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第八章 ろくおぬ
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しおりを挟む「それでね、私考えたのよ。で、閃いたの。みんなが幸せになれる方法。だからあんたも協力しなさい。絶対に悪いようにはなんないから」
私が胸を張って言えば、蔵人は眉間に皺を寄せる。
ただの人間に何ができるのだ、と。
「蔵人。正武家はあと数年で隆盛の時期を迎えるわ。そうなればあんた、問答無用で祓われるわよ。そうなったら二度と鈴白の君とは会えないし、感じることも出来ない」
「そういう最期であるならば、仕方ない……」
「だーかーら! そういうことになんない様に今、私に協力しなさい。何を諦めてんのよ。馬鹿じゃないの。鈴白、私の中で怒ってるわよ。不甲斐ないって」
私はある日の風呂上り、鏡に向かう時に鈴白を視た。
背後に重なる微かな鈴白。
私の神守の眼が力を増してきていたので、彼女が私の身体を動かせることは出来なくなっていた。
そして対話してみた。
彼女の想いが切なるもので、共感した私は彼女と何日も相談を重ねて、今日を迎えたのだ。
「鈴白の君が……私を不甲斐ないと……」
蔵人は微かに口角を上げた。
もしかしたら生前、二人の間にもそんなやり取りがあったのかもしれない。
「だからね、協力してよ。私だってあんたがどうにかならないといつまで経っても通山へ帰れないんだからね」
「何を協力すればいい?」
ようやく聞く耳を持った蔵人に、私と鈴白の計画を話せば彼はうーんと唸ったきり黙り込んでしまった。
正直、この計画が上手くいくのかどうかはひよっこの私に掛かっている。
それに正武家の協力を得られるのかどうかもわからない。
でも蔵人が首を縦に振りさえすれば、澄彦さんや玉彦が否定したとしても私は絶対に折れない。
これは、私の神守としての役割なのだ。
「成功、するのだろうか」
「やってみなくちゃ何とも言えないわ。でも、絶対に何とかする。だから、お願い!」
私は正座し直して、迷っている蔵人に頭を下げる。
一瞬戸惑って彼は私の頭にポンと手を乗せた。
優しく、ただひたすらに優しく感じる。
「私たちが鈴白に逃げてきた際に、神守の巫女だけは正武家の意思に加わらなかった。その子孫がそう言うのなら、信じてみよう」
「なにそれ」
思いがけない蔵人の言葉に、私は彼を見る。
正武家は帝の命により、彼らを鬼の敷石に封じた。
それに参加しなかった神守の巫女?
この五村の地で、正武家に逆らっても大丈夫だったの?
「伝わってはいないのか? 神守の者、とりわけ女性である巫女はその昔、正武家の……」
蔵人はそこで言葉を切って立ち上がると、後方へと飛びずさった。
その瞬間、ぞわりと背後から悪寒が走り、鳥肌が全身を覆った。
激しい怒りの感情に振り向けば、そこには弓に矢を番えた玉彦が立っていた。
私の歌が聴こえなくなったから……。
蔵人の気配を関知したから……。
「止めて! 玉彦! 蔵人! 明日、月が天辺に来たら私は最初の地で待つ!」
そう叫んだ直後に玉彦から放たれた矢は蔵人の頬を掠り、蔵人は力強い眼差しで私に頷くと屋上から飛び降りた。
「待つとはどういう事だ、比和子!」
玉彦はゆっくりと正座していた私に歩み寄り、信じられないものを見る目を向けた。
私はそのままの姿勢で彼に向き直り、再び頭を下げた。
「……正武家玉彦様にお願いがあります」
そう言うと玉彦の気配が強張るのを感じた。
いつもの玉彦と私の慣れ合った関係ではなく、正武家と神守としての一線を置いた関係を今の私が要求していると理解して。
戸惑う玉彦は片膝をついて、私の肩に手を乗せた。
それは先ほどの蔵人ほどの優しさはなく。
悲しみと怒りと、私に対する虚しさが在ったように思う。
「屋敷で話を聞く。支度せよ、神守の者。当主の間にて待つ」
彼はそう告げると、身を翻して立ち去っていった。
その背中に追い縋ることは、今の私には出来ない。
してはならなかった。
正武家の行いで幾歳も離れ離れだった蔵人と鈴白のためにも、してはならなかった。
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