私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第二章 せんれい

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「どうしたの? 比和子」

「上守さん? あ、玉彦様」

 髪を乱して振り向くと、お弁当箱の包みと一緒に解答用紙を持つ玉彦がこちらに向かって来ていた。
 駆け寄って解答用紙を奪い取れば、四枚しかない。
 現国のが、ない。
 慌てる私の様子に、引き攣った顔で玉彦は鼻で笑った。

「お前のせいで俺は職員室で冷やかされ、とんだ辱めを受けた。直球過ぎるだろ!」

「だって、だって!」

 言い合いをしながら、皆のところへ戻ると私に恥じらいがないと怒る玉彦はそれでも隣で食事を始める。
 彼の様子に気圧されたみんなは黙り込んでしまった。

「とりあえず意味わかんないけど、謝っとけよ、上守」

「ごめんなさい」

 豹馬くんに言われて謝ってみたけど、玉彦は許すと言わない。
 黙々と箸を運んで呟く。

「俺はしばらく職員室で玉響(たまかぎる)君(きみ)と呼ばれそうだ……」

「うっ……」

「して、この返歌は必要か?」

 おもむろに胸ポケットから折りたたまれた現国の解答用紙をちらつかせる。
 手を伸ばして奪おうとして玉彦の箸を持つ手に阻まれる。

「あれだけ毎晩夜伽をしてやっているのにお前は何を考えて……」

「わー! わー! ちょっと変なこと言わないでよ! あんたこそ何を考えてんのよ! そんなことしてないでしょ!」

「お前、何を勘違いして……」

 私は後ろを向いてスマホを出すと、夜伽を検索する。
 性的奉仕。『共寝。』
 これか、こっちのことを言っているのか!

「だったら分かりやすく添い寝って言いなさいよ!」

「え、上守、玉様に添い寝してもらってんの?」

 豹馬くんの言葉に、私はみんなを見て絶句する。
 亜由美ちゃんなんか赤くなって顔を伏せているし、那奈はお箸から鮭を落とした。

「この馬鹿玉! あんたとなんかもう絶交だわ!」

「これを詠ったお前が言うか」

 ごちそうさまの手を合わせて玉彦はお弁当箱を包み直す。
 その冷静な仕草が、慌てふためく私をより一層滑稽な物にしている。

 ちなみに私の現国の回答に記された短歌は、解りやすくいえば『寝る前にも逢ったのに、朝になったらまたすぐに逢いたいよー』という感じのものだ。
 それだけ君に逢いたいという一種のラブレターだ。
 広く読み解けば、好きに理由は必要ないでしょ?っていう……。
 で、恥ずかしいけど、大好きな玉彦の一字を掛けて。

「言うわよ! もう絶対に枕持って私の部屋に来るんじゃないわよ!」

「枕一つでは寝づらい」

「枕を持ってなくても来るなー!!」

 みんなが犬も食わない何とやらだと気づき始め、私の叫びと共にお昼休み終了の予鈴が鳴った。


 午後。


 この学校ではなのか、この進学特化のクラスだけなのか、午後に先生による授業はない。
 午後の二コマは各自の自習に充てられている。
 乱雑なグループ内によるディスカッションしながら教科書の内容を進めたり、英会話のみのグループもある。
 一人で黙々としている人もいて、私もそれに倣う。
 さっきのことがあって玉彦のところには行きたくないし、というかあのスパルタ教育がここで炸裂するのも嫌だし。
 須藤くんが誘いに来てくれたけど、そういう理由でまた今度と断った。
 豹馬くんは私に関して出来るだけ我関せずのスタンスで行くようだ。

 午前の授業に付いて行けないと思っていた私だけど、この自習を始めて判ったことがある。
 私はじっくり読み込んで理解をしてから進むタイプで、問題集を解いていれば良いという人間ではない。
 納得しないと先に進めないのだ。
 明日の科目を一つ三十分として予習をする。
 その中で疑問に思ったところに付箋を貼る。
 今日の授業の感じだと、みんな手を挙げて質問するのはそういう箇所だったと思う。
 自分の理解が正しかったところは流して聞いて、疑問点だけに集中する。
 とりあえず今日はこのパターンで自習をして、明日ズレを感じたら修正していこう。
 この調子なら短期間の進学特化クラスでも何とか乗り切れるはずだ。
 二つめの科目の付箋を貼り終えたところで鐘が鳴り、私は教科書を閉じた。
 そして誰よりも早くお手洗いへ駆けこむ。
 お昼休みに行けなくて、ずっと我慢していたのだ。

 進学特化のクラスは他のクラスとは教室が離れていて、私がいるお手洗いはほぼ進学特化クラスの専用となっている。
 個室に入って用を足せば、ノックされる。
 もう、誰よ。
 入ってますよとノックをし返して、ふと違和感に悪寒が走った。
 だって個室は三つあるのに。
 進学特化クラスの女子は私を含めて三人。
 全員が個室に入ってちょうど満室なのだ。
 それに誰よりも早くお手洗いに入って、後から誰かが入って来た気配は、なかった。

 再び、コンコンとノックされる。
 音を立てないように下着を引き上げ、私はドアノブに手を掛けた。

 このドアを開けたら、誰がいるんだろう。

 考え込んでいたら、激しいノックと共にドアノブもガチャガチャと向う側から回され手を離した。

 やばいやばいやばい。
 これは、よく聞く学校のトイレにいるっていうトイレの花子さんなんじゃないの!?

 花子さんってどんな話だったっけ?
 どうすれば危機を回避できるんだっけ?

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