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第六章 せいどう
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しおりを挟む清藤が訪れる前日。
滞りなく行われた言祝ぎの儀の予行練習に私以外の人間は安堵していた。
みんな私が何かやらかすのではないかとハラハラしていたらしい。
私は自信を持ってやっていたので、そんなに信用が無かったのかと落ち込む。
夜になって夕餉が終わり、玉彦の部屋にいつもの四人に加え、香本さんも集まった。
別にすることはないのだけど、みんなで雑談をして楽しんでいた。
私的にはここに亜由美ちゃんが居ないことに寂しさを覚える。
「これであとは前回みたく問題が起きなければ良いよなぁ」
縁側で月を見上げた豹馬くんが何気に言った一言に、私は反応する。
そう言えば以前澄彦さんは玉彦に問題を起こしてくれるなと言っていたっけ。
何があったのか玉彦に視線で訴えるものの、スルーされる。
「あぁ、あれね。最悪だよね、アイツら」
嫌悪感丸出しの須藤くん。
いつも人あたりが良い彼がそんなことを言うなんて珍しい。
「なんかあったのー?」
私の代わりに香本さんが疑問を投げかけた。
香本さん、グッジョブ!
きっと私が聞けば、玉彦は教えてくれない。
でも遠慮のない香本さんが相手だと、竹婆の面影を見るのか玉彦は口を噤む傾向にある。
「ほら、中三の時。玉彦様の右の甲にヒビ入ったやつ。あれ、清藤の双子のせいだったんだよ」
「須藤」
答えた須藤くんを嗜めるように呼び、その先を言わせまいとする玉彦に香本さんが舌打ちをした。
「ちょっと、玉様。私たちにも知る権利があるでしょー。そんなに危ない奴らだったら、上守さんに何かするかもしれないじゃん」
「……流石に言祝ぎに来て、惚稀人に何かをするとは思えぬ」
「あんた、いや、玉様。だからじゃないの。手籠めにされたらどうすんのよ。清藤って言ったら正武家の寝首をかきたい一族じゃないの」
私が知らされていない清藤の話に、身体が固まる。
寝首に手籠めって……。
そんなことをするかもと思われている彼らって一体……。
「その話は不快だ。俺は風呂へ行く」
玉彦はそういうとスッと立ち、部屋を出て行ってしまう。
追いかけるべきか、どうしようか迷っていると香本さんが私に向き直った。
「上守さんは大事なことだから聞いておいた方が良いと思う。この先、清藤と付き合って行かなくちゃならないんだから。正武家の人間として」
言われて私は浮かせていた腰を下ろす。
「まぁ玉様が席を外したってことは、その間に話しておけと云うことだとオレは解釈した!」
豹馬くんは見上げていた月に宣言をして、部屋の輪の中に戻る。
問題があったのは玉彦が中三の時。
二年も前に元服の儀を終えていたにも拘らず、清藤はかなり遅れてそれを祝いにやって来たそうだ。
その時は今回の様に当主と、玉彦よりも一つ年下の双子の兄弟を連れて。
彼らには長女がおり、次期当主の彼女は西でお留守番をしていたらしい。
清藤は元服を祝ったあとに行われた宴の席で、良ければ次期当主の娘と玉彦を娶あわせて、正武家と清藤を一つにするのはどうかと言い出したらしい。
私からすれば青天の霹靂の話で、言葉が出なかった。
澄彦さんは正武家と清藤が交わることはないと一刀両断し、二度と顔を見せるなとさえ言いのけたそうだ。
それはそうだろう。
内容はともかく、正武家の下位である清藤がそんなことを澄彦さんに進言するなど言語道断だったはずだ。
なのに今回の言祝ぎの儀に彼らがやって来るのはどういう事なんだろう。
「それでまぁ、その双子、亜門と多門って言うんだけどさ。そいつらが姉を馬鹿にするのかと言い出して。今にして思えば、最初から玉様に危害を加えようとする理由付けだったように思うんだよな。その結婚話」
「どういうことよ、御門森」
「普通に考えて無理ってわかるだろ、そんなの」
「まぁねぇ……」
そして須藤くんを見れば、彼は豹馬くんを見る。
それで双子の兄弟はどうしたのかというと、玉彦はそもそも姉に相応しくないと言い出し。
剣道で手合せをして、正武家の力を示せと言い出した。
このままでは場が収まらないと判断した澄彦さんは、玉彦に相手をするように言って彼は従った。
そこで急遽竹刀だけを用意し二回勝負をして、玉彦が勝って終わりかと思いきや、背を向けた玉彦に多門が襲い掛かったという。
「随分と卑怯な奴らね。だってもう勝負は終わってたんでしょ?」
「あぁ、それから亜門も加担して三人の乱戦だよ。その時右手の甲にヒビが入った玉様が、これはもう勝負でもなんでもないって言い放って……」
「どうなったのよ?」
香本さんは私が言いたいことを代弁してくれているかのように、豹馬くんに詰め寄る。
「手加減無用で竹刀で打たれ殴られた双子は、利き腕骨折。亜門は頬骨も骨折」
「げげっ。よく大人たち止めなかったね。引くわー」
「澄彦様は最初から止める気ないし、清藤とすればあわよくばって思いもあったからな。まぁ最後は喧嘩両成敗ってことで、じいちゃんが止めたんだよ。で、お互いに今日のことは水に流せって。解るだろ。あの御門森九条が言ったんだ。正武家も清藤も顔を立てて引き下がるしかなかったさ」
九条さんて本当にすごい人だったんだ。
しかも止めたって、制止したわけじゃなくて、本当に動きを止めてしまったんだと思う。
「で、その件は水に流され、今回も言祝ぎに来るとほざいてるんだよ」
最後は豹馬くんの私情が挟まって終わった。
でもそんな人たちにお祝いされるなんて、正直微妙な気分だ。
玉彦が来るなと言えないのかと澄彦さんに言った気持ちが今なら解る。
「そんな訳だからさ、気を付けろよ、上守。アイツら狙うつもりなら真っ先に弱いお前を狙ってくるぞ」
脅しではない完全な忠告に何度も頷く。
絶対に誰かの近くに居ようと強く思った。
不可思議なものも怖いけれど、人間だって怖いのだ。
「大丈夫だって、上守さん。玉様の後ろを金魚のフンみたいにくっ付いて歩いてなよ」
「でもそうもいかない時もあると思う……」
ずっと一緒に居るなんてきっと出来ない。
来客を迎えて当主の澄彦さんと惣領息子の玉彦が相手をするのだろうし、私が入れない席だってあるはずだった。
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