私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第九章 おやくめ

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 雪之丞曰く、小さな隠と女の子の隠は多分説得に応じるだろうと。
 けれど両面宿儺になってしまった双子の隠は暴れ出すだろうと。
 いくら蔵人でも両面宿儺を一人で相手にするのは無理だと言い切った。

 確かにあの時は玉彦と宗祐さん、南天さんに須藤くんのお母さん。
 しかも御倉神が登場してようやくだったのだ。
 では一体今回はどうするのかというと、雪之丞が加勢してくれるという。
 それは何とも頼もしい申し出だったけれど、豹馬くんが難色を示した。

「隠二人が次の敷石へ来ると、信用できるか? そのまま逃げてもおかしくないぞ」

「うーん……」

 私と豹馬くんは赤石の敷石から緑林の敷石へ車で移動する。
 その為に玉彦と南天さんはあの小道で待機している。
 蔵人も乗って行くというならそれでも良かったし、山を自力で越えていくというならそれでも良かった。
 けれど、流石に雪之丞は車には乗せられない。
 走って後を追わせても良かったけれど、道路をその体躯で走られれば嫌でも人目に付く。
 いくら田舎でも、だ。

「決めろ、上守。お前のお役目だぞ」

「うっ……」

 三人の視線を受けて私は冷や汗が出る。
 全く良い案が浮かばない。
 ここで雪之丞を送り、両面宿儺と頑張って対峙する。
 それか隠二人を信用して送り出す順番を変え、雪之丞に加勢をしてもらう。
 私的には後者を選びたい。
 けれどリスクが高すぎる。

「担ぎましょうか?」

「え?」

 考え込んでいた私に雪之丞がおずおずと言い出す。
 担ぐ?

「次の敷石まで山中を担いで移動しましょうか?」

「私と豹馬くんを?」

「えぇ、大した重さではないでしょう」

 私は勢いよく豹馬くんを振りかぶった。

「決めたわ!」

「おい、マジかよ……」

「行くわよ、豹馬くん!」

 豹馬くんがげんなりして私を見つめる。
 だって一緒に移動すれば逃げられる心配もないし、山中を突っ切れば時間短縮にもなる。
 一石二鳥よ!

 私は蔵人に頷いて雪之丞が伸ばした腕に腰掛けた。
 持ち上げられて肩に移動し、頭の角に遠慮なく掴まる。
 目線の高さに若干ビビるけど、絶対に落とさないでねと雪之丞に念を押せば彼は笑って頷いた。
 そして豹馬くんは、担がれることを辞退して自力で追い掛けると言ったけれど強制的に雪之丞の肩に乗せられていた。

 そして私たち四人は次の敷石へ向かう前に、玉彦と南天さんが待つ小道の入口へと戻る。
 木立ちを縫う様に走り抜け二人の前に飛び出せば、南天さんが太刀を構えてその背後に顔を顰めた玉彦が待っていた。

「どういう状況だ。なぜ送り出しておらぬ」

「ちょっと計画変更したから! 私、雪之丞さんで移動する。次は緑林に行くわ!」

「……比和子」

 雪之丞の肩の上から玉彦を見降ろして伝えれば、彼が両腕を私に伸ばしたので飛び降りた。
 受け止められてホッと安心する。
 玉彦は私をしっかり立たせて怪我をしていないか確認をしてから、腕を組んだ。

「変更の説明をしろ」

 不服そうな玉彦は一思案して、了承してくれた。
 そして次の緑林でも鳴黒でもなく、藍染の鬼の敷石で待つと言った。
 理由を聞けば、どうせ暴れるのならいても構わないだろうと言いのける。
 そりゃあそうだけど。

 私が再び雪之丞の肩に戻れば、玉彦はそれを微妙な表情で見上げた。
 次に隣にいた蔵人を視据えて、目を細める。

「彼女に何かあれば、正武家の私が打払いに出張る。心して置け」

「……承知した」

 答えた蔵人が身を翻して山中へ姿を溶け込ませる。
 そして私と豹馬くんを担いだ雪之丞もそれを追う。
 私は振り向いて玉彦に手を振ると、落ちない様に再び角を握り締めた。

 森の木々が左右に分かれるような感覚で、闇夜を駆け抜ける。
 枝が頬を打ちすえることもあったけれど、必死にしがみつく私にはそれどころではない。
 遊園地のジェットコースターよりもスリルがあった緑林の敷石への行程は、走ってもいないのに到着してから息を調えるのが大変だった。
 敷石に手を付いて腕時計を取り出せば、予定時間の半分でここまで来ていた。

「大丈夫か、上守」

「うん、大丈夫」

 同じものを味わっていたはずなのに、豹馬くんはピンピンとしていた。
 稀人って修行しているのもあるけれど、そもそもの身体能力が高いのかもしれない。

 ようやく身体が落ち着いて、私は袖からさっきコンビニで買ったお菓子を取り出した。
 飴とかチョコとかマシュマロとか。
 それを二度見した豹馬くんは、もう何も言うまいと口を噤む。
 そして蔵人と雪之丞を両側に控えさせて、敷石に小瓶から血を垂らすと中からすぐに小さな隠が飛び出して両手足で喜びを表す様に蔵人に抱き付いた。

「蔵人さまー!」

 蔵人は子供を愛おしむ様に頭を撫でる。

「寂しい思いをさせてしまったな、久吉」

 久吉と呼ばれた隠は、何でもないという風に首を振って蔵人に撫でてとせがんでいた。
 この子はどうして子供なのに蔵人と共に鈴白へ逃げたのだろう。
 大した戦力にもならなかっただろうに。

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