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第十二章 けつれつ
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しおりを挟む「それは決別したってこと?」
「最初はね、そのつもりだったらしいよ。でも、数年で正武家に泣きついたんだ。今までは正武家の絶対的な加護の下でお役目をしていたから安全だったけど、新しい地ではそうではなかった。再び正武家の傘下に戻ることは赦されたんだけど、鈴白に居た時とは待遇が悪くなってしまって御門森の様に稀人を輩出することは出来なくなった。余程優秀か忠誠心がないと蹴られるようになった」
それで極稀にしか御門森以外の稀人はいないんだ。
「で、その時に正武家から一つのお力を貸与された。それが犬。遠く離れた地で清藤がお役目を果たせるようにって」
「貸与ってことはいつかは返さなきゃいけないの?」
「うん。清藤の血脈が途絶えるか、正武家から清藤は不要と判断されたらね」
正武家に命綱を握られているのに、この双子の兄弟ときたら玉彦や私に何てことをしたんだろう。
滅びるのが怖くないのか、それくらいでは不要とは言われないと思っているのか。
「だから清藤は正武家に対してその力を示す必要がある。不要と思われないために」
多門は私の考えなどお見通しのようだった。
不要と思われないために、あえて正武家に対して力を示す。
当主ではなく次代に対して。
ということは澄彦さんも清藤当主の主門と少なからずそういう因縁があるのだろうか。
「そう、だったんだ。でも力を示すにしたって、二対一は卑怯だと思うわ」
「あの時のことを言ってるの? だってあれは次代がオレ達を挑発したからだよ」
「あの玉彦がそんなこと!」
「するんだよ。比和子ちゃんは知らないかもだけど、あの次代は歴代の正武家の中でも群を抜いて好戦的だって父さんが言うくらいだ。それに頭も力もある」
どちらかというと好戦的なのは父親の澄彦さんの方だと思う。
嬉々として太刀を振るうし、あの蔵人に対してだって……。
でも雪之丞は玉彦のこと、阿修羅の如くって言ってたっけ……。
「次代はね、オレ達にこう言ったんだ。『所詮双子は二人で一つ』って。オレと亜門は一卵性じゃなくて二卵性の双子だ。だから二人で一つな訳がない。一人一人別なんだ。なのに、アイツは」
多門は思い出しても腹が立つようで、湯呑みを強く握り締めた。
今の玉彦からは想像できないけれど、四年前のあの我儘たっぷり自信たっぷりな命令口調の玉彦ならば言いかねないと思ってしまった。
それに多門の反応を見ていると、亜門と同じに見られるのが許せない感じがある。
もしかして仲が悪いんだろうか。
「二人揃って返り討ちにあって、清藤の力を示すどころか絶対的な正武家の力を見せつけられてオレ達はぐうの音も出なかったよ。あれがオレ達の世代の当主になると思うと身が竦んだ」
「うん……」
「よくあんな次代に嫁ごうと思ったね?」
「え?」
不意の質問に私は言葉が出なかった。
だって玉彦は玉彦で、それ以外の何者でもない。
「やっぱり惚稀人の縛りがあるから?」
あぁ、多門は知らないんだ。
惚稀人の本当の意味を。
惚稀人は正武家当主と添い遂げなくてはならないって考えてるんだ。
本当は彼らが初めて一緒に、共に在りたいって想った者がそうなるんだって知らないんだ。
そのことが喉まで出かかったけど、私は言わなかった。
「そんなの、関係ないよ。そもそも私は自分が惚稀人の意味を知る前に玉彦のこと好きだったし」
「ふーん。向こうはどうだったのかな?」
「同じだよ」
鈍感過ぎて自分の感情に気が付くのが遅かったみたいだけどさ。
それで一騒動あったのも今にして思えば、笑い話だ。
思わず口元が緩んだので、悟られないように湯呑みに口をつける。
「次代の本性を見てもその思いは変わらない?」
「変わらないわ。全部ひっくるめて玉彦だもの。正武家とかそんなの無しにして、その身一つでも私は玉彦がいいの」
「聞いてるこっちが恥ずかしくなるんだけど」
「言ってるこっちはもっと恥ずかしいわよ?」
言い返すと多門は肩を竦めた。
「で、どこまで話したっけ?」
「貸与された犬を返さないために、力を示すってとこ」
「あぁ、そうだった。そんなこんなで清藤は正武家から犬を貸与されて、現在に至る」
「あんた、投げ遣り過ぎない?」
「だって事実はこれだけだもん」
「そもそも犬って何なのよ。そんな何百年も長生きしてるって、神様かなんかなの?」
「……あぁ。空気が重たくなるなぁ。比和子ちゃん、外いこうよ。あの金魚池のとこ」
唐突に多門は移動を始めて、有無を言わさず玄関を出た。
外は秋晴れの朗らかな天気だった。
塀の向こうに紅葉盛んな鈴白の山々が見える。
多門は池のまえに足を投げ出して座った。
私は少しだけ離れて同じようにする。
彼は空を見上げて、穏やかに流れゆく雲を眺める。
「この話を聞いても、オレのこと嫌いにならない?」
「ならない。それ以前に好きじゃない。良くも悪くも普通」
「そっか……」
多門は自虐的に口元を歪め、目を伏せた。
さっきとは違い、私とは目を合わさずに話を始めた。
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