私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第五章 ひょうま

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 いつもふざけている澄彦さんの口調が当主のものになり、玉彦はがっくりと首を項垂れる。
 父と子ではあるけれど、正武家の当主と次代という間には絶対的に越えられない壁があった。
 私を縁側に降ろして、足を拭いてから玉彦は徳利を挟んで澄彦さんの横に座る。
 澄彦さんから玉彦へと渡された御猪口へなみなみと日本酒が注がれる。

「いただきます」

 三々九度の様に玉彦はそれを飲み干して、御猪口を引っくり返して盆に置く。
 てゆーか未成年なのに呑ませて良いのだろうか、澄彦さん。

「息子よ。父がもう教えられることは少ないようだ。立派になった」

 澄彦さんは寂しそうに笑って、玉彦の頭を撫でる。

「お前が生まれて私の父が死に、妻も去っていった。これまでただ我武者羅にお前を守り、正武家の役目を全うする為だけに時を費やしてきた。だがそろそろ子離れする時が来たようだ。
いつ如何なる時も正武家たるもの正武家であれ。だが父はこれにもう一文付けてお前に贈ろうと思う」

 父である澄彦さんの真剣な眼差しに、玉彦もまた真剣に聞き入っていた。

「いつ如何なる時も正武家たるもの正武家であれ。愛する者達は必ず護り抜け。以上だ」

「お言葉、ありがたく頂戴いたします」

「それと近々西の者たちがこちらへ言祝ぎ(ことほぎ)に来る予定だ。前回の様に面倒事だけは起こしてくれるなよ。今回はお前の為に来るのだからな。それと比和子ちゃんから絶対に離れるな。例の双子も来る」

「……来るなと言えぬのですか」

「馬鹿をいえ。言祝ぎを断る奴がどこにいる」

 後ろに控えていた私を振り返り、再び澄彦さんに向き直った玉彦は腕組みをする。
 西の者って誰だろう。
 普通に考えれば鈴白よりも西にいる人たちだよね。
 でも具体的な地名を言わないあたり、怪しいというか、正武家のお役目関係のしかもこちら側の人たちなのではないかと推理する。
 そういう人たちが言祝ぎ、お祝いを言いに来るってことだと思うんだけど、二人の警戒様が不思議でもある。
 そもそもお祝いって……。

「比和子には日を改めて説明をしておきます」

「この後言っとけ。どうせ夜這いでもかけるんだろ。比和子ちゃんにも備えは必要だ」

「……父上」

 澄彦さんってどうも一言余計なことをつけ加える癖があると思うの。
 玉彦の背中が物語っている。

「揺らぎは収まりつつあるが、定着させるまでは油断するなよ。あっ比和子ちゃん。まだまだ下手くそでイラッとするかもしれないけど、相手してやってよ。こればっかりは惚稀人のお役目だからさー。他の女性で経験を積めって言いたいところだけど、あれ? 息子よ、どこへ行く。父の話は終わっていないぞ」

 澄彦さんの話の途中で立ち上がった玉彦は、私に行くぞと目で促して座敷から立ち去る。
 遅れて私も一歩踏み出せば、澄彦さんの言葉が後ろから追い掛けてきた。

「自分の帰る場所はここであるとお互いに刷り込む様に。そうすれば何があっても玉彦は君の所へどんな形であれ帰る。そして君も神守の眼に飲み込まれたとしても、玉彦の元へと帰ることが出来る」

「澄彦さん……?」

「九条から報告を受けている。君が神守の眼を発現させたこと。正武家の者として精進せよ、比和子。以上である」

「わかりました……」

 こちらに背を向けたままの澄彦さんに一礼して、襖を閉めれば廊下には玉彦が待っていた。
 今の言葉、聞こえていただろうか。
 無表情で真っ直ぐ前を見据えたままの玉彦は何を考えているんだろう。




 部屋に戻り、一人考える。

 色々な物事が一気に動き出し始めてしまった様に感じる。
 知らなければならないこと、行動しなくてはならないこと。
 でも今は神守の眼をどうにかモノにしなくては私の話が始まらない。
 まずは一つずつ、取り組んで行こう。

「入るぞ」

 いつものように返事をする間も無く、襖が開けられる。
 てゆーかどうして枕を持ってきてるんだ。

「何しに来たの」

「寝に来てやったぞ」

「それは学校が休みの前の日って約束でしょうよ……」

「わかっている。共に眠るだけだ。こうなればもう開き直ってやる」

「あ、そうですか……」

 こうしてまだ澄彦さんの言葉に反発心を持っているあたり、まだまだ立派になったとは言い難いと思う。
 笑って受け流してこそだと思うんだけど。

「それに比和子も寂しいだろう?」

 私もってことは、自分は寂しかった訳ね。

「うーん。たまには広々と一人で寝たいかなぁ」

「……そういうこと、言うなよ。俺は寂しい。一緒に寝たい。あわよくばって思ってたりするけど約束は守る。でも破る自信は大いにある。それでも一緒にいたい」

「玉彦?」

 様子がおかしい。
 話し方からすでにおかしい。
 何かに憑かれてる?
 でもまさかこのお屋敷内で、しかも玉彦にそんなこと出来るものってないんじゃないだろうか。

「比和子。俺はいつもお前がどこかへ行ってしまわないか不安で仕方がない。だから時間が許す限りいつでもどこでも一緒にいたいんだ。なのにお前ときたら」

 何かを譫言のように呟きながら、お布団に倒れ込んだ彼に駆け寄る。

「玉彦、玉彦っ!?」

「どうして通山に帰りたがる。ここにずっといればいいのに」

 優しく頬に触れた手が、私を引き寄せキスをする。
 ……コイツ。

「……あんた、あれだけで酔っぱらってんの!?」

「あぁもうずっと屋敷に閉じ込めて愛でていたい」

 駄目だ、会話が成り立たない。
 誰か、誰か、南天さん!
 酔い覚ましを!
 腰を浮かしかけた私を後ろから引き倒し、自分の腕に収めて満足すると玉彦が首元に顔を埋める。

 酒乱だ、これは酒乱というやつだ!

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