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第五章 ひょうま
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しおりを挟む「もうずっとここにいろよ。いてください。頼むから」
「それは無理」
「じゃあどうすればいいんだ」
「大人しく時間が経つのを待ってなさいよ……。学校卒業したら嫌でもいるんだから」
「嫌なのか!」
「そうじゃなくて!」
なんなの、どうすれば良いの!?
この酔っ払い玉彦!
「比和子は俺のこと好きじゃないんだ……」
「何を馬鹿なこと言ってるのよ。さっさと寝てしまいなさい!」
「じゃあ証明しろ」
「はぁあああ!?」
「朝昼晩、俺が好きだと言え」
「……」
「やっぱり好きじゃないんだ……。惚稀人になってしまったから、仕方なくここにいるだけなんだ……」
「……」
「お前はまだ守のことが好きなんだ……」
「玉彦!」
酔っぱらって本音がダダ洩れの玉彦の頬を両手で挟み、頭突きをかます。
もう、酔っ払いといえども我慢ならん!
私がどれだけの思いでここにいるのか、全然わかっていない。
それに今さら守くんの話を持ち出すって、もう四年も前のことなのに。
小町の彼氏なのに。
私には玉彦だけなのに。
「痛い……比和子」
眉根を寄せた玉彦はほんのりと目が赤い。
それがやけに熱を持っている様に見える。
「玉彦」
「うん?」
「目が覚めたらこの記憶あるのかな?」
「あるよ、何言ってんだ」
「じゃあ好きって証明してあげるから、先に玉彦から朝昼晩私にそう言って。きちんと出来たらご褒美あげる」
「わかった」
「それと今日はもう寝なさい」
「いやだ」
「寝なさい」
「一回してから寝る」
「駄目」
「じゃあちょっとだけ触りたい」
「それも駄目」
酔っているクセに素早く動いた玉彦は私を組み敷く。
「ダメダメばかり言うなよ。俺、もう無理。今すぐやりたい」
「約束破る気!?」
「破るも何も……比和子の身体は正直だ」
「どこを触って言ってんのよ!」
私の耳元で卑猥に囁く玉彦の首を絞めてやりたい。
「抜かないと収まらないんだよ……。ごめんな、比和子。電気は消すから」
「馬鹿言ってんじゃないわよ! 明日学校だってば!」
「明日は振替休日だ」
「え?」
そうだったっけ?
一瞬考えて力が抜けたその時に、玉彦は着ていたものを脱ぎ捨てた。
「嘘だ。許せ、比和子」
「この、けだものが――!!」
で、まぁそんなこんなで。
コトが終わったそのあとで。
不貞腐れて背を向ける私にぴっとりと玉彦が寄り添う。
「……比和子」
「なによ」
「……人肌というのは温かくて良いものだな」
「……そうね」
返事を待っていると背後から規則正しい寝息が聞こえる。
そこでようやく一息つく。
とんだ酒乱だ。
一体澄彦さんはどんなお酒を呑んでいるんだろう。
たった御猪口一杯でこんなことになる?
明日の朝、二人とも素っ裸な状況で起きた玉彦はどう思うんだろう。
あれだけのことを言って、しといて、記憶が無いとか言われたら私、ブチ切れそう。
とにかく今は寝なくては。
もう夜が白み始めている。
スマホのアラームが鳴り、気怠く起きれば隣に玉彦はもう居なく、私はしっかりと下着を付けてパジャマを着ていた。
あれ? 着てたっけ?
とりあえず急いでお風呂でシャワーを捻り、確認するとやっぱり痕跡があると思う。けど。わざわざ玉彦が着替えさせてくれたのだろうか?
制服に着替えて廊下を歩けば、朝の修練に出ていた玉彦と出くわした。
「おはよう、玉彦」
「あぁ、おはよう」
普段通りのやり取りで、私は首を傾げる。
昨日の夜って、夢じゃないよね?
擦れ違って歩き出すと、二の腕を玉彦が掴む。
「どうしたの?」
「……いや、何でもない」
「変なの」
再び歩き出して澄彦さん側の母屋の座敷で朝餉を待つ。
寝坊しなくて良かったな。
「あ、おはよう、比和子ちゃん」
「おはようございます」
朝の挨拶をしながら澄彦さんが席に着く。
着流しに羽織りもの。
最近は朝が冷えてきたし、正武家は山の上にあるようなところだから寒さを早く感じる。
「遅くなりました」
最後に玉彦が現れて、朝餉が始まる。
「本日、僕は来客三昧だから外には出ない。二人は?」
「学校と部活です」
「私も学校と部活があります」
「そう。比和子ちゃんは九条のところには行かないの?」
予定では澄彦さんが帰って来てから本格的に九条さんに教えてもらうはずだったけれど、出された宿題がまだ一つも終わっていない。
せっかくのチャンスは逃してしまっていた。
「まだ行けません。しっかりと視えないので」
「そうなの……。では僕から九条に連絡を入れておく。無理はしないようにね。いざとなったら逃げるんだよ?」
「はい……」
いざとなったら逃げることしか出来ない私は、情けない。
立ち向かう勇気はあっても、返り討ちにする力が何もない。
「豹馬か須藤が協力するので大丈夫かと」
「あー、そうなんだ? じゃあ二人が犠牲になっている間にさっさと逃げるんだよ?」
澄彦さんはニッコリと笑う。
本気なのか冗談なのか解らない。
「それに校内でのことなので、すぐにこちらも駆けつけます」
「すぐに駆けつけたら面白く、いや、修行にならないだろ」
澄彦さんの本音がチラリと聞けたところで、私は箸を置く。
結局澄彦さんは正武家のお役目以外は適当で、いたずらしては楽しんでいる。
今日こそはと意気込んだ私は座敷を出る時に襖に足の小指をぶつけてしまい、悶絶した。
前途多難な予感……。
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