私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第一章 がっこう

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「通山市の国明館高校から来ました。上守比和子です。よろしくお願いします」

 美山高校の二年A組進学特化クラスの教壇の前で、私は頭を下げる。
 疎らな拍手に姿勢を正せば、三十人くらいのクラスはほぼ男子。
 セーラー服は二人だけ。
 私は頑張って作った笑顔が引きつっているのを自覚していた。

 夏休みの間、このクラスに編入するために猛勉強した日々を思い出す。
 正武家の付き人で稀人と呼ばれる御門森みかどもり南天なんてんさんに、家庭教師をしてもらい、玉彦のスパルタ教育も受け、ようやく彼と同じ進学特化に入ったのは良かったけれど、男子ばかりとは聞いていなかった。

 教室内には玉彦の他に、彼の稀人であり南天さんの弟の豹馬くんや同じく稀人の須藤涼くんの姿もある。
 これだったら、村で初めて友達になった弓場亜由美ちゃんや香本さんがいる家政科のクラスの方が楽しかったんじゃないかと思う。
 食物実習で料理もするって言ってたし。

「では上守さんは、あちらの席で」

 担任の年配な白石先生に指示され、私は窓際の一番後ろの席に座る。
 そこは一席だけで、右側には誰も居ない。
 時期外れの転校生だから、空いていた場所はここだけだったんだろう。
 すると前の席に座っていた男子が振り向く。
 坊主頭の彼には見覚えがあった。
 編入試験を受けに美山高校へ来た際に、中庭で会った野球部の人。
 そして勝手に私と玉彦のお昼ご飯の重箱をつついていた人だ。

「マジで転校してきたんだね。オレ、渡辺アキラ。よろしくね」

「ど、どうも」

「上守サン、その制服可愛いね~」

「ありがとう」

 短期間の編入の予定だったので、私の制服は前の学校のままだ。
 お父さんがこの制服を気に入っていて、編入の許可の条件に含まれていた。
 拘るのはそこなのかとお父さんに言いたい。
 だってセーラー服の美山高校で、私の制服は浮いている。

「こら、渡辺! 前を向け!」

 白石先生の注意に渡辺くんは舌打ちをして、前を向く。
 頬杖をついて真ん中の席辺りからこちらを見ていた玉彦のことは見なかったことにしよう。

「それではHRを……」

 少し枯れた声の白石先生の言葉を聞きながら、私は木造校舎の窓から外を眺める。
 広いグラウンドの向こうに校門。
 その横に大きな緑を茂らせた桜の木が敷地内を囲む様に並んでいる。
 お父さんのアルバムにあった桜の木。
 親友の澄彦さんと、須藤くんのお母さんと写った卒業式の写真の桜。

「……以上です。では挨拶」

 号令を掛けられ、ハッと私は立ち上がる。
 一人だけ……。
 皆は座ったまま礼をしていた。
 その様子に笑い出したのは須藤くんで、つられてみんなも笑い出す。
 だって普通、起立、礼、着席でしょうよ……。
 私は真っ赤になりながら、座り直した。

 夏休み明けは授業はなく、しかも金曜日だったため、また二日間のお休みになる。
 私はカバンにペンケースなどを仕舞い込み、大きく溜息をついた。
 こんな男子ばかりのクラスでお友達、作れるだろうか。
 数少ない二人の女子に視線を向ければ、二人で何かを話している。
 私の周りにも居なかったタイプの二人で、多分腐女子的な物を感じる。
 あの輪には入っていけない。

「上守さん。面白かったよ」

 学生カバンを引っ掛けて、夏服の白シャツが眩しい須藤くんが椅子を引き摺ってきた。
 豹馬くんは無理矢理渡辺くんを押しやり、前に座って振り向く。

「よくこのクラスに来ようと思ったな、上守」

 豹馬くんの呆れたような言い方に、がっくりと首が項垂れた。
 編入試験勉強に付き合っていてくれていた君がそれを言うか。

「玉彦様のごり押しでしょ?」

 頷いてごり押しの張本人を見れば、他の男子と帰り支度をしながら楽しそうに会話をしている。

「女子が圧倒的にいないって知らなかった……」

 私の言葉に二人は苦笑いする。

「田舎だから、進学する女子が少ないんだよ。高卒でも就職先はあるしね」

「で、なんで上守サンはうちに来たの? まさか玉様追っかけてきたの?」

 何食わぬ顔をして渡辺くんが会話に参加する。
 その存在を忘れていた私たち三人は顔を見合わせた。

 玉彦を追っかけてくるって、普通そんなの親が許さないと思う。
 渡辺くんに蔵人の件を話すわけにもいかないし、どう説明するか考えていると、豹馬くんがニヤニヤ笑う。

「後藤のせいだよ。玉様の周りでうろちょろするから、真打登場して追い払ったんだよ」

「真打?」

「本当の婚約者様」

「げっ。ただの彼女じゃないのか!?」

 本当かという渡辺くんの視線に、私は遠い目で答えた。
 どうせ婚約していることを伏せていても、鈴白村出身の生徒だったら夏祭りの時に正武家の惣領息子が婚約したという話を耳にしているはずだから、隠すだけ無駄だ。
 すると渡辺くんはそそくさとユニフォームに着替え、じゃっと言って走っていく。
 須藤くんは呆れて豹馬くんの頭を軽く叩いた。

「アイツ、スピーカーだぞ」

「これで良いんだよ。さっさと話が広まった方が。面倒臭いだろ」

「だからって……。後藤さんの立場も考えてやれよ」

「自業自得だ。弓場達に色々とやらかしてただろ」

 豹馬くんの私情もかなり入っている。
 小百合さん、大丈夫だろうか。
 かといって、転校したての私が出来ることは何もなく。

 それから三人で雑談をしていると廊下がざわついてきて、何事かと須藤くんの向こうを覗けば数人の男子生徒が教室に入ってきて、私を見つけて寄ってくる。
 須藤くんと豹馬くんが立ち上がり、私の前に立つ。

「福田先輩。どうしたんですか」

 須藤くんが先頭にいた男子に声を掛ける。
 福田と呼ばれた先輩は、豹馬くんの二の腕越しに私を見下ろす。
 背が少し低く、中途半端な長髪がバランス悪くさらに身長の低さを強調している。
 時代遅れのヤンキーのようだ。

「2Aに美人の転校生が来たっていうから見に来た」

 美人って……。
 思わず照れて頭を掻くと、豹馬くんの冷たい視線が突き刺さる。

「その子だろ。挨拶くらいさせろよ」

 二人を押し退けて、座る私の前に福田先輩がくる。
 でも私の視線は、後ろにいた目をまん丸にさせている人に注がれる。

「那奈のお兄ちゃん!」

 挨拶をしようと口を開いた福田先輩を無視して私は那奈のお兄ちゃんを指差す。
 そっか、那奈が居るってことはお兄ちゃんもいるのか。
 私はあれだけのことをされていたにもかかわらず懐かしくなって、歩み寄ってバンバンと肩を叩いた。
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