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第十二章 けつれつ
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しおりを挟む寝ている私を強くきつく一度だけ抱きしめ、玉彦は朝の修練の為に部屋を出て行く。
私はそれで目が覚めても二度寝をするのがお決まりだったけれど、今日は彼の足音が遠ざかるのを待って起き上がった。
壁時計を見ればきっかり三時四十五分。
よくアラームをセットしないで毎日同じ時間に起きられると感心してしまう。
玉彦は自分の部屋に戻って、それからさっとシャワーに入って着替えて裏門から出て行く。
澄彦さんは朝の修練はもう卒業したと言っていて、裏門にいる稀人の誰かと共に玉彦は修練している。
最初は修練と聞いても具体的に何をしているのか想像も出来なかった。
準備運動から始まって軽くランニング。と言っても裏門から山道を下って石段の前を通り、ぐるーっと田んぼのあぜ道を回ってお祖父ちゃんの家の近くからまたこちらへと戻って山道を上がる。
距離にしておよそ六キロと須藤くんが教えてくれた。
毎朝そんなに走るなんて私には出来ない。
一日で、いや走っている途中で挫折すると思う。
再び裏門に戻ってきて、本殿の前にある拓けた場所に移動すれば、今度はそこで組手やら何やらと宗祐さんが稽古をつけてくれる。
玉彦と豹馬くんは小学生の時から宗祐さんや南天さんに鍛えられていたらしく、四年前のあのお祭りでの大乱闘を思い出せばあっさりと終わってしまったのも納得だ。
素手に関しては宗祐さんや南天さんが師であり、剣術に関しては澄彦さんが師であるらしい。
思い起こせば澄彦さんは大体の場合、太刀を振るっていた。
白猿の時も蔵人の時も犬外道の時も。
玉彦も鬼の敷石の時には太刀を振るっていたけど、素手と太刀だとどちらが得意なんだろう。
そうして朝の修練は六時半で終わり、そこからお風呂に入って、朝餉で七時。
車で通学していた時は八時にお屋敷を出ていたけれど、自転車通学に戻した玉彦は七時半にはもう居なくなる。
私はというと六時に起きてそこからシャワーに入って制服に着替えて、一緒に七時に朝餉。
玉彦を見送ってから、部屋に一旦戻り、表門を出て石段を下って車でゴーだ。
なので朝は玉彦とはほぼほぼ擦れ違いだ。
学校では同じクラスだから一緒だけど、同じ空間にいるだけで健全である。
お昼は中庭でみんなで食べるのが当たり前になっていて、午後の自習時間は一人で黙々と頑張る。
放課後は部活があれば参加して本を読んでだけど、今の期間は十七時まで自習時間が延長されているので、部活は自動的に休止状態になっている。
で、十九時まで学校祭の準備をして帰宅。
私はそこからまた車で、玉彦は自転車でみんなと帰宅。
一日の汗を流して、夕餉は二十時。
ちなみに澄彦さんは一人が嫌なので、晩酌の時間を遅らせてでも私たちを待って夕餉を頂いている。
二十一時からは自分の部屋でゆっくりと休む。
そうしていると大体二十二時位から玉彦が部屋に来るので、零時まで玉彦の千夜一夜物語を聞く。
零時就寝。
そう考えると、玉彦って四時間くらいしか眠っていない。
夜中にお役目が入るともっと短い。
どうやって身体を休めているんだろう。
しかも学校が休みの前日は私と夜明け近くまで起きている。
……こんなんじゃ過労死すると思う。
そんな玉彦と私の一日の流れを考えながら、私は今日彼と同じ時間に起きてみた。
身体を伸ばして全身に血を巡らせる。
節々に昨日のダメージが残っていて、思わず呻いた。
お布団を上げて、雨戸と障子を引いて朝の空気の入れ替えをすれば、庭に寝間着姿の多門がいた。
長い髪はそのまま垂らされていて、ボサついている。
袂に手を突っ込んで大きな欠伸をした瞬間に私が部屋の雨戸を開けたものだから、何ともお互い間抜けなタイミングだった。
「なっ、あ、おはよう」
私は動揺して、何であんたがここにいるのよ、と言いそうになった。
多門は昨晩から澄彦さん預かりで、澄彦さん側の母屋で寝泊まりをすることになっている。
母屋同士は庭が繋がっているので、朝の散歩をしていた多門がこちら側まで来てしまったのだろう。
「おはよー。案外早起きなんだね?」
「ま、まぁね」
いつもは二度寝しちゃってるけどね。
「そこがあんたの部屋なの?」
多門が私の部屋を覗くように首を伸ばす。
見られたところで何もないけど、いい気分ではない。
「そうだけど」
「次代と一緒じゃないんだ?」
「え、うん。玉彦とは別だよ。当たり前じゃん」
「でも部屋から次代の匂いがする」
多門は目を閉じて深呼吸してからニヤリと笑った。
匂いで判るなんて、なにかそういう力があるんだろうか。
視える人がいるなら匂いで判る人がいてもおかしくはないけど。
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