53 / 120
第七章 せんせい
7
しおりを挟む「さて、六不思議の件だが」
「あ、うん……」
また為らぬ星人が降臨するんだろうと思っていた私は身構えた。
「俺も譲歩する。だから比和子も譲歩しろ」
「え?」
「あれは俺が近づけば逃げるようだ。強制的に捕獲する方法があるにはあるが、時間が掛かる上に学校となると場が荒らされて意味を為さない可能性がある」
思ってもいなかった言葉に、私はカップを机に置く。
どういう風の吹き回しだろう。
「よって罠を張る」
「……ちょっと」
嫌な予感に眉の間に力が入る。
罠ってさ、落とし穴にしても、上から網を落とすにしても餌が必要なわけで。
「あんた、まさか」
私を餌に使おうとか考えてるんじゃ……。
白猿の時の様に。
「須藤を囮にする。奴は髪をくれてやって標的になり易くなっている。実行日は、来月の末だ」
「須藤くんは了解してるわけ!? しかも来月末って……」
美山高校の三日間に亘る学校祭がある。
「だから都合が良いのだ。学校祭ならば校内に潜んで夜を待てる」
学校祭の時には各クラスの展示物で隠れやすく、警備員さんもそんなにはしっかりと見回らない。
夜を待つのは、玉彦の力が最大限に発揮できるから。
「でも、正武家として美山高校に事情を話せば夜に自由に出入り出来るんじゃないの?」
「出来る。が、それをするには父上を通さねばならぬ」
一々説明をするのが面倒なのか、首を突っ込まれたくないのか。
恐らくきっとどちらもだろう。
正武家のお役目なんだから、澄彦さんに報告くらいは必要だと思うんだけど。
玉彦に聞いてみると、時と場合に寄るらしい。
依頼者がいる場合は澄彦さんに報告し、今回のような依頼者がいない場合は独自に動いたとしても問題はない。
ちなみに以前私が関係した、九児や竜神の荒魂などは玉彦の独断で解決したものにあたる。
「それにしても期間中に校内で暴れられたら、せっかく皆で作ったものとか壊れちゃうんじゃないかな……」
「そうすると最終日だな」
確かに、最終日の夜ならもう学校祭関係の物はお役御免なっている。
「それで私は何を譲歩して、玉彦は何を譲歩するの?」
「比和子は眼を使わないと約束しろ。その代り俺は比和子がその場に居ることを認める」
「うーん……」
「お前はまだ邪悪なモノを視たことがない。万が一、中に取り込まれてしまった場合、どのようにするつもりだ? 俺は順を追い、小物から経験を重ね、揺るがない地盤を固めつつ成長をして欲しいと思っている。何をそんなに急いでいるのだ」
「何をって……」
九条さんがチラリと口にした『これから訪れるその時』。
それがいつなのか具体的には判らないけれど訪れることは確かなわけで、早く習得することは悪いことではないはずだった。
でもよくよく考えれば、玉彦の稀人である豹馬くんや須藤くんは彼と同じく進学組で、正武家のお役目を仕事とするのはまだ先だ。
玉彦は既にかなり昔から担っているけれど。
「私が鈴白にいる間に出来るだけって思うのはおかしい?」
十一月末には通山へ帰る。
それを理由に答えれば、玉彦は何とも微妙な顔をする。
「ならば尚のこと。お前、何かを隠しているな?」
「どっ、どうしてそう思うわけ?」
「あと数年もすればずっと鈴白に居るのだぞ? それを今から焦るとは何か裏がある。考えられるのは師である九条の死が近い。もしくは……」
「何よ、なんなのよ」
「神守の眼を必要とする事案が近々ある。と九条に告げられた。どちらにせよ九条が絡んでいる」
「ぐっ……」
無駄に勘が良い玉彦を見つめると、あからさまに疑いの目を向けている。
けれど私がそれ以上肯定も否定もしないと解り、ゆっくりと視線を落とした。
「それは今回のことに絡んでいるのか」
「……今回のことは関係ないよ」
「では深く追及はするまい。九条とのことは稀人の範疇で、俺が口を出すべきではないと心得ている。だが比和子に累が及ぶのなら、九条であろうと俺は打払う」
思いがけない玉彦の強い不穏な言い回しに、私は困ってしまう。
この先、玉彦と共に在るということは、正武家のお役目の災難に私が巻き込まれてしまうことも無いとは言い切れない訳で、それを自分でも何とか、例えば三十六計逃げるに如かずでその方法の一つとして神守の眼を使うために九条さんに師事をしている節もあるわけで。
上手く言葉にして伝えられないもどかしさに、俯きつつ頬が膨らんでいく。
「比和子。問題は一つずつ解決していけば良い。まずは蔵人。次に最後の六不思議。神守の眼のことは後回しにするわけではない。ゆっくりと着実に身に付けてゆけ。……いつかのその時までに」
玉彦の言葉にハッとなって顔を上げれば、彼は紅茶セットのトレイを持って部屋から出て行くところだった。
彼が言ったいつかのその時は私が考えているこれから訪れるその時を指しているのか、九条さんが私に言ったと彼が考えている神守の眼を必要とする事案のことなのか、わからなかった。
そしてこの日から、玉彦が夜に私の部屋を訪れることはなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる