私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第一章 がっこう

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「いやー、背が伸びたねぇ! 相変わらず坊主頭だし! 相変わらず仁義とか言っちゃってんの?」

「お、お前、三郎爺の!」

「そうそう、比和子!」

 後ずさったお兄ちゃんは、腕組みをしてこの状況を諦観していた玉彦を見つけ、福田先輩の肩を掴んだ。

「おい、福田。コイツはヤバい」

「何がよ? おれ、福田。よろしくね、『比和子ちゃん』」

 差し出された右手。
 咄嗟に反応してこちらも差し出せば、その手は玉彦に掴まれ阻止された。

「馴れ馴れしく呼ぶな。福田」

 先輩を呼び捨てってどうかと思うよ、玉彦。
 須藤くんは玉彦の登場に椅子を戻し、豹馬くんは笑っている。

「なんだよ、正武家」

 食って掛かる福田先輩に玉彦が一瞥すると、那奈のお兄ちゃんが止めに入る。
 でも、遅かった。

「下の学年にまで女を漁りに来るとは見苦しい」

「お前っ!」

「福田っ。止めろ!」

 那奈のお兄ちゃんが小柄な福田先輩を後ろから羽交い絞めにして、教室を騒がしく出て行く。
 教室内や廊下ではギャラリーがこちらを見ている。

「渡辺のスピーカーは必要なかったな」

 豹馬くんがしたり顔で玉彦を肩で押す。
 やれやれといった感じで、須藤くんが戻って来ると未だ私の腕を掴む玉彦を離す。

「玉彦様も。上守さんが普通に学校生活送れるように自重すべき点はあるんじゃないの?」

「友人として接することには構わん。だがあれは駄目だ。下心が見え見えで気色悪い」

「先が思いやられるね、上守さん……」

 須藤くんの溜息は、私の溜息だ。
 私はこの学校にいる間、満足に友達を作れるんだろうか……。


 美山高校の木造校舎は大きく三つに分かれていた。
 授業を行うための教室が集まった本校舎、実習を行ったり、音楽室や視聴覚室がある実習校舎、そして部室や更衣室、体育館や道場などがある実技校舎。
 体育館以外は全て木造で、磨き抜かれた校舎はさながら重要文化財の様だった。
 玉彦と豹馬くん、須藤くんに案内され色々と見て回れば、もう時間は昼近くになっていた。

「上守。お前一週間くらい背中に『玉様彼女』って貼っておけよ……」

 擦れ違う人に声を掛けられ説明に疲れた豹馬くんが半目で私を睨む。
 前に香本さんが言っていたように、玉彦の人気って凄かったんだなぁと実感していれば、須藤くんは少しずれたことを言う。

「でもこの制服にガムテープ貼るのは、後がベトついて可哀想だよ」

「じゃあ背中に旗でも立てておけっ!」

「くだらん。帰るぞ。腹が減った」

 本校舎の三階から二階へと降りる階段の踊り場。
 そこに大きな全身を映し出す鏡の前で私は足を止める。
 今、階段を降りる時、鏡に赤いものが一瞬横切ったような気がするんだけど……。
 辺りを見回しても、私たち以外誰も居ない。
 そもそも赤いものがない。
 私の目の端を掠めたのは、血のような赤ではなくて、雨傘によくあるような少し光沢のある明るい赤。

「上守さん?」

「あ、ごめん。今行く」

 階下から須藤くんに呼ばれ、私は階段を降りる。
 おかしいなぁ……。
 確かに何か見た気がするんだけどなぁ。
 玉彦を見れば無反応だし、気のせいかな。
 この時、私は玉彦ではなく、私と同じく御倉神を視ることの出来る豹馬くんの反応を見ておくべきだった。

 校門を出ると、南天さんがお迎えに来てくれていた。
 私たちは後部座席に乗り、自転車に跨る稀人二人に手を振る。

「玉彦はいつも車通学なの?」

「いや、自転車だ。お前がいる間だけ車だ」

「玉彦って……」

「乗れる」

 玉彦が自転車に乗るって、想像するだけでも面白い。
 正武家という特殊な環境を除けば、普通の高二男子なんだなぁ。

「お前、部活はどうするのだ」

「入らなきゃダメなの?」

 短期間だし問題解決していないし、部活だなんて悠長なことをしていてもいいのかな。
 運動部は大会とかにも出られないし、大人しく文科系の文学部にしておこうかな。
 第一希望は帰宅部で、正武家の書庫に籠っていたいけど。
 それを伝えると、玉彦は微妙な顔だ。

「駄目かな?」

「学校にいる間は俺の目の届く範囲だ。それに帰る時間も同じにしろ。南天の手間を考えろ」

「そんなこと言ったら、弓道部になっちゃうじゃん。無理ー無理ー」

 部活をどうする以前に選択肢ないじゃん。
 運転しながら「私は構いませんよ」と南天さん。
 小百合さんの送迎もしているため、苦にならないそうだ。

「……わかった。ではせめて弓場と同じ部活にしろ。確か文学部だったはずだ」

「マジで!?」

 さすが亜由美ちゃん。
 私たち、運命の糸で繋がっているんじゃないかな。
 月曜日、亜由美ちゃんに言って文学部に入れてもらおう。

 こうして私の美山高校一日目は色んなことがあったけど、まぁ無事に終わることが出来た。

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