私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第七章 せんせい

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 五分ほどそのままでいたら曲が終わっておじさんは椅子を引いて、こちらに向き直る。
 とりあえず今は弾く気はないらしい。

「どうしたのかね?」

「あの、ちょっと失礼します」

 私は一言断ってから、眼に集中をした。
 おじさんは悲しそうに私を見ていたけど、抵抗する様子はなかった。
 音楽準備室が白く輝き歪み始め、おじさんの中にまだ入り込んでいないのにその思いや出来事が一瞬にして頭に流れ込み視えた。
 初めての感覚に頭の処理が追いつかないけど、理解は出来ている。

「先生、だったんですか」

「岸本と言います」

「上守です」

「須藤です」

 なぜか三人で自己紹介をする。
 おじさん、いや、岸本先生はゆっくりと立ち上がると、準備室にある先生の机に座った。

「もうずっと前からここにいます。今は西暦で何年ですかね?」

 聞かれて答えれば、微かに笑う。

「もうそんなに経ちますか。久しぶりに生徒と話をしました」

 懐かしく遠い目をして岸本先生は窓の外を眺めた。
 穏やかそうな先生は、きっと生徒に好かれていたに違いない。

「そろそろね、成仏したいんですよ。もう満足しました。でもねお迎えが一向に来ないのです。学校内に何かがいるせいで、来てくれないのです」

 先生のため息交じりの言葉に、鳥肌が立った。
 鏡の付喪神が言っていた。
 自分でも手に負えない何かが校内にいるって。
 ソイツってもしかして正武家の領分なんじゃ……。

「上守さん?」

 心配そうに考え込んでいた私を覗き込む須藤くん。
 あとで須藤くんにも伝えておかなくては。
 もしかしたら、玉彦の出番が回ってくる。
 そうしたら彼もそれに対峙するはずだ。

「あ、うん。大丈夫。ちょっと待ってて。岸本先生も少しだけ待っててくれますか?」

 二人に背を向けて、ポケットからスマホを出した。
 澄彦さんに買ってもらった最新の。
 私はそれを耳に当てて、師匠である御門森九条さんに電話した。
 以前、竹婆は神守の眼について言っていたことがある。
 神守は禍なるもの以外は正武家の力を借りずにどうにかすることが出来たって。
 唯一それだけが正武家に劣っていたって。
 だからもしかしたら、この眼を上手く使えば成仏というか祓う、じゃないな、先生を送り出すことが出来るんじゃないだろうか。
 数回の呼び出しの後に九条さんが出た。
 それだけでなぜか安堵する。

「すみません。上守比和子です」

「知っています。そう画面に出ていました」

 九条さんの独特な言い回しを気にもせず、私はすぐに本題を切り出した。
 すると九条さんは楽し気に向こうで笑い出した。

「君は何とも面白いことを考える。祓うと送り出すは別物と考えているんだね?」

「はい」

 祓うって強制的だし、送り出すは本人の了解のもと納得済み、というのが私の考えだ。

「そうですか。まぁ、気持ちが大事ですからね。では武雄先生の中に入って、彼の手を握り、上方を見なさい。そして何かが視えたなら、それに向かって彼の手を投げなさい」

「それだけですか?」

「逆はいけません。下方を見て、下に降ろせば君が言うところの地獄に行きますよ」

「わっ、わかりました。ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ君にお礼を言わなくてはと思っていたのですよ。曾孫の件、大変お世話になりました。御倉神様には揚げを献上しました」

 恐縮しまくる私に九条さんは、また何かあれば連絡をと言って通話を切った。
 それにしても御倉神。
 色んな所で揚げを食べている。
 あれ以来私の前には出てこないくせに。
 ポケットにスマホをしまって、両手で頬を叩く。

 さぁ、神守の眼の出番だ。
 恐らく初めて対象物の役に立てる。

 振り向くと須藤くんが先生と談笑している。
 こうしてみると本当に生きている人みたいだ。

「あのぅ、岸本先生。今日、今ここで成仏してみますか?」

 恐る恐るそう言えば、先生は驚いて目を見開いた。

「出来るのですか!?」

「今師匠に確認したら、私でも出来るみたいなので送り出させていただけますか?」

「願ったり叶ったりですよ。私が視えて話まで出来るとなると、そういうことまで出来るんですねぇ」

 感心したように頷く先生に、ついでにちょっと聞いてみる。
 この先生、多分九条さんを知っている。

「あの、御門森九条さんってご存知ですか?」

「九条くん? 知ってるよ。私の初めての教え子だよ」

 マジか。
 さっき九条さんは岸本先生を武雄先生と呼んだ。
 私は名字しか知らないから違和感を覚えていたのだ。
 てゆーか九十四歳の九条さんの先生だったなんて、開いた口が塞がらない。

「私の師匠ってその九条さんなんです」

「そうですか……。じゃあ君は御門森の?」

「いえ、どちらかと言えば正武家です」

「……そうですか。まさか正武家様の方にお世話になるとは」

 先生の口ぶりに、正武家はこの五村の人たちにとって本当に敬られていると感じた。

「では、先生。行きましょうか」

 私が正面に立つと、先生は少しだけ名残惜しむ様に辺りを見渡す。
 そしてここではなく、音楽室の教室が良いと希望するので、私たちは準備室を出た。

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