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第七章 せんせい
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しおりを挟む「ねぇ、玉彦」
「為らぬ」
「玉彦様」
「為らぬ」
「玉ちゃん」
「やめろ」
恒例の私の部屋での会話だ。
玉彦は私にもう六不思議の解明は諦めろという。
だったら協力してよ、とお願いしてみたものの却下され続けている。
こうなれば私にだって考えがある。
「わかった。玉彦も豹馬くんも須藤くんも手を引くって訳ね?」
「諦めろ、比和子。あれは俺が祓う」
「そうじゃなくて、視たいの!」
「無理だ」
「じゃあせめて見届けさせてよ……」
「為らぬ。危険だ」
この会話をもう数回繰り返している。
正武家のお役目の範疇だって理解はしているけど、私の眼に反応して出てくるあたり、何かあると思うのだ。
「……部屋から出てって」
「もう一度言え」
「出てって」
「断る」
「じゃあ私が玉彦の部屋で寝る」
枕を抱えて廊下に出れば、すぐさま背後から捕獲されて部屋に戻される。
「比和子。為らぬものは為らぬ。聞き分けろ」
「わかったわよ。じゃあ私も玉彦に為らぬって言うわ」
「何をだ」
「部屋に入っては為らぬ。断っても為らぬ。身体を求めても為らぬ」
玉彦は唖然として捕獲していた腕を弛めた。
「比和子……」
「話しかけても為らぬ。ならぬならぬならぬってならぬ星人かっつーの」
「相分かった。では出てゆく。だがこれだけは覚えて置け。全ては比和子を失わないためのものだ」
「……出てって」
音も無く玉彦が立ち去り、まだ温もりが残るお布団に頬擦りする。
私だって玉彦を失わないために、眼をものにしたいのに。
お互いがお互いを思い合っているのに行動がかみ合わない。
これは喧嘩というものなのだろうか。
意見の食い違いで、私が一方的に癇癪を起してるだけのような気がする。
あーもう。駄目だ。
私は起き上がって、玉彦の部屋へ謝りに行くことにする。
喧嘩してでも話し合っていこうって、決めていたのに。
部屋から出て行けだなんて言うべきではなかった。
これでは話し合う以前の問題だ。
玉彦の部屋の前で襖を叩くのを躊躇する。
起きていれば薄明かりが漏れているはずだけど、今はない。
もう寝ているのだろうか。
明日の朝にした方が良いかな……。
でもこのままじゃ気になって眠れないし。
薄く隙間を開けて覗き込んでみる。
真っ暗で良く解からない。
「……玉彦? 寝ちゃった?」
声を掛けても返事がないので諦めて部屋に戻ることにする。
本当に寝ていたのか、腹に据えかねて返事すらしたくないのか。
廊下をとぼとぼ歩いていると、不意に鈴が鳴った。
私の鈴は今、部屋に置いてきている。
これは直に聞こえてくる鈴の音だ。
慌ててとりあえず自分の部屋に戻ると、消してきたはずの電気が煌々とついている。
スパンと襖を開ければ、机の上に紅茶セットを置いてこちらを振り向く玉彦。
「どうにもお前は腹が減ると不機嫌になるようだ」
「言われてみればそうだけど、何やってんの」
「夜食は嫌がるだろう。腹を温めれば少しはマシだ」
「あ、うん。ありがと」
先ほどの会話がまるっきり無視されているので、謝るタイミングを完全に逃してしまった私は、大人しく机の椅子に座って、立ったまま紅茶の葉を蒸している玉彦を見上げる。
「どうした」
「……さっきはごめんなさい」
片眉を上げて鼻で笑うと、玉彦は私の頭に手を乗せガシッと掴む。
「この俺に、この屋敷で、出て行けと言う度胸だけは認めてやろう」
「うっ……」
「先ほどのこと。俺は全く意に介していない。じゃれついて来た猫が爪を立てたようなものだ」
私は猫か……。
玉彦は掴んでいた手を弛めると、私の髪をサラサラと流して遊んでいる。
「そう言えば、長い黒髪の女の子が好きなんだって?」
「……誰から聞いた」
少しだけムッとして、玉彦はカップに紅茶を注ぎ入れて私に勧めた。
「須藤くん」
「お前たちは何の話を学校でしているのだ。酒でも呑んでいたのか」
「え? いや、普通に須藤くんが髪切っちゃって、だったら私の使えば良かったじゃんって話からだけど?」
「……」
無言でカップに口をつけた玉彦は、私と視線を合わさずに終いには背を向けた。
「ちょっと。そっちはどういう話の延長上でそういう話になったのよ」
「覚えておらぬ」
「……出て行け」
「……男同士の話だ」
「ふーん。まぁ別に良いけど。明日須藤くんに聞くし」
「……止めておけ。白い肌には長い黒髪がそそるというだけのことだ」
「……あんた、まさか」
「勘ぐるな。俺が比和子のその様な話を吹聴すると思うか。勿体無い。豹馬の話からそのような話題になり……」
「いや、もう良い。聞かなかった事にする」
馬鹿馬鹿しい。
ほんっと男子って集まれば下ネタの話をしているんだろう。
でも玉彦もそういう輪の中に入っているとは意外だった。
「一言付け加えれば、長い髪ではなく、比和子であればたとえ坊主頭であろうと」
「だからもう良いって」
「うむ。わかれば良い」
なぜか玉彦は私が納得したものとして頷いて、こちらを向く。
実際問題納得はしてないけど。
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