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第一章 がっこう
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しおりを挟む正武家の書庫は、離れのお屋敷の地下にある。
木の梯子を降りて天井の低い廊下を進み、突き当りの引き戸を開ければそこは二十畳くらいの部屋があり、壁際と部屋の真ん中あたりに黒い漆の棚がズラリと並ぶ。
図書館みたく本は立てて保管されていない。
綴られた古い本が大半なので、全て重ねられている。
奥へ行けば行くほど古い本があり、とりあえず私が読むことを許されているのは部屋の手前半分。
この書庫に保管されている本は、正武家が今まで関わってきたお役目の全て。
私は正武家の一員として家の歴史を学んでいる最中で、書庫の中はそれらを知るためには重要な場所だった。
毎晩玉彦の正武家についてのお話は続いていて、その内容はこの書庫の私が立ち入りを制限されている奥の部分だ。
どうして制限されているのかというと、お役目を理解しないで読んでも解らないということと、記されている文字が達筆すぎて読めないのだ。
努力はしているけど、未だに読めない。
「おい、夕餉だ」
土曜の夕方。
書庫に籠る私を、部活終わりの玉彦が呼びに来た。
梯子を上がり、外に出れば身体を包んでいた圧迫感から解放される。
「あまり根を詰めるな。この先まだ読む機会はいくらでもある」
そう言われても、私にはお屋敷ですることがない。
やっぱり大人しく玉彦と一緒の部活にするべきだったのかな、とも思ったけど、ずっと朝から晩まで玉彦と一緒って悪くはないけど、私には彼しかいないようで何だか嫌だ。
「んー、わかった」
明るさに目を細めて玉彦の作務衣の袖を掴む。
盲導犬のようだ。
手を繋ぎなおして座敷に行くとお膳は二つ。
今日も小百合さんは自室で食べているらしい。
一人で食べるのは寂しいと思うんだけど、それよりも私たちと顔を合わせるのが嫌らしい。
登校時間も私たちより早く、帰りも早い。
ちなみに澄彦さんの指示により、香本さんがお目付け役になっている。
「澄彦さん、まだ帰れないの?」
「まだだ。予定ではあと十日だぞ。そんなに早く帰って来てほしいのか」
「そういう訳じゃないけど……」
三人での食事が当たり前になっていたので、本当はちょっと寂しい。
でもよくよく考えれば、私が居なく、澄彦さんが外でのお仕事の時には玉彦は一人で食事をしていたはずで、そう考えると玉彦にとっては寂しくない食事なのかもしれない。
「明日も部活?」
玉彦は箸を置いて、礼をする。
そして私に向き直る。
「明日は休んだ。行く所がある。比和子も付き合え」
「どこ行くの?」
「色々と。月に一度の鈴白行脚だ」
「何それ」
「正武家のお役目の一つだ」
「……わ、わかった」
「気負う必要はない。見回りだ。須藤も行く」
「あ、そうなんだ」
てっきり二人で行くのかと思ったけど、正武家のお役目なら稀人も同行するよね。
豹馬くんより須藤くんの方が稀人としてまだ修業が浅いから、一緒に行くんだろうな。
ホッとして笑みを零すと玉彦が眉間に皺を寄せた。
「今、安堵しただろう」
「なによ。しちゃダメなわけ?」
「どうにも須藤はお前に甘い。そしてお前も須藤に甘い」
また、面倒臭いことを言い出した。
どうにもこうにも玉彦は、私に関わる男子に文句があるようだ。
ついには神様の御倉神にまで、あれは男だという始末。
こういう時には先手に限る。
私はお膳を横にずらして、膨れつつある玉彦の隣に移動した。
「玉彦」
「……」
「この際だからはっきり言っとくけど、私には玉彦だけだよ?」
可愛く首を傾げてみる。
でも、固まって無反応。
くそーこの手じゃ転ばないか。
私は身を乗り出して、額にキスをする。
すると玉彦の腕が腰に回され……ぐるっと身が反転する。
床に押し倒され、玉彦が……。
「そういうことはお部屋でお願いします……」
お膳を下げに来た南天さんが襖を開けて驚き、苦笑いしてまた閉める。
「……」
「……」
見つめ合ったまま笑い出すともう止まらなくなって、二人してお膳を持って台所へと片付けに行った。
台所で南天さんに平謝りし、私たちは各自自分の部屋へと戻る。
数日前まで玉彦の部屋で寝泊まりしていたのだけど、学校が始まり、朝の準備も慌ただしくなるので別の部屋にした。
それに通山から運んできた荷物が彼の部屋に入りきらなかったってこともある。
私はそれでも全然気にならなかったんだけど、寂しがり屋の玉彦は広めの部屋を二人の部屋として使いたいようで、色々と考えているようだ。
私としては着替えとかあるし、寝る時だけ一緒でいいんだけど。
二人で寝たら暖かいし、退屈しないし、心細くないし。
玉彦は蛇の生殺しだって言うけどさ。
ゴロリと畳に寝転んで、スマホをチェックする。
今日は転校初日なのに、誰とも連絡先の交換しなかったな。
メールを見れば小町から一件。
澄彦さんから一件。
ほとんど身内のような二人だけからか。
適当に返事をして、スマホを放り投げる。
月曜日こそ、男子ばっかりだけど、一応女子も二人いたけど、仲良くなれると良いな。
あの三人だけしか話し相手が居ないなんて、世間が狭すぎるよ。
前の席の渡辺くんは仲良くなれそうだったけど、玉様効果で避けられなければ良いなぁ。
あと亜由美ちゃんとか香本さんのクラスにも行かなくては。
でも一人の行動には制限があるから、適任の豹馬くんに付き合ってもらおう。
彼は亜由美ちゃんの彼氏だから、不自然ではないはず。
あとは美山高校の進学特化の授業に付いて行けるか。
昨日校内を案内されて気が付いたけど、各科で制服のシャツの袖のラインが違っていた。
進学特化は青。
どうやら他の科とは一線を置いているらしく、青いラインの生徒は他のラインの色の生徒と一緒には居なかった。
何となく彼らは他の科の生徒を見下しているような雰囲気があって嫌だった。
それと気になっていたことが一つ。
階段の踊り場の鏡に映ったあの赤い何か。
あれってやっぱり見間違いじゃないと思う。
もう一度行って確かめてみたい。
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