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第十二章 けつれつ
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しおりを挟む表門で一時の別れを惜しんで抱きしめ合っていると、黒いスーツを身に纏った多門が私たちを見て半目で呆れていた。
どうやら清藤では黒いスーツがお仕事用のようだ。
玉彦は私を腕に抱いたまま、多門を見据える。
「比和子に必要以上に触れるなよ」
「取って喰う訳じゃないし」
「信用ならぬ」
「だったら大事に箱に入れて持って行けよ」
「そう出来たらどれだけ良いか……」
玉彦は目を伏せて私の短くなってしまった髪を梳く。
それを見た多門は呆れを通り越して、逆に興味を持ってしまった。
「そんなに比和子ちゃんが好きなんだ?」
「その呼び方はやめろ。馴れ馴れしい」
「あの次代様がそんなに女に狂うとはねぇ」
「何とでも言え。比和子、何かあればすぐに南天の元へ行くのだぞ。最悪父上でも良い」
「わかった」
玉彦はこれ見よがしに私の額に一つ口づけて、振り返らずに石段を駆け下りた。
その後姿を私と多門は見送る。
玉彦が戻るまで四時間と少し。
そう考えるだけで、とりあえずは何とか心の平穏は保てそうだった。
「で、これから何すんの?」
「部屋で休むわ。だから多門も好きにすればいいよ」
部屋に戻る私の後ろを多門はずっと付いて来る。
子犬が飼い主にじゃれついているようだ。
「じゃあ比和子ちゃんと一緒にいる」
「あんた、私の話を聞いてた?」
「聞いてるよー。でも仕方ないじゃん? 澄彦様から惚稀人を守護せよって命じられたんだから。ここでは絶対的な命だもん。逆らえないじゃん?」
……澄彦さん。
なんて余計なことを。
部屋の前まで来て振り返ると、多門は何食わぬ顔をしている。
「私の部屋には入れないわよ」
「どうして?」
「どうしてって。嫌だからよ」
「どうして?」
「それは、それは……。そこまで多門を信用してないからよ」
「どうしたら信用してくれるの?」
多門の質問攻めに眩暈を覚える。
一つしか違わないのに、小さな子を相手にしているみたいだった。
それも腹黒の確信犯。
「どうしたらって……」
そこで私は思い付いた。
そうだ。
多門に清藤のことを聞こうじゃないか。
誰も私にまだ教えてくれていないし、本人に聞くのが間違いないだろう。
「台所へ行こう。お茶でも飲みながら私と親交を深めるのよ!」
「わかったー。てか、そんなんで信用するの?」
「多門がきちんと私に腹を割って話をしてくれたらね」
「げっ。眼とか使うつもり?」
「そんな面倒なことしないわ。だって私たちには語る口があるでしょ」
私がそう言うと多門は納得した様で、大人しく再び後ろを付いて来る。
台所には南天さんが居て、澄彦さんから今日は多門が私に付くと聞いていたらしく、普段通りの対応だった。
南天さんは既に台所でのお仕事が終わっていたらしく、タオルで濡れた手を拭っていた。
「比和子さん。私はあちらに居りますので、何かあれば……」
「叫びます」
「わかりました。では、多門。よろしくお願いしますね」
「承知しました」
一度振り返って南天さんは少し離れたお仕事部屋へと消えて行く。
私はシンクでお茶の準備をしてから、多門と同じダイニングテーブルについた。
多門は両手を太ももの下に入れて、興味津々で私を見る。
「で、お茶飲んで何するの?」
「清藤のお話」
「うちの?」
「そう」
「どうして?」
「知らないから」
「何を?」
「全部」
「は?」
「私、清藤が西の者って呼ばれて、正武家の傘下にいるってことくらいしか知らないのよ」
私の告白に、多門はポカーンと口を開けた。
かなり意表を突いたらしく、私が彼の前に湯呑みを出すまで無言だった。
そして多門は立ち上る湯気越しに私を上目遣いで窺う。
「あのさ、今まで清藤を知らずにずっと皆の話を聞いてたわけ?」
「そう」
「知らなかったら、今回どうしてオレがここに呼ばれたのか意味不明だよね?」
「うん。ただ、犬が関係していたら清藤の出番なんだってことはわかったよ」
「……どこから? どこから説明が必要なわけ?」
「最初から?」
私の答えに多門は椅子に背中を仰け反らせた。
「マジかよー。え、マジで? 試してるわけじゃなく?」
「うん」
再び仰け反らせた多門は勢いよく戻って身を乗り出した。
私は少し身を引きつつ、湯呑みを持って啜る。
「清藤はね、正武家に仕える一族だ。御門森と同じく、昔は鈴白に居たんだ。でもね、野心溢れる清藤のご先祖様は鈴白を出て九州に拠点を置いた」
どうやら多門は私に清藤の歴史を最初から語る決断をしたようで、足を組み直してリラックスし始めた。
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