私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第七章 せんせい

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「さて、六不思議の件だが」

「あ、うん……」

 また為らぬ星人が降臨するんだろうと思っていた私は身構えた。

「俺も譲歩する。だから比和子も譲歩しろ」

「え?」

「あれは俺が近づけば逃げるようだ。強制的に捕獲する方法があるにはあるが、時間が掛かる上に学校となると場が荒らされて意味を為さない可能性がある」

 思ってもいなかった言葉に、私はカップを机に置く。
 どういう風の吹き回しだろう。

「よって罠を張る」

「……ちょっと」

 嫌な予感に眉の間に力が入る。
 罠ってさ、落とし穴にしても、上から網を落とすにしても餌が必要なわけで。

「あんた、まさか」

 私を餌に使おうとか考えてるんじゃ……。
 白猿の時の様に。

「須藤を囮にする。奴は髪をくれてやって標的になり易くなっている。実行日は、来月の末だ」

「須藤くんは了解してるわけ!? しかも来月末って……」

 美山高校の三日間に亘る学校祭がある。

「だから都合が良いのだ。学校祭ならば校内に潜んで夜を待てる」

 学校祭の時には各クラスの展示物で隠れやすく、警備員さんもそんなにはしっかりと見回らない。
 夜を待つのは、玉彦の力が最大限に発揮できるから。

「でも、正武家として美山高校に事情を話せば夜に自由に出入り出来るんじゃないの?」

「出来る。が、それをするには父上を通さねばならぬ」

 一々説明をするのが面倒なのか、首を突っ込まれたくないのか。
 恐らくきっとどちらもだろう。
 正武家のお役目なんだから、澄彦さんに報告くらいは必要だと思うんだけど。
 玉彦に聞いてみると、時と場合に寄るらしい。
 依頼者がいる場合は澄彦さんに報告し、今回のような依頼者がいない場合は独自に動いたとしても問題はない。
 ちなみに以前私が関係した、九児や竜神の荒魂などは玉彦の独断で解決したものにあたる。

「それにしても期間中に校内で暴れられたら、せっかく皆で作ったものとか壊れちゃうんじゃないかな……」

「そうすると最終日だな」

 確かに、最終日の夜ならもう学校祭関係の物はお役御免なっている。

「それで私は何を譲歩して、玉彦は何を譲歩するの?」

「比和子は眼を使わないと約束しろ。その代り俺は比和子がその場に居ることを認める」

「うーん……」

「お前はまだ邪悪なモノを視たことがない。万が一、中に取り込まれてしまった場合、どのようにするつもりだ? 俺は順を追い、小物から経験を重ね、揺るがない地盤を固めつつ成長をして欲しいと思っている。何をそんなに急いでいるのだ」

「何をって……」

 九条さんがチラリと口にした『これから訪れるその時』。
 それがいつなのか具体的には判らないけれど訪れることは確かなわけで、早く習得することは悪いことではないはずだった。
 でもよくよく考えれば、玉彦の稀人である豹馬くんや須藤くんは彼と同じく進学組で、正武家のお役目を仕事とするのはまだ先だ。
 玉彦は既にかなり昔から担っているけれど。

「私が鈴白にいる間に出来るだけって思うのはおかしい?」

 十一月末には通山へ帰る。
 それを理由に答えれば、玉彦は何とも微妙な顔をする。

「ならば尚のこと。お前、何かを隠しているな?」

「どっ、どうしてそう思うわけ?」

「あと数年もすればずっと鈴白に居るのだぞ? それを今から焦るとは何か裏がある。考えられるのは師である九条の死が近い。もしくは……」

「何よ、なんなのよ」

「神守の眼を必要とする事案が近々ある。と九条に告げられた。どちらにせよ九条が絡んでいる」

「ぐっ……」

 無駄に勘が良い玉彦を見つめると、あからさまに疑いの目を向けている。
 けれど私がそれ以上肯定も否定もしないと解り、ゆっくりと視線を落とした。

「それは今回のことに絡んでいるのか」

「……今回のことは関係ないよ」

「では深く追及はするまい。九条とのことは稀人の範疇で、俺が口を出すべきではないと心得ている。だが比和子に累が及ぶのなら、九条であろうと俺は打払う」

 思いがけない玉彦の強い不穏な言い回しに、私は困ってしまう。
 この先、玉彦と共に在るということは、正武家のお役目の災難に私が巻き込まれてしまうことも無いとは言い切れない訳で、それを自分でも何とか、例えば三十六計逃げるに如かずでその方法の一つとして神守の眼を使うために九条さんに師事をしている節もあるわけで。
 上手く言葉にして伝えられないもどかしさに、俯きつつ頬が膨らんでいく。

「比和子。問題は一つずつ解決していけば良い。まずは蔵人。次に最後の六不思議。神守の眼のことは後回しにするわけではない。ゆっくりと着実に身に付けてゆけ。……いつかのその時までに」

 玉彦の言葉にハッとなって顔を上げれば、彼は紅茶セットのトレイを持って部屋から出て行くところだった。
 彼が言ったいつかのその時は私が考えているこれから訪れるその時を指しているのか、九条さんが私に言ったと彼が考えている神守の眼を必要とする事案のことなのか、わからなかった。

 そしてこの日から、玉彦が夜に私の部屋を訪れることはなくなった。

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