ!」
お父さんは顔を真っ赤にして怒り狂い、お母さんは足元に散らばったお刺身をお皿に片付けている。
このままでは私にまで飛び火してくるので早々に部屋へと引き上げる。
たたたたたっと軽快に階段を上がり、部屋に入ると窓が開いていた。
閉めていたはずなのにどうしてと思いつつ部屋の明かりを点ければ、ベッドの上に人間が正座をしていて 私は思わず悲鳴を上げた。
「なっ……なんで!?」
彼は黒い着物に身を包み、姿勢正しく私のピンクの枕を膝の上に乗せていた。
「なっ、なっ、はぁっ!?」
挙動不審の私を真っ直ぐに見据えた彼は、不法侵入しているにもかかわらずに悪びれた様子もなく、溜息を吐いた。
「話を聞いて、居ても立っても居られず、駆けつけた」
「は? え?」
「確かに慣習は大事であるが、気持ちも大事だと私は思う」
「いや、あの?」
「昨日、君から電話を貰い、想っている人と結ばれたいと赦しを乞われ、私はわかったと言ったが前言を撤回したい」
彼はそう言うと立ち上がり、竦む私の前に進み出た。
「許可は出来ない。正武家へと戻り、もう一度花嫁修業に励んではくれないだろうか」
「わっ、私は違います! 姉です!」
苦し紛れに妹とは違うのだと主張すると、彼は困ったように小首を傾げた。
「しかし、君は緑林だろう?」
「いや、緑林だけど、そうじゃないっていうか……」
口籠っていると、私の悲鳴を聞き付けたお父さんが階段を駆け上り、部屋にいた不審者を殴り飛ばしてしまったのだった。
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