私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第四章 はじめて

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 木曜日。

 大事を取った水曜日は体調の変化も無く、朝に暴走していた玉彦もすぐにいつも通りになって何事も無く過ぎていた。
 月曜日の自習の時間に貼っていた教科書の付箋はもう役に立たなくて、私はまた午後からせっせと付箋貼りに勤しんでいた。
 もう明日で学校での一週間が終わってしまう。
 そしてあと数日もすれば、澄彦さんが帰って来る。

 放課後、私は亜由美ちゃんと一緒に文学部の部室に来ていた。
 本当は月水金しか活動をしていないのだけれど、部長さんの特別の計らいで部室の鍵を開けてもらった。
 そこは数台の古いパソコンと積み重ねられたプリントや原稿用紙、そして今まで発行してきた会報誌が棚に収められていた。
 散らかってはいるけれど、汚いわけではない。

「いま、十一月の学校祭に出す本の作品を書いてるんよー」

 亜由美ちゃんは二人が座れるように、物を押しやりスペースを作っている。
 学校祭かぁ。
 十一月だともう私はここに居ないんだろうなぁ。
 ようやく空いた椅子に腰かけて、近くにあった会報誌をぺらぺらと捲る。
 短編小説や、詩や短歌など様々だ。

「亜由美ちゃんは何を書くの?」

「うちー? うちは読み専門なんよ」

「それでいいの?」

「うん。みんな書いたものを誰かに読んで欲しいから、うちみたいなの重宝されるん。読書好きだし」

 それなら短期間しかいない私でも、邪魔にならずに部活に入れるかも。
 でも澄彦さんが戻って来たら、九条さんのところへ放課後は通うようになるだろうし、中途半端になってしまうだろうか。
 亜由美ちゃんにそう不安を伝えれば、彼女は大丈夫だと微笑む。

「うちの部、幽霊部員が多いから、そんなの誰も気にせんよ」

「そうなの? じゃあ入部届け出しちゃおうかな……」

 カバンからペンを取り出し、数日前に先生から貰っていた入部届けに文学部と記入する。
 あとは明日先生に出せばオッケーだ。

「比和子ちゃん。原稿用紙の作品は持ってけんけど、会報誌なら持ってって読めるよ」

「なんかお勧めある?」

「んー」

 棚を眺めて亜由美ちゃんが取り出したのは緑の表紙の会報誌。
 二百ページくらいかな。
 渡されてよく見ると、発行年月日は十五年前。
 表紙には何故か籠を背負った二ノ宮金次郎。

「これね、美山高校の歴史について特集してるん。来たばっかりの比和子ちゃんにはちょうど合ってるんじゃないかな?」

「へーぇ」

 目次を読めば、それらしきことが並んでいる。
 学校の変遷やら、生徒会の活躍とか、部活動の成績がどうとか。
 そして巻末に近い目次のところに、目に留まる。

『美山高校に伝わる七不思議』

 あのトイレでの出来事がフラッシュバックする。
 てっきりトイレの花子さんだとあの時は思ったけど、もしかしたら七不思議になっているんじゃないだろうか。
 そして階段の踊り場に在った大きい姿見の鏡を横切った赤いもの。
 これは九条さんから出された宿題をクリアするチャンスかも。
 この中にある七不思議で本物があるのかないのか。
 解決は出来なくても、視れさえすれば。

「これ借りて行っても良いかな?」

「大丈夫ー。読みたがる人少ないから」

 亜由美ちゃんの言葉を受けて、私は会報誌をカバンにしまった。
 家でゆっくり読んでみよう。
 玉彦には見つからない様にしなくてはいけないな。
 また心配するだろうし。

「じゃあ比和子ちゃん、弓道場に行こう? 玉様から出来るだけ早めに弓道場に入れって言われてるん」

「とかなんとか言っちゃってー。本当は豹馬くんに逢いたいだけでしょ?」

「もー比和子ちゃん!」

 私を叩くふりをする亜由美ちゃんの腕を取る。
 そして二人で部室を出た。
 振り返り亜由美ちゃんがドアを閉める瞬間。

 部室の窓の外に何かが勢いよく『落下して』ぶつかった。

 ドンッと大きな音がして、二人で廊下から部室の中を薄暗くしている窓の外のものを見れば、それは学生服を着た男の子で、首を吊っていた。

 首吊りをするとあんな風になるんだ……。
 首が異様に伸びて、顔のパーツが今にも絞り出されそうになっている。

「……」

「……」

 亜由美ちゃんが無言で勢いよくドアを閉める。
 あっと思ってももう遅い。
 私の手は亜由美ちゃんの腕を掴んだままだったのだ。

「比和子ちゃん……見た?」

「……うん」

「あれ何かな……」

「わかんない……」
 
 念の為、もし本物の人間だったら大変なので、恐る恐る二人でドアの隙間から覗き込む。
 この時も私の手は亜由美ちゃんの肩に乗せられていた。

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