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第七章 せんせい
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しおりを挟む放課後の実習校舎は生徒が居ない。
いつもなら疎らにでも居るはずなのに。
廊下を曲がり、須藤くんは何を思ったのか止まる。
そして自分の結わえていた長い髪の結び目から下を、ばっさりと持っていたカッターで切り落とした。
髪の束を無造作に廊下に投げ捨て、再び走り出す。
階段を降りて二階。もう一つ降りて一階。
走り出そうとした私たちの目に、向こうから駆けてくる袴姿の玉彦と豹馬くん。
二人は一瞬須藤くんと目を合わせて頷き合うと、止まることなく階段を駆け上がっていく。
いま逃げてきたのに、私は思わず後を追いそうになり須藤くんに強く手を引かれた。
「玉彦様のお声が掛かるまでここで待機だ」
「でも!」
「待機だ」
須藤くんの強い言葉に、私は黙る。
正武家のお役目の範疇に私の我儘は通用しない。
少しだけ乱れていた呼吸を整えた須藤くんは、だいぶん短くなってしまった髪に手をやり、涼しくなった首元を撫でている。
「須藤くん、髪、どうして……?」
「さっきのあれ、人を取り込んでるような感じだったでしょ。だから、身代わり。足止め出来れば上々。僕の今日の役割は上守さんを守ることだから、これが正解」
「だったら私の髪使えば良かったのに」
無駄に長いし、そろそろ腰上の長さから肩ぐらいまで切ろうと思っていたのだ。
いつもは結い上げているから邪魔にはならないけど。
すると須藤くんは首を振った。
「それはダメだよ。あれが何か解らないし、取り込まれた物を媒介にして上守さんに被害がないとも限らない」
それは須藤くんも同じだと思う。
「あとね、そんなことしたら僕が玉彦様に殺されるから」
殺されるまではいかないにしても、不機嫌にはなるかも……。
でも髪は伸びるし、命の方が大事だよ。
「ちなみに玉彦様は黒髪の長い女の子が好きなんだよ」
「え?」
「この前言ってたよ。まぁ、うん。確かに言ってた」
何だか嫌な予感。
玉彦、ぽろっと何か余計なことを須藤くんに言ったのではないだろうか。
「おーい。こーい」
階上から豹馬くんの呼ぶ声が聞こえたので、私たちは辺りを警戒しながら三階へと戻る。
恐る恐る先ほど須藤くんが髪を投げ捨てた場所へ行けば、片膝をつく玉彦と豹馬くんが難しい顔をしていた。
「須藤、これはお前のだな?」
玉彦が髪の毛を一本つまむ。
というか、髪の束が無くなり一本しか残っていなかった。
さっきの奴がきっと食べちゃったんだ……。
「先ほど唐突に気配が出た。こちらへと向かう途中で鈴が鳴り出した」
時間的に言うと私が岸本先生の中にいた頃だ。
もしかして触発されて出てきた?
そして気配を感じたという玉彦。
道理で鈴を鳴らしてからこちらへ到着するのが早かった訳だ。
しかも彼が気配を感じるということは、つまりそういうことだった。
「こちらが近づくと消えた。今はもう居ない。何を視た」
私と須藤くんは視たものを互いに補いながら説明をする。
私には丸いものの上しか視えていなかったけれど、須藤くんは走りながら丸の下に白く太いロープのようなものもあったと言っていた。
「厄介だな……。相当に知恵がある。敵わぬと思い逃げる判断ができる。さて、戻るか」
「え、ちょっと待ってよ! あんなのが学校に居て大丈夫なわけ!?」
早々に階段を降り始める玉彦の背中に私が問い掛ければ、面倒臭そうに振り返った。
「今はその時ではない。須藤が髪をくれてやったのだ。暫くは大人しいだろう」
「……次の最後の六不思議。多分アイツなんだけど」
私がそう告げると、三人は顔を見合わせてがっくりと肩を落としたのだった。
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