20 / 120
第四章 はじめて
1
しおりを挟む木曜日。
大事を取った水曜日は体調の変化も無く、朝に暴走していた玉彦もすぐにいつも通りになって何事も無く過ぎていた。
月曜日の自習の時間に貼っていた教科書の付箋はもう役に立たなくて、私はまた午後からせっせと付箋貼りに勤しんでいた。
もう明日で学校での一週間が終わってしまう。
そしてあと数日もすれば、澄彦さんが帰って来る。
放課後、私は亜由美ちゃんと一緒に文学部の部室に来ていた。
本当は月水金しか活動をしていないのだけれど、部長さんの特別の計らいで部室の鍵を開けてもらった。
そこは数台の古いパソコンと積み重ねられたプリントや原稿用紙、そして今まで発行してきた会報誌が棚に収められていた。
散らかってはいるけれど、汚いわけではない。
「いま、十一月の学校祭に出す本の作品を書いてるんよー」
亜由美ちゃんは二人が座れるように、物を押しやりスペースを作っている。
学校祭かぁ。
十一月だともう私はここに居ないんだろうなぁ。
ようやく空いた椅子に腰かけて、近くにあった会報誌をぺらぺらと捲る。
短編小説や、詩や短歌など様々だ。
「亜由美ちゃんは何を書くの?」
「うちー? うちは読み専門なんよ」
「それでいいの?」
「うん。みんな書いたものを誰かに読んで欲しいから、うちみたいなの重宝されるん。読書好きだし」
それなら短期間しかいない私でも、邪魔にならずに部活に入れるかも。
でも澄彦さんが戻って来たら、九条さんのところへ放課後は通うようになるだろうし、中途半端になってしまうだろうか。
亜由美ちゃんにそう不安を伝えれば、彼女は大丈夫だと微笑む。
「うちの部、幽霊部員が多いから、そんなの誰も気にせんよ」
「そうなの? じゃあ入部届け出しちゃおうかな……」
カバンからペンを取り出し、数日前に先生から貰っていた入部届けに文学部と記入する。
あとは明日先生に出せばオッケーだ。
「比和子ちゃん。原稿用紙の作品は持ってけんけど、会報誌なら持ってって読めるよ」
「なんかお勧めある?」
「んー」
棚を眺めて亜由美ちゃんが取り出したのは緑の表紙の会報誌。
二百ページくらいかな。
渡されてよく見ると、発行年月日は十五年前。
表紙には何故か籠を背負った二ノ宮金次郎。
「これね、美山高校の歴史について特集してるん。来たばっかりの比和子ちゃんにはちょうど合ってるんじゃないかな?」
「へーぇ」
目次を読めば、それらしきことが並んでいる。
学校の変遷やら、生徒会の活躍とか、部活動の成績がどうとか。
そして巻末に近い目次のところに、目に留まる。
『美山高校に伝わる七不思議』
あのトイレでの出来事がフラッシュバックする。
てっきりトイレの花子さんだとあの時は思ったけど、もしかしたら七不思議になっているんじゃないだろうか。
そして階段の踊り場に在った大きい姿見の鏡を横切った赤いもの。
これは九条さんから出された宿題をクリアするチャンスかも。
この中にある七不思議で本物があるのかないのか。
解決は出来なくても、視れさえすれば。
「これ借りて行っても良いかな?」
「大丈夫ー。読みたがる人少ないから」
亜由美ちゃんの言葉を受けて、私は会報誌をカバンにしまった。
家でゆっくり読んでみよう。
玉彦には見つからない様にしなくてはいけないな。
また心配するだろうし。
「じゃあ比和子ちゃん、弓道場に行こう? 玉様から出来るだけ早めに弓道場に入れって言われてるん」
「とかなんとか言っちゃってー。本当は豹馬くんに逢いたいだけでしょ?」
「もー比和子ちゃん!」
私を叩くふりをする亜由美ちゃんの腕を取る。
そして二人で部室を出た。
振り返り亜由美ちゃんがドアを閉める瞬間。
部室の窓の外に何かが勢いよく『落下して』ぶつかった。
ドンッと大きな音がして、二人で廊下から部室の中を薄暗くしている窓の外のものを見れば、それは学生服を着た男の子で、首を吊っていた。
首吊りをするとあんな風になるんだ……。
首が異様に伸びて、顔のパーツが今にも絞り出されそうになっている。
「……」
「……」
亜由美ちゃんが無言で勢いよくドアを閉める。
あっと思ってももう遅い。
私の手は亜由美ちゃんの腕を掴んだままだったのだ。
「比和子ちゃん……見た?」
「……うん」
「あれ何かな……」
「わかんない……」
念の為、もし本物の人間だったら大変なので、恐る恐る二人でドアの隙間から覗き込む。
この時も私の手は亜由美ちゃんの肩に乗せられていた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる