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第六章 せいどう
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しおりを挟む暫くしても玉彦が戻って来ないので、私は彼を探しに部屋を出た。
って言ってもきっと居るのは私の部屋だ。
「玉彦?」
声を掛け襖をそっと開けると濡れた髪のまま畳に雑魚寝をしている背中がみえる。
私はそのまま襖を閉めて、主が不在の部屋に戻り、玉彦が寝てしまったと報告すれば、その場はお開きになった。
「上守さん、どこで寝るの?」
「え? 自分の部屋で寝るよ?」
香本さんの質問に普通に答えてから、しまったと思う。
須藤くんは赤くなって先に廊下へと消えて行く。
大概にしとけと言いたげな豹馬くんは香本さんの腕を引っ張って台所へと行ってしまった。
玉彦が私に添い寝をしているのは周知の事実で、今さらなんだけど。
でもそれをわざわざ確認しようとする香本さんはどうかと思うよ、実際。
静かに起こさないように部屋に戻って、お布団を敷く。
そして左腕を枕にしていた玉彦の右手を取り、甲を眺めた。
私が知らない四年間に玉彦は一体どれだけ傷付いて苦労してきたんだろう。
わざわざそれを吹聴する人ではないから、私から尋ねないと教えてはくれないだろうし、尋ねたところで過ぎたことだと言われてしまうのが落ちな様な気もする。
「……戻ったか」
「あ、うん」
清藤のこと聞いたよ、と伝えるまでも無く、甲を見ていたら玉彦は察している。
「ねぇ、玉彦……」
明日、大丈夫かな?
明日からの一週間、問題なく過ごせるかな?
「この屋敷でお前に何かがあるはずがない。もし一人で危険だと感じたなら、大変遺憾心外ではあるが御倉神に縋れ」
御倉神は神でも男だという玉彦がそこまで言うなんて、やっぱり危険な人たちなんだ……。
「犬には狐だ」
「は?」
「寝るぞ。来い」
誘われるままお布団に収まり、犬には狐?と考える。
清藤がお世話になっている神様は犬の神様なのだろうか?
真剣に考えているのに、もぞもぞとお布団の中で玉彦が動く。
こんな時に何を考えているのよ、とばかりに頭を小突く。
「何故だ」
「あんた、何をするつもりよ」
「比和子が喜ぶこと」
「だったら大人しく寝てくれない?」
「何故だ」
「なぜって、そんな気分じゃないから!」
「明日は休みぞ?」
確かに。
翌日学校が休みだったらって約束はしたけど、明日は大事なことがあるでしょうよ!
「もう二週間も我慢していたのだ」
「……」
先週は女の子の日だったから、泣く泣く玉彦は諦めていた。
だからって今夜、しかも友達が数部屋離れたところで寝ているのにそんなこと出来ない。
それを理由に断れば、玉彦は澄彦さんが時々見せるような意地悪な笑みを浮かべた。
「では声を出すな。堪え切れなくなったら口づけをせがめ」
「馬鹿じゃないの!?」
私の訴えは虚しく却下され、静かにくぐもりながら夜は更けていく。
お互いを帰る場所だと刷り込めと澄彦さんは言っていたけれど、こんな生活がいつまで続くんだろう。
朝の一番風呂の湯船に浸かりながら考える。
そもそもこの方法が合っているのかどうかも判らない。
一応玉彦のお役目には大いに役立っているみたいだけど、私に恩恵はない。
澄彦さんは昼、玉彦は夜に正武家のお力を最大限に発揮できると言われていて、玉彦は現在その比重が同じになりつつあると実感しているようだった。
しかもグラフにすれば夜が減ってその分昼が伸びた訳ではなく、夜も伸びつつ昼がそれに追いついているという。
要するにお力の絶対量が増えていると。
それはただ単に彼が成長しているだけなのではないかと私は思うけど、玉彦がそう感じているのならそうなのかもとも思う。
とにかく私はこの毎週末の秘め事に一家言を持っていた。
私はただ一緒に居るだけでも満足なんだけど、玉彦はそうじゃないのかな。
せめて今週は玉彦の希望で、翌週は私の希望通りとか上手く折り合いを付けたいなぁ。
思いの外長風呂をしてしまった私は、慌てて身形を整えて朝餉が待つ澄彦さんの母屋へと急いだ。
到着するともう二人は揃っていて、私待ちだった。
「すみません、遅れました」
「いいよ、いいよ。女の子だもん。身支度に時間が掛かって当たり前だよ」
澄彦さんは必要な時以外はとにかく私に甘い。
それは私が澄彦さんの親友である光一朗の娘であり、百年振り以上経つ惚稀人であり、息子である玉彦の伴侶であるからだ。
須藤くんのお母さん曰く、歴代の正武家は惚稀人以外の嫁は跡取りが出来ると居なくなってしまうために、長く屋敷で生活をする女性が居ないので、私みたいな女性の惚稀人を家族として迎え入れるのは大変喜ばしいことらしい。
「さて、食事をしながらで申し訳ないけど、本日昼ほどに西の者たちが到着する。予定では三人と聞いていたが、付き人二人が増えて五人になった。諸々の準備に手が回りそうにないので、御門森から紗恵さん、上守からは夏子さんが応援に来てくれる。竜輝と希来里ちゃんも来るから母親たちが動いている間、比和子ちゃん、二人を宜しくお願いね」
「はい」
竜輝くんは小学二年生の南天さんの長男だ。
そして希来里ちゃんは光次朗叔父さんの長女で、私のいとこにあたる。現在魔の三歳児。
「昼は西の者たちもこちらで摂るそうだ。言祝ぎの儀は夕方からだから、昼過ぎから準備をするように。それまで比和子ちゃんは息子側の母屋から出ないこと。万全を期したいからね。あぁでも竜輝と希来里ちゃんは離れか。午前中は離れで、昼からは母屋にしよう。いいね?」
「はい」
とりあえず離れなら、松梅コンビもいるし、今日は紗恵さんも夏子さんもいる。
それに稀人たちもいるだろうから、何かあればすぐに対応できるはず。たぶん。
「あとは、息子よ。今回はくれぐれも、くれぐれも! 問題を起こしてくれるなよ」
「……わかりました」
澄彦さんは玉彦に念を押すけれど、どう考えたって前回のことを引き合いに出すなら、清藤から喧嘩を売ってくると思う。
一方的に彼が悪いなんてことにはならないと思う。
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